#68 囚世:乖離虚域 part12
短いす
まず水を身体に纏い、燃焼するフィールドからの継続ダメージを遮断する。
「水精霊、合わせて」
『───』
精霊術士。その一般的な評価は、「魔法使いより強い」が「コスパが悪い」ということ。
それなりの金と素材を要求する召喚用アイテムを用意し、同じく契約の為のアイテムを用意する。
そこまでしても契約出来るかは乱数、強い精霊となれば契約する為には更なるアイテムなどの労力が必要となる。
その癖して、精霊は1度破壊されてしまえばそれで消滅してしまう。
その上Aliceは、1度方向転換をして現在のキャラビルドを形成している。
最初は剣士系。故に、彼女の戦闘スタイルは少しそちら側に寄る。
本来精霊術士は、どちらかと言えば精霊を戦わせるような使役系の職業。しかし彼女は、並行して戦闘を行う。
「───ッ」
まず、小範囲に圧縮した高圧の水流を、古兵3人の頭にぶつける。急所を狙い撃ちする高速の一撃、不可避だ。
その強い衝撃は、強靭な戦士もを気絶させるに至る。
生成し使用可能な水量は、その精霊の等級によって決定されるが、自由度は無限。
「フン!」
フィールドは、幻鳥によって燃焼させられている。そこは、熱エネルギーの宝庫だ。
その熱エネルギーを吸収する。
精霊の水は気化し水蒸気となる。
動き出した古兵たちの攻撃をなんとか避ける。上段袈裟斬り、突き、打ち込みを受け流す。
そしてその中で水蒸気を吸い込ませるように操作し、古兵らが吸い込んだのを確認し──────
「アクア、放出よ」
──────バァァァン!!
一気に熱エネルギーを放出。
水蒸気から、一気に氷まで落とし込む。その過程で発熱反応として熱エネルギーが現れる。
その昇華熱は、標準状態でも50KJ───小爆発を起こすには十分な量の火薬と同等エネルギー。
『!?』
そしてそれが、古兵たちを内部から燃やす。
内部からのダメージ。クリティカルダメージが出る。
そして動きが鈍くなる。何かしらのデバフが発生したらしい。
魔法使いは、決まった術式をやり繰りして戦う。しかし精霊術士はその限りではない。創造性や知識、応用性によってその強さが決まる。
精霊の等級は絶対の尺度では無いのだ。
「──────」
水を消失させ、再び生成。
今度は刃に纏わせる水量を増加させ、短刀を太刀のように変形させる。
鋭く、さらに鋭く。
力と強靭さは未だ敵が上。
しかし速度は対等になった。いまなら──────
「はぁッ!」
足から水流を放出し、勢いを付けて肉薄。
反応されるがそれを上回る速度で、翼と足を切り取る。
(しっかり欠損判定があるのね、助かるわ!)
そして倒れ込んだ古兵たち……まずマチェットの胸に手を伸ばし、中央の赤い宝玉を引き抜く!
すると、HPを削りきって居なかったにも関わらず、抜け殻がポリゴンとなって消え失せた。
「!」
そして同時に、システムUIの(0/46)のカウントが1増加する。
胸の宝珠が幻核であると判明。そしてそれを抜き取れば、問答無用で即死するらしい。
ならば、脚と翼を削った今が好機、宝珠を抜き取る即死を狙おうとして接近し──────
「!?」
戟持ちの古兵が、その柄で地面を叩き、その衝撃でバネのように跳ね上がる。そして戟の出っ張りを地面に引っ掛け、急接近してくる。
脚は削いだのにこの機動力か、と驚愕する。
空中からの上段切り。水の太刀で受ける振りをし、素通りさせる。力は拮抗せずにスカり、体勢が崩れた古兵の戟を掴む。そしてそのまま押し出すように──────
(殴りかかってくるガントレットにぶつける!!)
そして。
「っ!」
その隙で宝珠を両手で抜き取る。
ポリゴンの死体が2つ増える。
現在(3/46)。
◇
僅かながらの達成感と、手札を使ってしまった若干の後悔。力を使っただけでも精霊は消耗する。幻鳥の強さにもよるが、倒せるかどうか。
それを確認する為にも、異なる戦場の方を向く。
そして視認したのは、煌光と燃え盛る1匹の赤鳥。周囲に撒き散らされた、無数の紅玉。その数、43。
「化け物………ね」
手札を切り、やっとの事で三体の敵を倒している間に、43体を倒したらしい。恐ろしく強力であることは間違いない。
だが、これで残り43体と幻鳥の対多戦闘を行わずに済むことに安心する。
『PAryoryo』
コチラを認識した幻鳥。
生存者が2人、対面する。
ここからは、タイマンの時間──────
「───あ?」
『───Pi?』
のハズだったのだが。
再び、柱が光に包まれる。
そしてその根元から、戦士が。その数、43体。
「はァ!?全部私1人で倒せっての!?」
床にちらばっていた紅玉は、全て消えうせた。
残りのカウントは、(3/43)。
本当の乱闘はこっからす




