#65 囚世:乖離虚域 part9
つづきー
「立体機動Lv4」を始め、【悪路争覇】、「壁走りLv3」、「跳躍Lv9」。
俺が持ちうる全てという全て。それを用いて街を走り抜ける。
「あ゛あ゛あ゛ァァァ、クソッタレ!!」
跳ぶ。跳ねる。壁を走る。システムUIに従うようにして角を曲がっていく。
1秒前の俺が、50の銃弾に貫かれ続けている。
角を曲がり射線を切る。戦斧を投げて街灯を薙ぎ倒し、後ろへ蹴り飛ばす。
(よし!!5人掛かった!!転んだな!?)
後ろをチラ見、喜ばしい成果を確認する。少しの足止めに成功した。
またこれを何度か繰り返せば、更に距離は開くだろう。投げた斧の元に走る。後ろを確認しながら地面に手を伸ばす。
「あ」
斧、拾い損ね──────
「畜生ッッ!!ミスったあああ」
手が、空を掴んだ。
斧は諦めて走る。後ろは振り返れない。スピードが落ちたら、蜂の巣にされて一貫の終わりだ。
最悪だ。本当に、最悪だ。
走り始めてから、一向に状況が良くならない。なんなら悪化の一途を辿っている。
道を走る。左腕が貫かれるが、【光喚】なので問題は無い。
壁を走る。右腕が貫かれるが、欠損はしなかった。
空中を跳ぶ。地面に跳ねた弾が足を貫き──────あ、これマズイ。
後方を見れば、俺に向かう無数の銃口。空中で身動きが取れず、脚が貫かれ着地が困難。
「『フラッシュリフレクト』!!!」
パリィ補正。持続時間は約5秒。体勢は、問わない。
──────キキキキキキキキキキキキキキ
「だははははは!!気持ちイイ音だなオイ!!」
もはや、ヤケクソだ。
空中で銃弾を弾き返す。身を捩り、珍妙な体勢でできる限りパリィ。飛来した数十の弾丸。その殆ど打ち返す。
「『サイドスライド』!!」
そしてスキルを発動。
慣性無視。空間ごと、体がズレる。無理やり体を起こし、着地。直ぐに足を回復させる。ここにきて初期配布アイテムが役に立つとはな。
打ち返しのヒット警官は───畜生、たったの3人……か。
残りは約40人。
俺は斧を1つ失い、少しづつ削れたHPは残り2割。【光喚】の効果時間はそろそろ終わり、その他のスキルもCTに入った。
既に厳しい状況。
このまま逃げていたら、ジリ貧だろうな。
「……はァァァ、良いよもう」
なのでもう俺は、諦めることにしよう。
軍隊の方へ向き直る。
「来いよ、無双ゲーのMOB扱いにしてやる」
俺の特技は何も考えずに殺すこと。
全員、三枚おろしだ。
◇
銃弾を避けるのに最適な行動は、パリィである。
もちろん『フラッシュリフレクト』があればその難易度は易化するが、スキル無しでもパリィは可能。
ただ、足りないのは手数だ。どれだけ上手くやっても、一振で弾けるのはせいぜい5程度がいい所。
「ア゛〜頭、痛ってぇなァ」
ならば、どうするか?
増やすのだ。
参考は、【縋り憑く深淵】。奴の【光喚】の使い方を真似る。
光で剣を構成。
その数、50。
空中が、光の剣で埋まる。
光の総量は一定だ、剣の数を増やせば増やす程、その大きさは小さくなっていく。
最低限大きさを保ちながら浮遊させたその剣で、軍隊を迎え撃つ。
────────────キキキキィィィィン!!!!
「は、は、ハハハ、ハハハハハハハ!!!!」
全速力で近づきながら、【光喚】の剣にて銃弾を全てパリィ。その全てを思考入力にて動かしている故、慣れないうちのその負荷は大きい。
だがそれを上回る、爽快さ!!
