#61 囚世:UnRome part5
そいや天喰と同じ原理の現象、スキル獲得前に既に発生してます。わかるかな?あと天喰は天を喰うんじゃなくて天が喰うから天喰です。
機械と獣と人。正反対なそれらが門番の中で結びついたのは、剥き出しの自我が成す業か。
生まれた義体が孕むのは、精密かつ獰猛で狡猾な化物。その凶暴性を、門番は深く認識する。だからこその高揚感、魂の鼓動は鳴り止まない。
門番は思考する。自身を囲み屠ろうとするそれらが、心当たりと合致しているであろうこと。そして合致しているのであれば、歓迎すべき愛しい同胞であるということ。
そして門番は既に識っていた。自身の記憶とは違う、ある一点を通じて共有された知識。すなわち、プレイヤーには多少乱暴しても問題はない、と。
衝動にかられる。この力を、身体を、使いたくて仕方がない。それほどまでの全能感!
もう既に我慢は限界値にまで達していた、そして確信を得た今、皮一枚で繋がっていた堪忍袋の緒はプチリと切れた。
そして、解放された謀と暴が、等しく全てを滅ぼしていく。
平等に、果てはその身さえも──────
◇
「『立哨』発動中は無防備だ、今のうちに削りきる!」
立哨が発動された瞬間、俺達の思考は一点に集約される。すなわち、『DPSを稼げ』である。唯一リスク無しに攻撃を叩き込めるタイミング、みすみす逃す訳にはいかない。
ダメージの回避方法は既に確立したが、デバフは甘んじて受けるしかない。だが下手に躊躇っていては、近づき切る前に10秒が経過してしまう。
よってまず優先するべきは速度制限のタイミング前での接近!
だが、新生した門番はそれは許さない。
数度目の『立哨』、だが今回のそれが極めて異なるのは、荒れ狂う肉体の爆発的な「暴」ゆえ。
発動条件はこれまでと同じく、槍を地面へと叩きつけるモーション。しかしそれにより齎される結果は、デバフ付与開始だけにとどまらない。
──────────ドォォォン、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
何かが崩落する嫌な音が響く。その源は、足元を見ればすぐに察せられた。
門前のフィールドに大きな亀裂が入る。地が割れ、隆起し、あるいはクレーターが生じ。地震を起こしたかのように地が揺れ始めた。
地表が捲れ、1部は崩落し、あっという間に踏める場所が消え去る。
理屈は単純、圧倒的な膂力で地面をカチ割っただけである。
それなのにこの効果、恐ろしくSTRが強化されたらしく、パリィや受け流し難易度の変動も考慮しなければならない。
「っ!!ここで生きてくるか、【悪路争覇】!」
シーア達が予期せぬ急な揺れに耐えられず、しゃがんだり転んだりしている中、俺は1人疾走する。
【悪路争覇】の効果の中で、唯一不明瞭だった「走行モーションに対するシステム補正」がここに来て顕著になる。今までのフィールドとは異なる明確な悪路、その貢献がここまでのモノなのか!と1人驚愕。足はスムーズに動いていく。
速度バフも合わさり数秒で辿り着く。が、猶予も同じく数秒のみ。
(効果時間内に到達出来たのは俺だけか。まぁいい、ここで最大火力を叩き込む!)
もう戦いは終盤に差し掛かっていることは、その雰囲気で感じ取っている。
「如何にも命を燃やしてそうなビジュアル、キライじゃないぜ」
門番の元へ辿り着いたことで、新たな鎧の節々が既に破損しているのが見えてきた。それが見た目通りのものならば───
「だがァ、その代償に弱点露出は随分多そうじゃねぇかよ」
───十分に急所と成りうるだろう。
◇
刹那のうちに判断を。
時間がかかればかかる分だけ、瓦解は近づいてくる。
今迫られているのは、選択だ。正確に解を出せ、思考しろ。
問は『現時点での俺の最高火力とは?』だ。
まず『天喰』は未だリキャストが明けてない。そして『乱斬』と『穿刃』が使用可能なのは刀装備時のみ。【光喚】は効果発動中だが、効果量の検証が済んでいない。
ならば『飛牙』は────いや、武器を手放して手で攻撃するメリットが少ない。では『弐抜断』は?2本の武器は持てるものの、【光喚】で持っているのが装備判定になるかが不明。
下手な賭けは出来ない、見極めろ!
有力なのは「アクセルストライクLv1」と【天ノ叛逆】の同時使用か。いや待て、「跳躍」が脚力強化によるものならば「投擲」も腕力強化を含むのか?
