#36 バンカー大迷宮攻略横道part7 取り残された少女
更新です。
ギルド:我利我利亡者のルビをスケルトンに変更しました。ガリガリな死者なのでスケルトンです。元は金(我利)の亡者です。
『装備庫』という名の通り、部屋に入った俺を迎えたのは大量の装備であった。
武器庫のように何も無いということも無い。ただ、なんというか……装備と言うには弱々しいようなものばかりが並べてある。服と呼ぶ方が正しいだろうか。
「これは……」
『おかしいですね。クローゼットには戦闘用の装備が格納されていたハズですが……衣服しか無いようです。』
どうやら『銃』によると異常な状況らしく、普段は戦闘用の装備があるらしい。なにかの入用だったのだろうか?
「そういえば、武器庫にも君たちしか無かったけど、それは正常な状況なの?」
何も無い部屋がスタンダードなら良いのだが───
『───いえ、私たちが部屋の壁や天井に格納されているのは存在を偽装するためです。その身代わりの為に武器が部屋にはあったはずですが、まさか……』
「どうやら君が知らないうちにここで何かが起きたらしいね」
これらが示すのは、戦闘が船内で起こったということだろう。なにかモンスターが中に出たのだろうか?
少なくとも何かの異変が起きたとみて良いだろう。
長居しても仕方が無いので、良さそうな服を何個かかっさらって部屋を出る。
廊下を歩きながら、幾つかの質問を『銃』にしてみることにしよう。
「ねぇ、君名前無いの?」
まずは名前について。正直ずっと『銃』と呼ぶのはいい気持ちでは無いから呼び名が欲しい。
『生憎私に名前はありません。『銃』とでもお呼びください』
そんな俺の気持ちも知らずにそう答える銃。じゃあ検証も兼ねてこう名付けよう。
「それはそのまま過ぎて可哀想だ。じゃあ君のことはシュヴィって呼ぼう」
『……語源を聞いても?』
「シュヴェールト」
『剣って意味じゃないですか。ひねくれた貴方にお似合いなネーミングセンスですね』
呆れたように、だが満更でもないようにそう返答するシュヴィ。
ドイツ語で剣という意味であるそれだが、どうやらこの武器はドイツ語がわかるらしい。なるほどね……。
「そもそもシュヴィってなんなの?」
次に根源的な疑問なのだが、そもそも銃にAIが付いているのがおかしいという話だ。
『聞いて驚いてください。私は──────
◇
シュヴィと問答をしながら歩くこと数十秒、装備庫からすぐ近くだったらしい廊下の端に到達した。そこにあった螺旋階段を登っていく。
そうして上の階へ到達したのだが……
「……随分と物騒なんだね」
2階のすぐ手前の壁についた複数の銃痕を触りながらそう呟く。
壁には銃痕だけではなく剣で切りつけられたあとがあったり、床には装備類や武器が散乱していた。
そして極めつけは──────
『そう……ですね。血飛沫の跡も見えます』
そう、血飛沫の跡か壁や床に付いていたのだ。これを物騒と言わずになんというのだろうか。
ここで何らかの闘争が起きたことは間違いないようだ。更に警戒を強めながら歩いていく。場合によっては宝探し所では無いかもしれない。
──────カツン、カツン
数分前と同じ音、しかしそれとは異なり明らかな緊張感を伴って響いていた。
そうして、1階と同じように新しく部屋をみつけドアの前に立つ。
何の変哲もないありきたりな普通の部屋だ。血塗られているのを除けばだが。
低い駆動音を立てながら開くドア。その音を聴きながら終深喰を前に構え敵に備える。
あまり広いとは言えないこの通路では、ある程度の大きさの敵なら一方通行に追い立てられるので逃げる方向は重要だ。
様々な状況を想定しながらゆっくりと部屋に入り──────
「!!」
想定していたうちの悪い方の状況が繰り広げられていたらしい。
1歩、また1歩と部屋に入っていく。
そうして入った俺をまず迎えるのは、ゲーム内であるはずなのにゲームとは思えないほどの悪臭。
なんとも例えがたいそれがいわゆる死臭だと理解した時には既にそれが目に入っていた。
床に倒れていて、上半身と下半身が分かれ、そこから内臓やら消化器官やらか飛び出ている死体が1つ。
壁に体を寄りかかりながら、頭が床に転がっている死体が1つ。
計2つの死体がその部屋には存在した。
「うぇ、気持ち悪ぅ」
体の断面はポリゴン化していてよく分からなくなっているが、飛び出た臓物やグジュグジュと腐敗した肉体はポリゴン化しておらず、気持ち悪いという感情が瞬時に出てくる。
唯一の救いと言えば、グロ系ホラゲーのお陰で耐性が出来ていたことくらいだろう。
手を叩き成仏を願いながら奥へ進んでいく。どうやらキッチン的なエリアらしく、奥にはシンクが付いた台所があり、調理器具などが散乱していた。
めぼしいものは無かったし、ゲームとはいえ死体がある場所に長居はしたくないのでさっさと退散する。
『それぞれ武器と装備を持っていましたし、お互いの傷がその武器と一致しています。つまり……そういうことでしょう。しかし何故……』
色々悩みながら呟くシュヴィ。
ここについて何も知らない俺にはどう返答することも出来ないので、ブツブツ言う彼女(女性音声なので彼女と呼ぼう)を放置して先へ進んでいく。
通路を歩いていくと、脇に複数の死体があるのが見える。それを避けながら進むと今度は大きなホールに出た。
「広いね」
とてつもなく広いそのホール。3000人は入るだろうか?そこにもたくさんの死体があったが、構うこともせずに舞台の上へ向かう。
なぜならそこに見つけたのだ。「生きている人間」を。
「やぁ、こんなとこでどうしたんだい?ママとパパは?」
舞台上、大勢の死体に囲まれ佇んでいる少女が1人。その両腕には男性と女性の死体を抱えている。両親だろうか?
舞台の上に上がり、そこに佇んでいる少女に話しかける。俺の声に反応しこちらへ顔を向け、その昏い目が俺を捉えた。
「あのね、みーんな死んじゃった。わたし、置いてかれちゃったんだ」
底無し沼のような、吸い込むような昏い目の少女は、こちらに微笑みながらそう答えた。
NEOは、良くも悪くも現実準拠です。
役者が出揃いました。それに加えて、NEOには血が存在することが分かりましたね。血の代わりにポリゴンが出ているのではなく、血がポリゴンに見えているのです。