「【天ノ叛逆】ァ!!!」
そしてスキル効果により、【光喚】の剣全てが拡大される。
直剣大になったそれらで、連続で切り付ける。多段攻撃と化したそれが、警官達を一撃で薙ぎ払う。
「チィッッ、リロード早ぇよクソ!」
リロードが空けたらしく、再び襲来する弾丸の群れ。この近さでは対処が出来ないのでバックステップにて距離をとる。
そうして再び弾丸の嵐。潜り抜け、逸らし、捩りあるいは切り裂いて。猛攻の隙間をぬって接近していく。
纏う光の剣に護られながらも奴らのFF圏内に入り込んだ俺は、【滅光の深斧】で『アクセルストライク』を──────
〘警告:〔天空を呑み喰らう虚構【幻龍】〕が出現しました。周囲の生命体及び機械は、死を覚悟することを推奨します〙
急に目の前が、長く揺らめく影に覆われる。
悟ったように上空に視線を投げかけてみれば、空を泳いでいる蛇のような……
いやあれ、龍じゃねぇか。
え、こっちに堕ちて──────
「なああああああああああ!?!?!?」
全力ダッシュで即時離脱。
後ろを向けば、軍が全て押し潰されて消滅したのが見える。
「あ〜、その、ナイスキル!敵の敵は味方……って感じじゃ無さそうだなァぁぁぁ!!」
目標変更。
地を這うようにしながら再び浮上した龍の、視線と意識とが俺に向かってきているのが感じられる。
システムUIが再び音を立てた。
それに従い、俺は再び駆け出した。
最悪は連鎖する。
◆
【図書館】の中の静かな空間。
テーブルの光が輝く。
「あまり宜しくなさそうな状況ですね」
聖女は微笑みながら、そう囁いた。
「ええ、そうかもしれないわね」
確かに状況は悪い。
5人のうち、3人が、4体のうち、3体の幻獣と接敵。
『幻獣を避けギミックをクリアする』という策は既に破綻した。聖女からすれば、非常に状況が悪いように見えただろう。
(全く、挙動の制御が難しすぎるわ)
心の中で少し愚痴る。
まずLilyに必要であったのは、各々の駒が誰であるかの特定。そしてそれに対応して存在する幻獣の特徴を確定させること。
実際のところ、プレイヤーたちが幻獣にエンカウントしたのは計算のうち。なんなら、自分からエンカウントさせるような挙動を命令していた。
だが、プレイヤーたち皆が皆、想像以上に乱雑な挙動をしたのだ。命令に対応する行動のブレ幅が、予想以上に大きい。
しかも命令を全員に対して行い、その結果を観察。行動のブレを予測し幻獣の移動経路をも予測しなければならない。
そして初めて、チェスのような駆け引きが可能となる。
そして本来の予定ならもう少し遅いエンカウントとなる筈だった。
だが。
(あの動き方、もしかしなくてもフィールド上に敵性MOBが居るのね。それが聖女の駒であるか否かの判断が必要……)
予想外の要素の参入。それにより幻獣とのエンカウントが早まった。もしプレイヤーと幻獣の相性が悪いのならば、少し予定が狂ってしまうかもしれない。少し憂慮する。
「でも、ここからよ」
手駒を切る。策の修正と拡張を始める。
見えない敵性MOBすらも考慮し、兵器を利用して、最良の未来を作り上げる。
それがLilyの役割だ。
「『L Series』起動」
(まずは、幻獣の解析を済ませる。そして選別──────ね)
◆
「…………」
「…………っ」
唯一、幻獣にエンカウントしていないペア。
夜鳴とヘラは、既にギミックエリア【塔】に到達していた。偶然が必然か、Lilyと同じように基盤前に転送された彼女達。
しかしその間の空気は厳しい。
別に大したことでは無い。この世界にて、未だ自我が育ちきっていないヘラが、夜鳴を一方的に嫌っているだけ。
現在の唯一の精神的支柱であるUが離れていくことを、今彼女は何よりも恐れている。
(………全く)
夜鳴も過去の不安定な時期があった。その時の精神的依存先がUであった為、ヘラの気持ちを夜鳴は理解している。
そしてその不安定な状態が、ヘラはさらに重いことも感じていた。
すでに抜け出した者として、何とかしてやりたいと夜鳴は思う。のだが、ヘラはこちらに敵意を向けるだけ。解決は随分難しそうだ。
「なんで私がこいつと………ブツブツ」
そして最初からNPCという特性的上、いずれ訪れる別れは確実。
「おいガキ」
「あ?」
「私がお前を助けてやる」
ならばそれまでに、自立させてやろうと夜鳴は決めた。
先輩としての役目だ。
「チッ、何様よ」
しかし道は険しい。
やっとUが幻龍とエンカウントしたので本格的にシナリオが進みますん
夜鳴の過去はいつかしっかり描写しますん




