#3 高難易度ゲーが好きだから
おはようございます。
クリア後の朝は気分爽快だな。2時間位しか寝れてないことは大して問題では無い。課題がたまっていたのだ。まぁでもいい気分だし学校に行くのが楽しみ、ってそれはないか。ブルーマンデー症候群とかサ〇エさん症候群って言うくらいだし、やはり月曜日の学校は憂鬱だ。
着替えを済ませ、部屋を出る。
下の階に降り、リビングに入る。
居るのは母さんだけか。
「おはよ」
「おはよう、やっと起きたのね。朝ご飯出来てるから食べといてね。」
「父さんと悠彩はまだ起きてないの?」
「父さんは今トレーニングルームで筋トレ中よ。悠彩は一徹するとか言ってたからまだゲームしてるんじゃないの?」
「父さんが筋トレしてるってことは、大作ゲーに手を出すの?」
「ええ、私と義弘さんで『アルカディア・オンライン』を始めようと思って。」
「おー!あの神ゲーか!悠彩が昔やってたんじゃなかったっけ?」
「そうそう。あと、今からちょっと買い物行ってくるから義弘さんに聞かれたらそう伝えといてね。」
「りょーかい」
何を隠そう、俺の家族は全員ヘビーゲーマーである。父さんと母さんは、仕事の合間は全てゲームに費やしているのではないかと思うほどゲーム漬けで、なんなら仕事中もゲームしているのではないかと思っている。
「あ、おはよう。起きたんだ。」
父さんが階段から降りてきた。
「おはよう、父さん。『アルカディア・オンライン』やるんだって?」
「うん。遥さんに聞いたの?」
「うん。まぁ頑張ってね。」
「とりあえずトップランカーになれるくらいまでは頑張るよ。あれ?遥さんは?」
「買い物行ってくるって。」
「そっか」
てかそろそろ学校に行かねば。ご飯を、と言ってもヨーグルトと肉と野菜だけで炭水化物がない簡単なものだが、食べ、学校の用意をする。
「ふぁ〜、お兄ちゃんおはよ」
「おはよう悠彩、徹夜じゃなかったんだな、って髪がボッサボサだぞ。なおしてきたら?飯は用意しとくから。」
「ぅん」
やっと悠彩が起きてきたか。人格と生活習慣に多少の問題があるんだよな。
頭もよく要領もいい。能力はある。が、こやつは惰性と興味と好奇心でしか動かない、非常に厄介な生物なのだ。勿体ないとよく言われるが、本人は直す気がないらしい。
でも悠彩の好きなことである、ゲームもめちゃ上手いし才能があるしなんならプロだし、
ストリーマーとしても十分なトークスキルがあるから、何とか生きて行けそうで安心している。まだ少し不安だが。
「行ってきます」
「いってらっふぁい、おにぃちゃん」
めっちゃ眠そうだな。あと歯ブラシ咥えたまま喋るのはやめなさいな。みっともない。
家から徒歩10分位の駅に向かう。本当は、家から1分のバス停からバスに乗っても良いのだが、ジョギングでもしないと身体が衰えてしまうので、わざわざ遠いところから乗っている。
8分程のジョギングを終え、駅に着いた。電光掲示板を見ると、5分後に電車が来るらしい。いつも通りの時間だな。メールでも送って来るまでの暇を潰すか。
………
……
…
お、電車来た。夏休み前だからか、空いていたので無事端の席を確保することが出来た。眠いから寝よっかな。
おやすみぃ。
………………
…………
……
む、けはい?
