#56 Like a Beast, but Teased
今日寒すぎて、口が悴むという訳分からん現象を初体験した。
プレートアーマーに黒い紋様が入っていく。光の大剣は、光の羽として再構成され、首と足と胴からは漆黒の体躯が露出している。
先程までは綺麗な構えだった中、今はダランとリラックスした姿勢。ゆったりと動きだした騎士は、大剣を右手で前に構え、若干獣のような荒々しい雰囲気でこちらに顔を向ける。
さっきまでなら睨み合いが始まったのだろうが──────
今の騎士にそんな駆け引きをする心意気は無い。
「ガァアァァァァア!!」
咆哮。
気合を入れただけなのだろうか、俺に対する直接的な効果は無い。威嚇行動あるいは鼓舞の終了は戦闘開始を意味する。
最初のエンカウント時点とは比べ物にならないほど、早い展開である。
「来るぞ!!」
背中の羽を大きく羽ばたかせながら、急な踏み出し。羽による空気の押し出しと、脚力によるハイスピードを用いた急接近から第4ラウンドは始まった。
「───ッ速っ!!」
大剣を前に構えた突進攻撃。技もへったくれも無い単純な動きだからこそ、そのスピードが活きる。
避けるのが最適解、しかし避けさせてくれないその速度。厄介である。
──────ギィン!!
反応は出来たものの、避けるのが間に合わないと判断した俺は、斧を前に構えながら後ろへ跳ぶ。
斧に直撃した剣先が俺を吹き飛ばすが、ダメージはほぼゼロ。地面を擦りながら、直立して止まった。良い判断だろう。
ヘラが攻撃を仕掛けていくのを見ながら、俺も復帰のために近づいてく。
走りながらヘラとの攻防を見ると、先程とは随分攻撃モーションが異なることが分かった。
さっきまでは綺麗な姿勢と剣筋で戦っていた彼は、今や獣のように力を齎すだけ。小柄かつ身軽かヘラは、上手く避けながら、モーションの間に攻撃を差し込んでいる。
「ヘラ、下がって!」
「ッはい!」
大振りな横薙をバックステップで避けながら、離脱するヘラ。追いかけるために、思考が攻撃から移動に切り替わった騎士は、再び羽を広げ飛び出そうとする。
「『アクセルストライク』!!」
しかし、それを待ち受けるのは俺だ。猛スピードで飛び出してきた騎士の頭に向かって、斧を振り下ろす。
スピードがスピードなので、タイミングを合わせられるか微妙だったが、大丈夫なようだ。
─────────ガン!!!!
衝突音。
ギリギリ反応したらしく、身を捩っていた騎士だが、少し遅かった。破鉄の斧は、左肩のアーマーを切り裂き、そのまま左腕を吹き飛ばした。
切断には至らなかったものの、プランと腕を垂らすその姿から察するに、骨折状態にあるのだろう。このゲームがそこまで作り込まれているのならの話だが。
「ガァァァァア!!」
痛みに悶えるように吼える騎士。
しかし、そんな痛みに耐えるような声からは想像できないような、四足歩行の機敏な動きで体勢を整えた。
体勢を整えさせないように剣を振り下ろしていたヘラは、そんな騎士の機敏な動きに驚く。
少しズレたターゲットに、何とか届くであろう蹴りを喰らわせようとするヘラ。
だが獣のように四足歩行で這い蹲る騎士は、左腕を庇う様子も見せずに、その蹴りを掴んでヘラを地面に叩きつけた。
「きゃあッッ!!」
「クソ、『スプリントダッシュ』!!」
地面に叩きつけられ、若干の気絶が入ったらしいヘラ。好機と言わんばかりに大剣で追撃しようとする騎士の前に、スキルを使って無理やり割り込む。
「『フラッシュリフレクト』ッ──────パリィ出来ない!?」
フラッシュリフレクトを使って大剣を弾こうとするが、予想以上に重くてパリィが出来ない。
仕方ないので、絶妙な力加減によりパリィから受け流しに移す。
本来は不可能であろう、一瞬のキャラコントロールを、元来のPSと高い技量ステータスによって無理やり押し通した。
受け流されて地面に突き刺さる大剣と、その衝撃で目を覚ましたヘラが離脱していくのを傍目に見ながら、追撃を重ねていく。
「『跳躍』!!」
期せずして懐に潜り込めた俺は、脚力強化からのバックスピンキックを腹に叩き込む。
しかし、背中の2枚の羽を折り曲げて防いだ騎士。吹き飛んだものの大して効いた様子もなく、最初の突進を防いだ時の俺のように地面に直立した。
なんだこれ、フロスカと同等レベルでエネミーが動きやがる。正直、大抵のゲームは全てのモーションを網羅すれば対応は余裕なのだが、こいつは違う。フェイントのような駆け引きは当たり前だし、攻撃モーションも定まってない。それに何より敵ステータスが高い。大衆ゲーとは思えない高難易度ゲーだ。
「クク、楽しいなァ」
思わず漏れる笑み。昂る気持ちとテンションが交差し、ヘラに変な目で見られてしまうがそんなことは気にしない。
いやぁ、神ゲーはだいたいヌルゲーかと思ってたが、楽しませてくれるな。
「さ、最後にもっと俺を楽しませてくれよ」
軽い挑発を騎士にかける。それに反応したのかは知らないが、再び騎士が走り出した。
猛スピードで接近する騎士に斧を投擲。大剣を振り、弾かれてしまうが問題では無い。
左腕が折れた騎士は、大剣を振るとどうしても隙が大きくなってしまう。そこが狙い目だ。
未だ持続する跳躍効果を用い接近、そしてそのまま蹴りを入れる。が、再び左腕を使った騎士は、俺の足を掴んだ。
「うわー掴まれたっ───なんちゃってェ」
しかし掴まれるのは想定済み。掴まれた右足を軸に、左足で地面を蹴って回転。そのまま頭にクリーンヒットさせる。
鈍い打撃音が響き渡る。
頭のアーマーは堅いだろう。だが、振動というのは物質を貫通する。俺の狙いは勿論──────
──────ドォン
騎士がよろけて倒れる。毎度おなじみ、物理エンジン様を最大利用した脳震盪の炸裂である。
「ヘラ、ここで決め切るぞ!」
「了解っ!」
少し離れたところで待機していたヘラが寄ってくる。
アーマーに覆われた騎士とはいえ、倒れて気絶してしまえば出来ることは無い。
そして寄ってたかってボコボコのメッタメタにした。
〘深淵種【縋り憑く深淵】を討伐しました〙
〘レベルアップしました〙
〘スキル【光喚】を獲得しました〙
〘アイテム【破鉄の手斧】が深化しました〙
〘アイテム【霞目の鎧兜】を獲得しました〙
〘特殊シナリオ【縋る世界は裏へと廻る】を開始します〙
この特殊シナリオは、この章のメインですね。つまり、明後日のアリスちゃんのやつに繋がってます。あ、あとこの章はこっからほとんど配信回になるので、コメの名前募集します。
ちな、パリィ出来なかったのはモデルリスペクトのせいです




