#41 ヘラちゃんのwakuwakudokidoki強化プログラム!
「よし!次の街へ進もうじゃないか!」
時間も時間だったので、1度宿屋によりログアウト。睡眠をとった後に再びログインし、現在に至る。
それほど混んでいない道を歩きながら、一区と四区の間にある門へと向かっていく。そんな俺が連れ添っているのは、『始まりの街』のダンジョンで発見した少女と銃女。
ヘラとシュヴィである。
『それでこれから行くのはどのような所なのですか?』
「それがなんと知らないんだな。名前は聞いたけども」
俺は元々攻略Wikiは最小限しか見ないタチだ。NEOを例に違わず、持つ情報がほぼゼロだ。唯一知ってるのが、エリアの名前のみ。
『行き先を知らずに進むとは阿呆でしょうか?』
「こらシュヴィ、お兄ちゃんの悪口言っちゃダメ」
ナチュラル悪口を言われながらも雑談しながら歩いていく。
そうして歩くこと数分、目指していた巨大な門にたどり着く。2人の衛兵が横に構え佇んでいるのを脇目に、門をくぐり抜ける。
そうして街を出たその先に見えるのは─────────
「うむ。森……か」
『森ですね』
〘エリア【蒼翠の森林】に入場しました〙
鬱蒼と生い茂る……とまでは行かないものの、日光浴は出来そうにない木の密集具合だ。石で舗装されていた街から森へ出ると、VRなのにしっかりと感覚で分かるほど、土と石の感触の違いが伝わってくる。聞いていた名前の通りだな。
「すぅーーー、はぁーーー。空気がうめぇな」
深呼吸。新鮮な酸素が肺を洗い流すように循環する。気持ちの問題だか、やはりこういう所は良いな。
気持ちのいい木々の中、ゆっくりと進もうとするが、なかなかヘラが動き出さないので振り返る。
「………まぁ、船の中しか見てなかったらそうなるわな」
後ろを見ると、彼女は森を見上げたままボーッと立ちすくんでいた。
巨大な森を目の前にし、何が何だか分からないような様子のヘラ。街の中でさえ驚きで満ち溢れていただろうに、こんな大自然の存在を知ればそりゃ呆然とするというものだ。
「これが……外」
「どうだ?良いだろ森。日光浴とかもいいけどここじゃできないからな〜」
『日光はあまり通らなそうですからね』
ぽつりと呟く彼女。それに反応する俺とシュヴィの気持ちは一緒だっただろう。
そんな彼女を微笑ましく思いながらその手を取り、引っ張って先を促す。
俺たちは森の中へ駆け出した。
◇
「すごい………!!データとしては知ってたけどほんとにこんなにあるなんて!」
キラキラと目を輝かせるヘラ。色々なものを見て感激しているようだ。
このエリア【蒼翠の森林】はその名通りの森林だ。特に変なところもない、序盤エリアに相応しい雰囲気。そこには沢山の植生や、動物を元にした敵対または中立MOBなどの自然的な要素が大きい。
そんな中、色々な動物や植物。それに木々のせせらぎなどの船の中ではありえないだろう光景に好感触な彼女。
そんな、現実の森に若干忠実なこのエリアにおいての特異点が目の前に現れた。
「お、ゴブリンじゃん」
ギャギャァッ!という鳴き声を上げながらこちらへ向かってくるゴブリンが一匹。興奮していたヘラも少し怯えたのか俺の後ろに隠れる。
歩法もクソもないような、ただ目の前の生き物を殺さんと足を動かし走ってくるその姿。攻略の過程でのちゃんとした戦闘は意外と久しいかもしれない。
が……ここに居るプレイヤーにしては些かレベルが上がりすぎていたようで。
ドタドタと近づいてくる。数秒後ようやく俺の元に辿り着いたゴブリンは、目の前の頭めがけて思いっきりバトルアックスを振りかぶって叩き割ろうとする。
振り下ろされたバトルアックスを半身になり避けながら首めがけ一閃。呆気なく首が飛び、戦闘とも言えないような戯れが終了する。
ドロップアイテムとして発生した斧と腰巻きと羽を拾いインベントリへ入れながら、ヘラの安否を確認する。うん、無事だね。
