#40 仮初の救い
今年最後なので、せっかくだからあげよう。
良いお年を!!!!
勘のいい君たちなら察しているだろう。俺はダンジョンから出てきて現在QSE本部へ戻ってきたのだ。支援もしてくれるし、拠点的な役割でここを見ていたので、帰ってきたのだが……
「うーん、流石にまずいよな」
「やっぱり迷惑になりそう……?」
不安そうな目で問うヘラ。制御出来ない呪いで傷つけてしまうのを恐れているのだろう。
大丈夫って言ってやりたいのだが───NPCはほんとに取り返しがつかなくなる可能性が大きい。
恐らくかなりの重要NPCであろう「アリア・ジークフリート」は殺させたくないし、何よりこんな力を持っている子を連れてきてしまえば俺まで疑われかねない。
じゃあ何故ここに来たのかというと───
「ヘラ、ちょっとここで待ってて。すぐ戻る」
「え!?うん……」
そう言い残し井戸へ飛び込み、そして入ってすぐにこう叫ぶ。
「───所長!お金ー!!!金をくれ!!!」
「……おぉう、急だな!OKすぐ用意する!」
今1番必要なのはお金だ。ヘラ用の両眼の聖白ノ眼装と、ヘラの呪いを制限するための何かを買うためには恐らくお金がかかるだろう。
なので、1度QSEによっておこうと思ったのだ。
定位置なのであろう椅子に座っている所長は、急に現れた俺に驚いた素振りを見せながら後ろへ回る。
少し待っていると、大きな袋を抱えて帰ってきた所長。重そうに運んできたその袋の中には、大量の金貨が入っていた。
「え、こんなに貰っていいの?」
このゲームの相場について無知とはいえ、流石に大金であると分かるその量は、1個人にはあまりにも多すぎるように見える。
そんな大金に困惑していると、なんでもない様な顔をしながら「国の金だからな!」と言う所長。
ガハハハ!と豪快に笑いながらそう切り捨ててはいるのだが、流石にこの量のお金を渡していれば使い道も気になるようで。
「あー、ところで何に使うんだ?装備か?」
遠慮がちに聞いてきたので、こちらもなんでもない様な顔をしながら「拾い物をしたので。」と答える。嘘は言ってないな、うん。
「───そうか、まぁいい。鍵集めよろしく頼むぞ!こっちもこっちで情報収集しておくからな!」
「はい。では」
要件───お金問題が解決したので、手短に挨拶を済ませ、装置を起動してピョーンと跳んで上へもどる。
俺は同じ轍は踏まぬ男なので、今度は勢いのまま叩きつけられることもなく綺麗に着地する。壁に。そのまま地面にすとんと降りると、井戸のそばにヘラが顔を埋めて体育座りをしているのが見えたので声をかける。
「いくよ、要件終わったから」
パッ!という効果音がつきそうな勢いで顔をあげ、擦り寄ってくるヘラ。かわいい。
「………置いてかれたかと思った。」
「そっかぁ。大丈夫、置いてかねーから。」
まだ離れてから1分位しか経ってないはずなんだけどね……ちょっとヘラり過ぎじゃあないかな。
そんなヘラを落ち着かせながらも、木箱を足場に屋根の上へ登る。大通りで移動すれば、進んだ後にはレッドカーペットが敷かれることになるだろうからな……。
そうして、屋根の上を経由してまずやって来たのはこちら。
『装備屋』と看板があるこじんまりとした店だ。
「いらっしゃいませ〜!」
若い女性の定員が俺を迎え入れる。ようやく俺は初心者装備を卒業出来るのか……感慨深いな。
店内には、マネキンなようなものに被せられて展示されている装備がいくつかあり、近くに行くとその原材料や効果、名称などがウィンドウとなって表示される。
店内を回って色々と吟味し───
「あ、じゃあこれ1式お願いします」
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アイテム:小鬼の儀式服
レアリティ:希少
種類:小鬼シリーズ
効果:ゴブリン系モンスターから受けるダメージが50%減。鬼系モンスターに対する特効付与。
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金はある。じゃあ何を買おうかというと、もちろん1番高いものだ。だって俺の金じゃねーし。
レアゴブリンが落すレアドロップらしい。レアレアだね。
だがまぁ無計画に高いものを買う訳では無い。一番最初の森エリアはゴブリンがウロウロしていたのだが、2つ目の街に行く時に通るエリアには鬼系モンスターが出るらしい。
特効は頼もしいからしっかり使わせてもらおう。
そもそも問題は俺の装備では無い。ヘラの無差別虐殺をどう解決するかが問題だ。
店内を見て回っている中で目星が着いたのは───
「あとこれもお願いします」
「え、あのこれは売り物じゃ無いんですが……」
困惑する定員。それもそうだろう。店の端に積んであった布のロールを持ってこられたのだから。
「お金は言い値でお払いしますので……」
「はぁ、分かりました」
怪訝な顔でこちらを見ながらも渋々了承する定員。ヨシ。
さっさと会計を済ませ、屋根で待っているヘラの元へ戻る。そわそわはしているものの、屋根の上からだと姿が見えやすい分精神は安定していた。
「はい。これ着て」
船から出る時に装備庫から回収した服を渡し、黒い大きめのパーカーに着替えてもらう。
「あと、嫌かもしれないけど髪は一応切るよ」
「……はい」
そして、髪も一応切る。髪も呪いを媒介してしまうらしいので。
傷めてしまうかもしれないが仕方なく終深喰の先で短くする。少し寂しそうな顔で落ちていく髪を見ているヘラ。なんかごめんな。ジョキジョキ。
「はい、じゃあ最後にこれ。」
切り終わって最後に渡すのは長く白い布。包帯のようにも見える。
「──?どういう……」
「根元持って。ぐるぐる巻きにするから」
「えっ!?え、はい……」
両足足先から足のつけ根までをぐるぐる巻きにする。両腕もぐるぐる巻きにし、指先や首元までもぐるぐる巻きに。
最後に顔なのだが───
「……まぁ、顔はいっか。せっかく可愛いし」
顔に触って死ぬやつはほとんどいないだろう。それに触る方が悪い。ゲームのNPCとはいえ妹分的な子なのだから、それくらいは自由にさせてあげたい。
「まだ検証しないと分かんないけど、これで大丈夫なんじゃないかな?当分は。いつかは根本的な解決をしたいけどね。」
「───ほんと?私、大丈夫になれた……?」
縋るような声。
ダンジョンから出たあとずっと残っていた暗い顔が払拭される。不安そうな暗い雰囲気を纏いながらもハイライトの灯った瞳がこちらを見上げる彼女。俺はそんな暗い雰囲気を拭うように軽い調子で───
「うん。まぁ、大丈夫っしょ───って……」
そう答えると、涙を瞳に溜めながら抱き着いてくる。
「……ありがとう、ほんとうに」
彼女は、救われたような顔をしていた。
これでヘラ関連は一旦終わります。ちょっと正常攻略しながら、途中で鍵を出します。ちなみにもうこのタイミングで鍵は1つ出てきています。さぁ、何でしょう??
ヘラの格好は、でッドマウントディスプレイのレミングスの顔あり+女性バージョンとお考え下さい。




