#42 伸びしこと竹の如し、猛しこと野火の如し。そして非常に凶暴なソレ
みょ
──────ザン!!
ゴブリンの首が宙を舞う。
綺麗にはねられたそれが地面に落下するのを見ながら俺は少し虚無を感じていた。
4匹のゴブリンを相手にしながら、一撃も当たらずに華麗に立ち回り、なんでもないように倒してしまっている。
さらに迫り来る何匹かのゴブリンを捌き続ける少女が1人。
その少女の名はヘラと言った。
「なにこれ……」
『凄いですね……才能という言葉で片付けられるものでは無いかと……』
再びゴブリンの首が宙を舞う。初めて剣を持ったはずの少女は、それから少しもせずにまともに剣を振れるようになっているどころか、苦もなく戦闘をこなすようになっていた。
「よし!おーい!終わったよ〜!」
「すげぇね、成長速度。やるじゃん」
「そう〜?エヘヘ……」
なんという理不尽な世界だろうか……触ったことの無い剣を使いこなすまで全く時間かからなかった。手間のかからない子……って言うの?
とりあえず、浮気な男を斬り殺せるくらいには過剰防衛及び制裁が出来るメンヘラになった。俺は嬉しい限りだ。
彼氏が出来て浮気された時はその剣でメッタメタにしてやりなさい。
「それにしてもなんでそんなに……実は使ったことあるとか?」
少女にそぐわしくないあまりの強さに、「実は剣術家です的なオチじゃないか」という疑問が湧いてきてしまう。
「別にそんなのは無いんだけど……なんかこの剣を持ってからはめちゃくちゃ身体が軽いんだよね」
「ふーん」
その剣には特殊な効果は無かったはずだが。実は何かあったのか?そういえば効果は「無し」じゃなくて「不明」だったな。
そういえば、俺も少し身体が重いというか、ステータスが下がっている気がする。
もしかしてこっそりバフ効果があったのかもしれない。
とにかく俺も負けてはいられないな!
◇
──────ドシャ!!
前のゴブリンを倒してから進むこと数分、再び近寄ってきたゴブリンを斧で叩き切る。刀とは違い綺麗にスパン!とはいかないが、斧ならではの叩き割る感覚が楽しいな。
ちなみに今の俺は同じ片手斧の2本持ちだ。そしてインベントリにはあと7本もある。種類は千差万別で、長めの両手用だったりめちゃくちゃ短かったりする。それをとってあるのは、投擲武器として活用するため。破損状態にある『投擲』さんだが、全然支障ないくらいダメージが出るからな。
別にメイン武器にしてもいいくらいの───ッ!?
カァン!という音ともに、飛来した矢が斧に着弾して空に弾かれる。よく反射神経が間に合ったな俺……。飛んできた方向を見ると、木の上に弓を構えたゴブリンが見える。
「一気に出現数増えたな。」
ここまでは数分に1回、5匹くらいのグループが同時に来ていた。だが、ここに来てエンカウントの間が数十秒まで短くなっている。
多いな───と、ボヤきながら手に持っていた斧を投擲。見事脳天に着弾した弓兵は地面に落ちながらポリゴンと化した。そうして仕留めたあと新しく斧を装備する。
「なんかゴブリン増えてるって思ったら村があるのか。」
『どうやらゴブリンのコロニーが存在するようですね』
武器を決めた後、近くにあった獣道を歩いてエリアを進んでいた俺たち。
特に気にすることなく進んでいたが、進むにつれて確実にゴブリンのエンカ率が高くなっていた。それはどうやら、ゴブリンのスポーン地点──────ゴブリン集落があるかららしい。
近づいてくる俺たちを発見し、ギャアギャア喚いたり角笛を鳴らしたりしている。味方に知らせているのだろうか?
それは好都合。ボーナスタイムが増えるね。
「よーしヘラ、レベリングの時間だよ。行っておいで!」
「はーい!」
柵の正面の入口から、ゴブリンを駆逐せんと駆けていくヘラ。早速ご対面のようで、入って数秒で首が空を舞っている。
俺もレベリングをしようではないか。
ヘラに続き、村へ入っていく。
◇
「ッ───オラァっ!ってなんで、こんなッ強いのぉ!?」
相対するは大型のゴブリン3体。MOBの頭上には【ゴブリンジェネラルLv27】、【ゴブリンファイターLv23】、【ゴブリンキングLv31】と表示されている。
エリア【蒼翠の森林】は、ゲーム序盤に相応しいような低レベルモンスターや弱MOBが主に生息しているエリアだ。
その最たるものが、ゴブリン系モンスター。
この森林には、ゴブリンのコロニーが点在している。
その中にも規模の違いがあるのだが、今彼らが居るのは最大級の規模の村であった。だからこそ、それ相応のLvのモンスターがそこにはいた。
といっても、更に高いLvを持っているユウには楽な作業であるはずだった……のだが。
──────絶賛苦戦中である。
HPは3分の1まで削れ、9本のうち4本の斧が破損。それなのにゴブリンたちのHPはまだ2割も残っている。レベル差的にはありえない状況である。
その理由としては、斧だから大体のジョブスキルが出ないというのと、何故か死ぬほどステータスが下がっていたから。
とりま後で確認するにしても、ここを切り抜けなければ!