戦闘が終わったことで安心したのだろう。ホッとしたように駆け寄り、ひしっとするヘラ。
うーん、少し思うことがあるな。
ここは楽だから良いのだが、やはり守りながら戦うというのは難しいだろう。たかがゴブリンでも、数十匹に囲まれてしまえばヘラを守るのは難しいだろう。
今の俺は手数の制限があるから数の暴力に弱いのだ。
だから……ヘラを育てたい。最低限自衛が出来るくらいには。
「なぁヘラ───」
「……やっぱりすごいね。ねぇあのさ、私も戦い方教えて欲しいんだけど……いいかな……」
おっと、思いもよらぬ申し入れがヘラから来た。まさかそっちが先に言ってくるとは。ナイスタイミングと言うべきだろうか?まぁ彼女に戦う意思があるなら非常に教えやすくて助かるな。
『マスター、私からも推奨します。彼女に戦うすべを教えるべきかと。あまりにも非力です』
シュヴィもそう提言してくる。やはり、これから進んでいく中でヘラが戦えないのはあまりよろしくないと判断したのだろう。戦えるようにする必要がある、と。
「うん。元々そのつもりだったし、せっかくだから今から進みながら教えよっか!」
「!!やった、ありがとう!」
デメリットも無いしいいタイミングだったのでもちろん了承。すると彼女は随分嬉しそうにそう言った。何が彼女をそれほど掻き立てるのかは分からないが悪いことでは無いな。
そうして、エリア探索を兼ねたヘラ強化プログラムが始まった。
◇
最初のゴブリン戦を終えて数分。周りにあまり敵性MOBがいない場所を見つけたので、まず教える準備をする事にした。
まず最初にだが──────武器の用意をしよう。最初というかそれが全てだな。
戦う訓練をする以前に、その人それぞれに合った武器や戦い方を用意しなくてはならない。と言っても、今の手持ちは非常に限られているので贅沢なことは言えないが。
「ほいっと」
そうして取り出すのは、ゴブリンが使っていた片手戦斧。それだけ。だって他に無いもの。
だがまぁゴブリンが使っていたとはいえ、しっかりとした作りに金属を用いた頭。丁度良いリーチに扱いやすさもある。ゴブリンの武器としてはあまりにも使い勝手が良い。もしかしたら、他の誰かが落としたものを使っていたのかもしれない。
俺には丁度良いのだが───果たしてヘラには扱い切れるかが不安だな。このSTRでもずっしりとした重さを感じるのだから、非力な少女には相当な負荷だろう。
「むーーー!ふぐぐぐぅぅぅ……ハァハァ。お、重すぎ〜」
「とりあえず持ち上げてみて──────って、無理そうだね」
うん。やっぱりか。地面に落ちた斧を持ち上げようと柄を持ったヘラだったが、どうやら重すぎて持ち上げられないようだ。
どうしようか、出鼻をくじかれてしまった。他に武器も無いし……。
『その刀を持たせたらどうですか?その斧よりはマシでしょう?』
「あー、ね。」
それが出来たら良いのだが、あいにく終深喰は永久帰属。持てるかは非常に怪しい。
多分無理だと思う……が、まぁヘラは試させろって目で訴えかけてくるし、1度やってみようかな。
「じゃあ、これ持ってみて」
終深喰を装備から外し、インベントリに戻ってきたのを取り出す。
おそらくシステム的に持てないだろうと予想していたのだが───果たしてその予測は外れた。
「───!軽い……!これならだいじょぶそう!」
「いやマジか。……良かったじゃん。じゃあこれからはそれで練習しよっか」
いや何故!?なぜ持てた?永久帰属って、某クラフトゲーの『束縛の呪い』的なものかと思ってたんだが。どうやら違ったらしい。これはまだ理解度が足りてなかったな。後々研究してみようか。
なんだかんだで武器はどうにかなったな。とりあえず最低限の準備はこれで完了だ。
「じゃあ、また先に進もうか!」
そうして俺の武器は片手戦斧となりましたとさ。なんでさ。おめーくそ重ぇんだわ。
ここから主人公のメイン武器は斧です。嘘です。いやホントかも。




