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New Eternity Online -PSだけで往く新世界-  作者: Amane Rinne
古代の枷は楽園を衛り、抑えられた羽根は再び拓いた
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#60 囚世:UnRome part4

ちょいと書き方を変えてみました実験です

 

 戦闘開始から約5分。

 日常生活に於いて大した時間とは言えないそれは、戦闘という極限状況化では悠久と化す。それはゲームにおいても同じことであり、その中で戦況は幾度となく移り変わっていく。

 

 戦闘開始から約5分。

 戦況は端的に言えば──────悪化の一途であった。

 

 

 ◇

 

「───」

 

 声を出す余裕はとうに消えた。全神経を集中させろ、刹那のうちに判断(・・)を。ミスはデスへの直行便、瓦解の足音は既に背後から聞こえている。

 

 全力疾走。シーアが門番に辿り着いたのが見え、さらに警戒を強める。全員の注意の先は、シーアと門番の攻防だ。

 

 そして激しい剣戟、スキルエフェクトが舞う。まず仕掛けたのはシーア、槍を弾き上げ、掴みを避けながら脚をスキル攻撃で一閃。後ろに回り込み、門番から繰り出されるノールックの蹴りを避けながら上へ飛んで、頭を狙ったスキル攻撃。それを門番が手で────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────右ッッッ!?ッッぶねェ!」

 

 思考を中断し、刹那の判断に極度集中。訪れたコンマ数秒の選択、解は得たらしい。あまりのスリルと興奮に、無意識に声が漏れた。

 根拠のない直感が俺を生かしている。全力で逸らした体の横、過ぎ去っていくそれ(・・)の風圧を感じていた。

 もし左に避けていれば、脳漿を穿いてポリゴンの造花を咲かせていただろう。

 

 だが俺の頬を掠めたシーアのロングソードは空を斬っている。

 

「U、被ダメは!?」

 

「ノーダメ!!」

 

「良し!!!」

 

 短く言葉を交わす。時間がない、喋っている暇があれば1ダメージでも欲しい。そんな想いが口を閉ざさせ、足を動かす。理由は単純、LilyのMP不足だ。例の炎魔術は()の効果のため、点の攻撃よりもMP消費は数段激しく、あと3回しか『立哨』によるスキルダメージが防げないとは本人談。

 出来れば最短最速で門番を仕留めてしまいたい。ここはまだ序盤もいいところなのだから。

 

 が、そうともいかない。

 

 その全ての原因は、門番が使い始めた『転移』系だ。

 

「アリス、挟み込むぞ!」

「了解!」

 

 夜鳴さんがそう声をかけ、挟み込もうとする。が、門番自身が『転移』することで離脱される。

『転移』は門番自身の瞬間移動、トリガーは不明でクールタイムは1分程度。開戦前に伝えられていたのがコレだ。


 転移してきた門番にヘラが終深喰を差し込む。が、Lilyの元へと『転送』され、避けきれなかったLilyが僅かにダメージを負う。

 この戦いの中で新しく判明した転移系、『転送』。門番が触れることで、任意の座標に触れたものを転送させる。

 

「『投擲』」

 

 スキル硬直の隙をつく形で深斧を門番に投げる。が、俺と投げた深斧が『転位』され、位置が入れ替わったので戦斧を装備し直す。

 3つ目がこの『転位』だ。効果は単純、無機有機無視の2物体交換である。トリガー不明、遠隔発動が可能な壊れ具合。これが1番厄介だ。


 期せずして距離は縮んだ。おそらく火力貢献が1番足りていないであろうのは俺。稼ぎ時は今だ。

  その為にまず避けるべきは──────門番の手による『転送』だ。

 能力単体でも強力なのに、加えてスキル硬直と間隔が短いのが非常に厄介。

 上手く躱し、なるべく長く継戦する。 

 

「『フラッシュリフレクト』」

 

 急に変化した景色、目の前に槍を構えた門番。動揺する事なくスキルを発動させ槍をいなし、持続中の跳躍効果でノックバック付きの蹴りをお見舞いする。少しよろけたがすぐに回復し、再び繰り出される鋭い攻撃の数々。

 弾く、受け流し、いなす、避ける、避ける、避ける、フェイントでタイミングを遅らせガードを上げさせて下から崩す。上がりきったガードにより丸見えになった腹部を見据え、ノールックで真後ろへ右手を伸ばす。

