#49 ささやかな嫉妬心
短
詳しいことを聞く前に、一旦街の中に入ってリス地を更新しておくことにした。どうやら同行する仲間がいるらしい……というか、その人と一緒に見つけたヤツに俺が乗っかるっぽかった。あたかも自分が見つけたみたいな雰囲気してた癖に、実は半自発ウーマンだったということだ。
だがまぁ俺が同行することは最初から織り込み済みだったらしく、夜鳴さんはその同行する人に俺を見つけたことを伝えに行くと言って先に駆け出していった。
降って湧いた幸運というか、棚ぼたというか。悪いことはないだろうし、本来は独占したいだろう特殊シナリオに参加させてくれるのは純粋にありがたいな。そこまでするメリットがよー分からんが、某被料理店的な展開にはならんだろうしそんなに考えることもないだろう。
湧き上がってきた疑問に対して開催された脳内会議は、思考停止という形で一瞬で閉幕。その速さや蝦蛄パンチが如し、俺の脳内会議は結局なにも決まらずに終わることで有名なのである。
「ふむ、ここも大層な大きさの街だな」
『ですね。まぁ銃の私からすると何でも大きく見えますが。』
アホなこと考えながら歩いていく俺の前に立ちはだかるのは、始まりの街よりは少し小さい壁。その外にいる俺たちからでも、中の建物が少し見える。なんというか、トソガリコーソみたいな屋根の建物がいっぱいある。トソガリコーソ、ね。トソガリコーソ。
門に近づいていく。始まりの街の門番と談笑した懐かしい思い出が蘇ってくるなぁ。うん。
「すごい、大きな街?なんだね。」
今度は談笑を吹っかけられることもなくスルーされ、何事もなく街に入ることが出来た。街に入ると規模の大きさが改めて顕になり、ヘラがそう零したのにも頷ける。
「まぁとりま、宿屋探すかね〜」
ミニマップを開く──────が、なんだこれ?
この街、【第2の街】は始まりの街とは比べ物にならないくらい複雑な構造らしく、ぐっちゃぐちゃで雑な道とバラバラに離散して配置されている主要施設。正直、子供のお遊び絵かってくらい訳が分からん。設計者を叱りつけてやりたい。
脳内で幻想設計者をフルボッコオブフルボッコにしながら、どうしようかと思案する。
「……あのぅ、もしかしてなんですけどぉ〜お困りですか?」
「うん。お困り。」
マジで困るなぁ。夜鳴さんと再開するまでの時間はどうせ大して無いだろうし、そこまでの間にリス地固定をしなければならない。それに探索もしたいし装備の整備もしたい。やることは山積みなのだからこんな変なとこで時間を取られたくないのだ。
「良ければなんですけどぉ、また案内します?」
「マジ?じゃあお願い、頼むわ〜」
いやーありがたい……ってなんかデジャブな──────
「いやミモザちゃん!?!????」
「ひぅっ、はいっ、ミモザセンパイでしゅっ!」
立ちすくんでいた俺たちに背後から声を掛けてきたのは果たしてミモザちゃんであった。何故ここに……。
「お兄ちゃん、誰この女」
「はいはい威嚇しない。俺の先輩だよ。」
ガルルルル、と威嚇を始めたヘラを宥める。まぁ俺の先輩だよな、一応。というか、先輩って呼ばれるとあからさまに嬉しそうな顔するなぁ。何故だろうか?
「とりあえずぅ、宿屋に案内しますね」
ニッコニコの笑顔で俺の前を歩き始めたミモザちゃん。とりあえずついて行くことにした。
◇
「なぜこんな辺鄙なところに……」
路地裏に入り、路地裏のさらに奥の通路を通り、そこにあった階段を降りてさらに奥へ行き、何故か空いていた穴を登り……と1周回って元に戻りそうな道を通った先に宿屋があった。
「302号室をご使用ください」
「はいな」
部屋に入る。
「そ、それでは私はここまでで、ごゆっくり〜」
「ありがとうミモザちゃん」
「いっいえいえ、センパイとして当然なのでっ!」
なぜ居たのかは結局謎のままだが、まぁ案内してくれたし良いだろう。
バタン!と音を立てしまる扉。別にこれからログアウトする訳でもないのですぐ宿から出る訳だが……少し休むか。
ボフッとベッドにダイブイン。やっぱこのゲーム凄いな、触感がリアルと遜色ない。
「はーー」
ゴミゲーかと思ったが、なんだかんだこのゲーム作り込みもめちゃくちゃ深いし戦闘とかは臨場感あるし悪くないな。暇つぶしのつもりだったけど、思ったより付き合いが長くなりそうだ。
「ね、ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
部屋のに入ったものの、ベットのそばに立ちすくんでいるヘラが声を上げた。
なんというか、モジモジしながら少し俯き、何かを言いたそうな顔をしている。
「私、色気足りないかな……?」
うん、ガキが何言ってやがる。
「ある訳ないだろ、ヘラはまだ子供なんだから───
「そ、それもそうだよね」
一体どういう意図すか?
「ど、どうした急に───ってちょっとぉ!?」
ベッドに横たわっていた俺の上に覆いかぶさってくるヘラ。何だこの展開!?Rで18なゲームかよ……ってこんな子供が出てきてたまるか。警察行きだわ。
「あー、とりあえず落ち着け」
そしてとりあえず俺の上から退け。何を企んでいるのか知らんが、傍から見たら犯罪者だぞ……。俺が。
「今の私ってさ、髪短いから男の子みたいじゃない?」
「ソダネ」
「でも……体は女の子だよ?」
「ソウダネ」
「………興奮する?」
「っ───はぁ。してたまるかオマセさんが。何思ってんのか知らんが一旦頭冷やせ。俺は寝る。」
なんかアホなこと考えてるらしいヘラ。嫉妬心か何かだろうが。
とりあえずこいつが落ち着くまでログアウトだログアウト。
◆
あーあ、やっちゃったかな私。
お兄ちゃん───といっても本物ではないけど、私の唯一の居場所には変わりない。なのに、どうやら女の人と仲がいいらしくて、少し嫉妬と不安が湧いてきちゃう。
捨てられたらどうしよ?やっぱり色気のあるお姉さんみたいな人がいいのかな……。私まだ子供だし、いろじかけ?もしてみたけど無反応だったし。
「───取られたくないなぁ」
すごい速さで眠りについたお兄ちゃんの懐に入り込みながらそう呟く。
とりあえずまたすぐあのお姉さんに会いにいくらしい。お兄ちゃんは強いし、長い間活動するからその分のエネルギーも今のうちに貯めとかないとね。
私も……寝よう。
嫉妬してます。
坊主とか坊やって呼ばれたのも気にしてます
あとトソガリコーソな建物は、トゥルッリとかいうやつです。