「【天ノ叛逆】!!」
終ノ光刀さんがお亡くなりになったせいで存在意義が失われかけていたスキルを発動する。
現在装備している両手用の長斧の頭部分が巨大化し……ブォン!と風切り音を立てながら周囲を薙ぎ払う。どうやらこのスキル、エネルギーを拡大するようなものでは無く武器の性質を拡張するスキルだったらしく、使ってみたら普通に使えたのだ。
ゴブリンの中では名将として崇められていたのだろうか?威風堂々とした姿でご立派な装備を湛えているゴブリンジェネラル君。残念だったな、もう君の剣はポッキリ逝ってるぜ。
ずっと色んなイベントが起きてたせいで、スキルの検証が疎かになっている。せっかくだから、検証させてもらおうか!
とりあえず、斧が命中し装備と武器が破損したジェネラルは放置し、斧を回避するために距離を取ったファイターに対して距離を詰める。
「『跳躍Lv9』!!」
なんだかんだNEOで1番お世話になっているであろう跳躍先輩を使用して、走り幅跳びのようにジャンプ。そしてその勢いを流用し斧をファイターに叩きつける!!
いつもだったらそのまま脳天を叩き割っただろうが、ステータス低下が起きている今はそう簡単には行かない。パァン!という音と共に斧の側面を叩かれ、軽々と弾かれてしまう───が、俺の本当の狙いは斧による攻撃では無い。
「ナイス弾きィ!お礼にどうぞ、シャコパアァンチ!!」
斧を弾かれる寸前に持つ手を離し、そして───パンチ。俺が腕を振るい、前に突き出すと、拳が触れていないにも関わらずファイターが吹き飛ぶ。パントマイムの達人の様に、見えない何かに殴られ倒れた彼だが、もちろんこれには種も仕掛けもある。今まで検証して無さすぎたとはいえ、あまりにも予想外なスキルの発生の仕方を発見したのだ。
「まさか【天ノ叛逆】がこんなにオテンバスキルだったとはなァ!?」
なんとこのスキル、武器だけに拡張や拡大効果が付与されるのかと思ったら、右手の判定にも付与されるらしい。つまりゴブリンファイターは、【天ノ叛逆】が効果時間内なのに俺の武器を吹き飛ばしてしまったことにより巨大化した拳の透明部分に殺されたのだ。間接的な自滅である。アホらしい話だ。
「よぉし!あとはおめーだゴブリンキング!!その大層な王冠を強奪してやるよォ!」
そうして2人を無力化し、残るはゴブリンキング。王とかあんま戦わそうな立場なのに、なんだかんだ強い装備と高レベルを持ってやがる。ふん、ゴブリンキングって言うのかい。贅沢な装備だね、今からあんたの装備を破壊してやるよ!!!!
「───ッ『サイドスライド』!!!」
気づかないうちに色々溜まっていたスキルの1つ、サイドスライド君。忘れられていたにしては勿体ない強力スキルである。キングが振り下ろした剣が当たる寸前、ギュイン!という効果音が付きそうなくらい急な動きでキングの真横へスライド。当たるタイミングだと思っただろうが、俺を狙った剣は地面に突き刺さっていた。つまり武器は地面に取られ無防備な訳で。
「ガハハハ!王の癖に戦術のせの字もねぇなァ!大人しく地面に帰れ!!『天喰』ゥ!!!」
地面から剣を引き抜こうとするゴブリンキングの真横でインベントリから予備斧を召喚。そして唯一斧でも使えたジョブスキルを発動し、首をめがけ叩きつける!
が、狙い通りに断頭という訳にもいかなかった。装備はなくとも立派な忠誠心を持つジェネラル君がキング君を庇ったのだ。そうしてジェネラルはポリゴンと化し、キングは余波で吹き飛んで行く。
そうして吹き飛んで行ったキングは、雑魚処理が終わったヘラの元に着弾。抵抗する間もなく、虚しくも首が飛んだ。
「おー、ナイスぅ」
〘スキル【アクセルストライクLv1】を獲得しました〙
何よりジェネラルの補助連携が1番メンドかったな、と感想を抱きながらも戦闘が終了する。そして新しくスキルも獲得したようだ。
〘エリア『蒼翠の森林』のコロニーボスとの戦闘が終了しました〙
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【BATTLE RESULTS】
【WIN】
撃破ボス:【ゴブリンキング】
報酬:小鬼の王冠
評価:B
貢献%:100%(ソロ)
称号┐
【ゴブリンキラー】
【小鬼の惨殺者】
備考:なし
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フォン、という音と共にバトルリザルトを表示するウィンドウがポップアップする。
エリアボスじゃなくてもバトルリザルトは出るのか。今までバトルリザルトは熊と狼しか出なかったから、エリアボスしか出てこないって言う条件でもあるのかと思ったそうでも無いらしい。
「………お疲れ様。なんというか、凄かったね」
『暴れてますねマスター。狂戦士もビックリな野蛮っぷりです。』
「なんで動物が吠えるか知ってるか?威嚇だよ威嚇。それと同じです〜」
ホントは別にそんな意図は無いが。楽しけりゃいいんだよ(ぶっちゃけ)
感想くれるとモチベが上がります。ええ。上がります。
ちなみにスキル詳細は次の話出だします。あと称号詳細も出します。そろそろ……ね