 

 

「今」

 

 

 右手を閉じる。その閉じた右手には、『転位』の後も空中をそのまま進み続けた【滅光の深斧】。滑らかに収まる。そしてそのまま流れる様に──────

 

「『天喰』」

 

 

 スキルを発動。併せて『跳躍Lv9』も発動させておく。

 流離人の唯一の無系統攻撃スキルであるそれは、戦闘開始してから今に至るまでの滞空時間により進行するマスクデータ「侵空比率」によりダメージ計算が行われる。

 

 それに加え、滞空中の発動になると更なる増強が行われ、跳躍による推進力も合わさり───

 

 

 ─────────ギィィィイイイン!!!!

 

 腹部に右からブチ当たった(クリーンヒット)。門番がグラりと倒れる。

 

「いい音するなァ木偶の坊!!これは流石に響いたろ!?」

 

 希望を込めた呪詛を贈る。流石に効いていてくれないと困るという想い。あわよくば死んでくれという願い。種々の気持ちを一緒くたにして門番を見据える。

 

 倒れた門番は未だ動かず、更に期待は高まる。だが兜の緒は緩めない。その生存はUIが示すのだから。

 

「!夜鳴さん」

 

 不動を保っていた門番が、板バネの如く跳ね起きる。望みは叶わずの様相。

 真っ先に反応したのは、殺意を漲らせ今か今かと機を待っていた夜鳴さんであった。次点でヘラが駆けていく。

 

 両拳にメリケンサックを備え、大きく振りかぶり狙うは顔面。

 

「避け!?あっ」

 

「ふべらっ!?!」

 

 如何にも「失敗した」と言いたげな顔と声色で、夜鳴さんが声を上げた。

 そして直後門番が顔を逸らし拳を避け、カウンターを受けた夜鳴さんが『転送』される。再び集中するが、視界の端で夜鳴さんとヘラと衝突し、衝撃で情けない声を漏らしたのが見えた。幸運にもダメージはほぼゼロのようだが──────

 

 

「──────なんだありゃ、なんかのギミックか?」

 

 

 躍り出た門番がどうやらおかしい。

 元は5m長の大型人型エネミーであったのだが、今は3m長とコンパクトになっている。倒れていた所に視線をやれば、脱皮の如く鎧が剥がれ落ちているのが見える。メタ的に言うならば第二形態、設定から考察するならばマトリョーシカ的な構造でさらに内側がある可能性。

 

 

 先ず確認すべきは使用技の変化、少なくとも通常の戦闘スタイルが変わったと視るべきか。

 即死や転移形による自滅を真っ先に警戒し──────

 

 

 

 ─────────!

 

 安堵するべきか、悪運を嘆きべきか。使用技に変化は無いらしい。

 少し大きさが釣り合わなくなった様に思える槍を、大きく振りかぶっている。

 

 再びの『立哨』だ。

 

 

 ◇

 

 

 意識が明瞭になる。思考が戻り、過ぎる靄が晴れていくのを感じる。

 

 門番は歓喜していた。

 生まれ変わった門番の肉体が主張するのはその鋭利さ。生前(・・)の肉体と酷似した身体だ、まるで生き返ったかの様な高揚感!

 長いこと囚われていた思考と肉体が、捨てなければならないと思っていた感情と記憶が!数百の年を経てこの魂に収まった!

 

 

 たとえ行動が縛られていようとも、同胞の屍を築くことになろうと、この愉悦はその悉くを凌駕する。多少の不具合は無視出来る。

 黒く染まった鎧を眺め、湧き出た憎悪すら、人の感情たるものは全く愛おしいのだと感じさせる。

 

 

 斯くして門番は云う。

 見ろ、感じろ、そして魂に刻め。重苦しい鎧を剥ぎ落とした開放感、そして生まれたこの自由な命の躍動を!!!

空とは何か?空間とは何か?宇宙とは何か?

未知は既知へと身を転ずれば、概念は更なる拡張を行う。解釈が広がっていく。単一概念に吸収されていく。侵食されていく。


空?それは空だよ。空間?それも空だよ。宇宙?それも

空かもね。じゃあ大気は?酸素は?青は?空中は?



物体は?



空かもね




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― 新着の感想 ―
[一言] 天喰発動時のUさんクソかっけえ。 設定がいっぱいで頭が飽和してとても楽しい!!ありがとうございます! あとがき大好き。
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