#48 邂逅:超理知的ヤンデレ成人女性
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設定回+主要人物登場回
ちと短め
──────キン!!
刀と長剣がその場で踊る。金属の刀身が激しくぶつかり合い、金属音を響かせながらも攻防が続いていた。
若干リードを取っているのはPK男の方で、ヘラは劣勢を強いられているようだ。純粋な肉体強度の差というのもあるだろうし、天才と言っても刀を持ち始めて1日も経たない幼い女子なのだ。むしろここまで善戦し、少し押される程度で持ち堪えているのは流石と言わざるを得ないだろう。
盾と弓を倒した俺は投げた武器を回収し、未だ続く2人の激しい戦闘を観察していた。もちろん危なくなったら助けに入るつもりだが、何処までやれるかが純粋に気になるのだ。
「はぁっ!!」
掛け声とともに連続で打ち込む男だが、小柄な体躯を有効活用し上手く避け続けるヘラ。しかしその全てを捌ききれている訳でも無く、少しづつダメージが蓄積し包帯の端々に切れ込みが入っている。
そろそろ止めようかな──────と思い始めたその瞬間、彼らの戦場に急激な変化が発生した。
そしてそれは果たして、第三者により起こされたものであった。
────────────ドォォォン!!!!
ヘラが攻撃を凌ぎ切り、スキをついて切り返したものの距離を取られて避けられた。そんな、言わば戦況がリセットされたようなタイミングに衝撃が到来。
それは女性の落下により引き起こされたものだった。
崖の上から飛び降りてきた彼女は、落下ポイントにいた男を殴り飛ばし、一瞬でポリゴンと散った彼を背景にゆっくりと体を起こす。
その女性は、見覚えのある顔で清楚なメイド服を着ていた。しかしそれとは似合わないような、泥沼のように濁りきった目と人生に疲れていそうな下瞼の隈。そして耳に付いたピアスが髪の隙間から見えている。
なんというか、いつも通りの病みまくった女性のようなアバターなのに、毎度毎度メイド服に拘るのは何故なのかという感想が浮かぶ。しかもその拳に収まっているのは、どうやらメリケンサックらしい。如何にもミスマッチだ。
完全にこちらに向き直った彼女は懐から煙草を取り出し、火をつけて一服。そして大きく煙を吹き出した。頭上に表示されているのは、名声称号であるらしい【無我】という称号と、プレイヤーネーム。
ゲーマー仲間が1人、PNが『夜鳴』と表示されている女性がそこに居た。
「あ、どうも夜鳴さ──────」
「……新手か」
おっと、ヘラが壮大な勘違いをしていそうだ。
「ねぇ坊や。いや、女か。君は私のユウくんの一体なんだ?」
「お兄ちゃんは私のだッ。」
衝突。
まず仕掛けたのはヘラ。どうやら物凄い早とちりか勘違いをしているようで、鬼のような形相で夜鳴さんに斬り掛かる。
喉や首、心臓などの急所を狙い、刀の斬撃が夜鳴を襲うも、その全てをあしらう様に捌き切る。メリケンサックだけではなく靴も金属の特別製のようだ。拳鍔で刀をパリィし、仰け反って無防備になった脇腹に鋭い蹴りが突き刺さる。
「がぁッ!!」
そして吹き飛び近くの壁に叩きつけられた彼女。この勢いだと肋折れてそうだな……そこまで作り込まれてるかわからんけど。
「フーッフーッ!」
壁から起き上がり、興奮したように牙を剥き出しにしながら唸るヘラ。どうやらまだまだ戦おうとしているらしい。が、さすがに止めさせてもらうけどな。
「ストーップ、ストップストップ。ヘラ、彼女は俺の友達だから襲いかかっちゃダメ。夜鳴さんも変なこと言わないでください。」
下手したらまた襲いかかりかねないので、首根っこを掴みながらそう制止の言葉をかける。
というか、なんでこの人ここにいるんだ?
「なんでここに居るんだ?って顔してるね。なんでだと思う?」
「勝手に心読まないでください……。なんでですか?」
全くもって心当たりがない。この人、勝手に俺の考えを読んでくるくせに、何考えてるかはめちゃくちゃ分かりにくいのだ。何故なら、理知的な口調と雰囲気してる割に突飛な行動ばっかするから。リアルでは普通のOLらしいが、少なくとも俺の知る彼女は非常にヤンチャなのだ。
「君のことをずっと待ってたんだ、三日三晩ずっとね。ゲーム始めたらメッセージ見なくなるのは君の悪い癖だな。来ることの無い返信を今か今かと待ちながら、日々憂いていたこの気持ちは君には分からんだろう。あぁ、何度涙が溢れそうになったことか、仕事には身が入らず上の空で同僚には心配され、体重は1kg落ちた気分だ。ずっと君に会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて。精神が弱ってたせいで前の会社で働いていた時の記憶が沢山蘇ってきたよ。ブラック企業で過労で死にかけた時に君に助けられたよな。そうだよ、私はいつも君に助けられているから。君がいないと私はダメなんだ。君と会えないなんて耐えられなかったんだ。」
「はぁ、それはすみませんね……。」
そして彼女は、俺に対する執着心が非常に強い。何処まで本気か分からないが、彼女の言葉を全て信じるなら相当俺の事が好きらしい。
異常なくらいには。
だからこの人は下手に刺激しない方がいいんだけど……ヘラもあれだからなぁ……。
「それで、会えたはいいんですけど何をするんですか?攻略はもう進んでるでしょ?」
「ふふっ、勿論君が喜ぶようなものを用意しているよ。」
ニコニコとそう答える夜鳴さん。マジで情緒不安定な人だな。
だがまぁそこまで言われれば期待してしまう。何か面白いことがあるのだろうか。
「知ってると思うが、このNEOの世界は、様々なシナリオとクエストを軸に展開されている。そしてそのシナリオにも重要度があり、通常シナリオと特殊シナリオに分れている。」
「ほぅ。」
「特殊シナリオはさらに重要度ごとに分かれていて、レアシナリオ、レジェンダリーシナリオ、ミソロジーシナリオが最高位だ。レア以上のランクになるとその希少性は相当で、今まで発見されてきたレジェンダリーは2件、ミソロジーに至っては未発見だ。さらに種類があるって噂もあるが……まぁただの噂だな。」
「ほぅほぅ」
「そして!なんと私は君のために!!レジェンダリーシナリオを1つ発見したんだ!!!ほめてほめて!」
マジか。なんかレアそうなシナリオを貢がれたぞ……。
シナリオについての設定をちょびっと公開しまーす
そもそもシナリオとは、シナリオ等級に応じた等級のモンスターを中心として展開され、随時発生する「クエスト」を含めたストーリー。
そんなシナリオの中でも、NEOのメインストーリーを進行させるシナリオであるのがレジェンダリー等級以上のシナリオ。世界に5体のみ存在する神種と、割と沢山いる伝説種が中心に展開される。
どんな方向に世界が動くかは、シナリオ内のプレイヤー次第である。
ちなみに、主人公はレジェンダリーシナリオにもミソロジーシナリオにも遭遇していない。




