#39 ─────【神の眷属を穢した少女】
「なんで、大丈夫なの?」
とても驚き戸惑ったように、そして少し嬉しそうにそう問う。
俺としても別に確信があった訳では無い。だが、俺は別にプレイヤーだから死んでもいいし、一応勝算のある賭けだった。
その根拠となったのが、一階層で食い殺された時。奴らはたぶん攻撃することで俺らに呪いみたいなものを与える(剣で刺された後に変になったと思うから)。
それなのに蛇に噛まれたあとも他プレイヤーの反応は変わってなかったから、多分俺の身には何も起きなかったのだ。
そこで立てた仮説が、呪い(仮称)は1人に同居することが出来ないというもの。お互いが反発しあう的な。
そしてそれが理由かは知らんが、結果的に何も起こらなかったのだ。
「君と同じだからだよ」
そう言いながらステータスを操作し、聖白ノ眼装を外す。
「わたしとおんなじ目…………」
「そう。同じなんだよね」
何故ここにいるのかも分からないしここが何だかもよく分からないが、とりあえずこの子は可哀想なので何とかしてあげたい。
それに俺と同じく深淵種の被害に遭っているのだから、彼女の問題を解決すれば俺の問題の手掛かりにもなるかも知れない。
だから、俺は彼女に手をかそうと思うのだ。
「じゃあ!貴方も居場所が無いの?」
「え?」
え?いきなり何の話?
「一緒だね……じゃあわたしがあなたの居場所になってあげる!」
「え?」
「その代わり、貴方も───私の居場所になって」
え?
「これからはずっと一緒だよ?わたしにはあなたしか居ないんだから。───」
怒涛の急展開。
おかしい。急にヘラり始めた。
「わたしの名前はヘラ。あなたは?」
おおぅ、お似合いなお名前で。
「俺はU。よろしくね」
「うんっ!よろしく!わたしたち、死ぬまでずーっと一緒にいようね!」
とりあえず仕方ないか。よく分からんが、仲間が一人増えたようだ。
え?
『……………なんですかこれ』
◇
「きゃあっ、助けて〜!」
「はいはい」
終深喰を横に一閃。鉄の狼がポリゴンとなり散る。
ヘラを連れてそのまま2層を探索──────なんてことが出来るはずもなく、1層まで戻ってきたのだ。そもそもダンジョン探索にそこまで興味ないのでし、お宝が2つも手に入ったのだからもう十分。
そもそも俺一人でもいっぱいいっぱいな2層を、ヘラも連れて進めるはずがないのだ。
鉄の狼の脅威が無くなったものの、少し怯えるようにヒシッと俺にへばり着く。
なんか可愛いのでそのままにしておこう。
そんなことより、シュヴィのお陰で色々面白いことが分かった。
まずはシュヴィについて。彼女(?)の弾はMPを使うため、弾を補充せずに無限に撃てるらしい。
ハハッ、いいね。うん。
次。彼女は魔力を発射しているので、それを変化させて属性を付与されられるらしい。属性についても詳しく教えてくれて、8つの属性を元に、それを色々組み合わせて様々な効果が発生させられるらしい。
ハハハッ、いいね。すごく。
しかも、アタッチメントを付けることで魔力を用いた形態変化が出来るようになるらしい。
HAHAHA。いいじゃん。
俺に魔力があれば……な。
「無能武器め……」
『恐ろしい風評被害を感じました』
そもそも、魔力器官が無いのがおかしい───とブツブツ愚痴るシュヴィ。
そう魔力器官。どうやら俺たちプレイヤーは魔力器官というものを内包しているらしい。だが、彼女が言うには大気中の魔力を利用して魔術を使用することも出来るというので、どうにかすれば撃てるようになると。
「あれっ、ネオさん帰ってきてる?」
おっと、考え事をしていたらいつの間にか最初のフロアに戻ってきていたらしい。
「あぁどうも。お先に失礼します」
「その子は……?」
ちっ
まぁ追及はされるだろうと思っていた。この大人数を今まで見た事が無いらしく、萎縮したように俺の後ろで縮こまっているヘラ。
「僕の妹です。彼女を探しにここへ来たんですよ───」
もちろん、追及された時のための言い訳は既に考えておいた。ここに来た理由とヘラについて同時に言い訳できる優れものだ。
「へぇ、そうなんですね!可愛い妹さんだなぁ、飴いる?」
「あ、ちょっとま──────」
────────────パァァァン!!!
やっべ、ちょっと想像してた悪い未来が起きてしまった。
飴をもらおうと手を出したヘラにほんの少しだけ触れてしまった好青年の彼。
えぇ、呪いによって弾け飛びましたとも。
「……っ!!わたし───」
「あー、皆さんすみません。この子は家族以外の人と触れてしまうと爆死させちゃう呪い持ちなんですよぉ。迷惑になっちゃいそうなのでさっさと退散させていただきますねーーーー(早口)」
言い訳を捲し立てながら、ヘラを抱き抱えて地上へ走り出す。
変なものを見るような感じで俺を見送るプレイヤー達。ようなというより変なものですねごめんなさい。
◇
「まぁとりあえず、ここまで来れば一安心かな」
抱き抱えていたヘラを降ろし、井戸に腰掛ける。
「───なんでッ、わたしは……だいじょぶってッ!」
「まぁまぁ落ち着け落ち着け。」
「落ち着けるわけッ───ない、でしょうがぁ……。またひとり、わたしのせいでっ」
あー、それもそうか。ずっとあの船に閉じ込められていたのだ。外のことは知らないのだろう。
「いいこと教えてあげるよ。あいつは死んでない」
「───は?」
「死んでないというか生き返る」
「は?」
だってプレイヤーだもの。
「ずっと船しか知らなかったから分からないだろうが、この世界───というか島にはね、不死の人間が蔓延ってるんだ。プレイヤーって言うんだけど。」
「なに、それ」
「死んでも生き返る。代償はほぼ無しだ。もちろん生き返らない人もいるから、気をつけて生きないとだけどね。」
ほぼ無しと言っても、一定期間ステータス半減はあるが。身をもって体験している。
「だから、そんなに気を詰めなくていい。だけど───まぁ困るからどうにか鎮める方法を見つけた方がいいな。」
「……ぐすっ」
あ、泣いちゃった
「よしよし、泣かないで。辛かったな。お兄ちゃんが助けてあげよう」
うむ。これで仮の戸籍「兄と妹」が誕生したな。これからは兄として妹を慰めてやろう。手のかかるのが一人増えたと思えば───
「ちが、わだし、嬉じくて。」
「……?」
「ずっとひとりで、助けてくれる人もいなくてっ。でも罰だからしょうがないって、思ってて───でもあなたが来てくれて。まだ自分が怖いけど希望を持てたの。」
「だから───ありがとう!お兄ちゃん!」
泣き笑いをしながらそういう彼女。過去と船に縛られていた彼女の心は、どうやら開放されたらしい。
〘特殊シナリオ【神の眷属は少女によって穢された】をクリアしました〙
〘特殊クエスト【神の眷属を穢した少女を殺せ】が発生しました〙
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クエスト:【神の眷属を穢した少女を殺せ】
詳細:個体名【ヘラ】を殺害してください
報酬:魔力器官の復元、終深喰の効果開示、守護檻の鍵
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「よしよし」
俺は彼女の頭を撫でた。
そろそろ、まともなゲーム物にします。本当はダンジョンとルナールエリアの間に通常攻略挟むつもりだったんですけど、偶然たまたま入れてしまったので主人公を入れてしまいました。
ちょっとイロモノ的な作品になりかけてますが、普通のゲーム物ですよこれ。