情報を引き出し整理し、組み合わせていく。加速していく思考、時間はもう無い。
◇
「『アクセルストライクLv1』」
極短時間に行われた思考の末選ばれたのは、明らかな悪手。最大火力どころか、一般の攻撃スキルを発動しただけである。
ミスとしか思えないその一手。
しかしそこに焦りや失望の念は無く、逃さぬようにただ狙いを定める。
俺は知っている。極限状況下にて最も頼りとなるものは理性によって計算された論理ではなく、経験と本能によって培われた直感であることを。
敢えて直感に根拠をつけるのであれば、『命を燃やして戦ってる奴が、こんなしょーもない死に方する訳ねぇだろ』、と言うだろうか。
データとはいえ、AIとは言え、その熱量と躍動は人に劣らない。
上段からの振り下ろし。スキルエフェクトを纏いながら【光滅の深斧】は門番の胸へと肉薄し──────
「ナイスU───んなッ!?」
──────空を、斬った。
その技は『転移』という。自身の座標を空間に転写し、その情報を存在ごと移動させる旧世技術。その強力すぎる効力ゆえに、転移にはシステム由来の種々の縛りが存在する。
そのうちの一つは、「スキル発動中に『転移』を行使することは不可能である」という縛り。システムの制約がその理不尽を阻害しているのだ。その拘束性は高い。だが、再び自我を確立したことで取り戻した知識と記憶と意志により、門番は己と技を囚う制約からの解脱を叶えた。
AIに過ぎない門番の魂が起こした小さな不具合。このシナリオがそういうものであるからこそ、その奇跡は許された。
だがU達にとって、ここに来て初めて前提が覆されたことによる衝撃は大きい。
ある致命的な事実から意識が逸れるほどに。
─────────ビィィィィィィィィィィィイ!
「!みんな離れ──────ッッ!!!」
その役割ゆえ、その事実に真っ先に気が付いたのはLilyであった。
まず『立哨』が発動されると、殆ど皆がダメージ稼ぎのために門番へと向かっていく。だがLilyはその限りでは無い。彼女は一人、10秒後に備え『立哨』によるダメージを抑える動きをするのだ。10秒で最端へと移動し、そこからフィールドを横断するように魔法を行使する。全員と門番との間に面が生まれるように動いていく。
だが門番は『転移』をした。予定していた座標が変わってしまった。
そして何より最悪なのは、『唯一動けてしまっていたUと他5人の中点に『転移』した』という事実。
刹那のうちに判断を。
今のLilyに求められたのは、Uを捨てるか、他の4人を捨てるかという2択。
だがLilyは即答する。
そこにはただ信頼があった。
「〘炎壁〙」
炎幕がフィールドを覆い、門番とUが視界から消え去る。
◇
極限状況下、極度の集中と適度なリラックス状態が同時に発生することで、最高のパフォーマンスを出せる現象がある。ゾーンと呼ばれるそれが、この瞬間Uに訪れていた。
(──────)
最善はなんだ?目の前の状況を打破出来る手はなんだ?先までの戦闘でHPは既に1。これをくらえば死ぬ。
(──────)
温存した手はなんだ?
使えない手はなんだ?
(──────)
座標、条件、視認、幕、炎、距離──────
「──────」
脳内を交錯する多数の情報の中、自然と口が動く。
意識をせずとも、身体が勝手に最適解を捻出する。
ゾーンとはそういうものなのである。
「───【天ノ叛逆】」
スキルを発動する。それと同時に手の部分を補填していた【光喚】を薄く展開、【天ノ叛逆】で更に範囲を拡大。煌々と輝く光の幕で身体を全て覆い隠す。
「はははっ、我ながら恐ろしい勘だな全く!!」
結果はノーダメージ。賭けに勝ったのだ。根拠の弱い直感が俺を生かしている。
「クソったれた理不尽難易度、楽しいなぁ、オイ」
心の底から笑みが洩れる。一つミスをしたら終わりな状況が楽しくて仕方ない。
そんな俺に呼応するように、門番も肩を揺らした。
そして戦いの終わりは唐突に訪れる。
◇
笑うように肩を揺らしていた門番の動きが止まり、その懐から再び角笛を取り出す。
ここに来て最初と同じ流れだ。『轟令』を阻害すべく、俺は【滅光の深斧】を投げた。
が、今度は転移をするだけで避けた門番。それに加えて、俺の真上に斧が転送される。
「『サイドスライド』」
スキルを発動させて回避。俺に突き刺さる寸前のところで避け、地面に落ちた【滅光の深斧】を拾い上げる。
──────ボオオォォォォォォォォン!!!!!!
斧を持ち上げたその瞬間、スキルによる強制スタンが発生。屈んだ状態のまま身体が硬直、周囲の状況が把握できない。この状態ではどうしようもない、デスを覚悟する。
が、死なない。
(何が起きてる?)
2秒が経過し、スタンが解けた。情報が入ってくる。まず視線を上げると、立っている門番が目に入る。いや、立っている門番しか目に入らない──────!?
「!?アイツらはどこに消え──────」
仲間の突然の消失に動揺を隠せず、思わず身体が硬直する。そして立ち尽くした俺の目の前に、転移してきた門番。俺に触れた。
そして『転送』される感覚。トリガーは接触。
急に変化したその景色は──────
「…………街ぃ?」
〘エリア【綻びの残影】に入場しました〙
いわゆる、「荒廃した都市」と言うものであった。
ちなみに転送による内部侵入は正規ルートのうちの1つです
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