「やぁ、悠くん。睡眠はいいがもう降りる駅だぞ?」
「あ、ほんとだ。さんきゅー、学級委員長殿。」
少し寄りかかり気味になっていた体を起こしながらそう答える。
「気にするな。それより、昨日はちゃんと寝たのか?」
寝たのは今日の朝なんだよなー。委員長真面目だしなんか言われそう。一昨日のでも答えとくか。
「徹夜しました。」
結局ダメじゃん。もっとダメじゃん。
「はぁ、全く君は…そんな風だと早死してしまうよ?」
「今日はちゃんと寝る予定だから問題なし。」
「無くはないだろ…」
この電車に乗ってると、75%くらいの確率でエンカウントする学級委員長、一条優羽さんと遭遇した後は大して特別なことはなく、学校に着いた。
一条さんは超絶美人だ。頭も良くて運動もできる。それゆえモテる。だが自分にはもちろん、他人にもとても厳しいので、俺はしょっちゅうダメ出しをされる。
友達はそこがいいとか言っていたがあまり理解は出来ない。
出来なくはないが、ダメだしされすぎてもはや先生みたいな認識だ。
よく俺にちょっかいかけてくるが、それは名前のせいだろう。ユウってそんなにありがちな名前かな。
その後、学校では終業式を行い、「遊びすぎるな」と「事故を起こすな」の二言喋っただけで終わった校長先生の言葉を聞いて帰ってきた。いつもの思うがうちの校長先生の言葉ってめっちゃ短いよな。校長は話が長いというテンプレートセオリーはどこに行ったのだろう。担任も5言くらいで諸注意を終わらせる。そう、明日から夏休みなのだ。だが流石に5言は少な過ぎない?
スマホに諸注意のちゃんとした概要が送られてた。
これで晴れて夏休みを過ごせる訳だが、俺には大きな問題があった。それはつまり、何をやるかが決まってないということだ。
同胞にオススメを聞いてはみるが、あいつらろくなの奨めてこないんだよな。フロスカもクリアした事だし、そろそろ大作ゲーに手を出そうかと思うが、良いの知らないかな。帰ったらメール送ろう。
………
……
…
メールは送ったが、どうせ直ぐには返信は来ない。今のうちにソシャゲのログボ諸々を受け取って、いつものをやるか。
10分程で、色んなスマホゲーやらのログボ受け取りを済ませ、棚の最前列にあるキューブを取り出す。このゲームは日課のようなものだ。やらないと勘が鈍る。
VRチェアに座り、俺は呟く。
「Start the game」
さぁ、ゲームを始めよう。
«『マジック☆スターライト』にログインしました»
見慣れたUI表示を消し、ロビーからゲーム開始のUIを開く。
俺と同じように日課ゲーにしてる奴もいるが、それでもだいぶ過疎ってきたな。
難易度を〘地獄〙に設定。
そしてゲームの開始ボタンを5回連打し、ゲーム開始までのカウントダウンが5、4、3、2、1となったそのゲーム開始1秒前でゲームを退出する。
すると、新しくUIに難易度に〘拡張〙が追加された。
今では慣れた作業であるこの一連の流れであるが、実はこれ、とあるプレイヤーが運営に掛け合って追加された難易度である。
そのプレイヤー(俺のネッ友なのだが)が作ったその難易度は、本人曰く、標準難易度の最高峰である〘地獄〙を500倍ほど難しくしたものらしい。
そもそもこのゲーム、『マジック☆スターライト』は、50年前、つまりVRテクノロジーの公開直後に発売された当時の神ゲー、今の良ゲーである。
「飛んでくる魔法を避けまくれ!」
が、このゲームのテーマであり、公式サイトでも掲げられているこの言葉は、このゲームを最も良く表している。一言で言えば弾幕ゲーなのだ。
大きな円の上で、飛んでくる魔法を避け続け、どれくらい被弾を抑えられるかが勝負であり、〘地獄〙では、Hpが50に設定されている。つまり50回当たればゲームオーバーなのだ。
ならば〘拡張〙はどうか。実はHp設定が1000なのだ。
拡張コマンド発覚当時は、ほとんど全てのプレイヤーがHp設定が1000であるのはバグもしくは設定ミスなのかと疑い、余裕だろうと思った。
そして結果は、挑戦者の99.99%がゲームオーバー、つまり被弾数が1000回を超えたのである。
そして残りの0.01%はなんと父さんだったらしい。ゲームログで1万回目までのデータから算出したパーセンテージなので、間違いはないらしい。
ちゃっかり1万回以内に入っているところも父さんの凄いところだな。競争率凄かったろうに。回線強者しか1万回に乗れなかったので、当時からガチゲーマーをやってたことが分かるな、とそんなことは置いといて。
父さん以外のプレイヤー50万人がクリア出来なかった所で、救済のためか、あるシステムが追加された。通称「殺気システム」。人の第六感とも言われる勘を増幅させるシステムで、某ネッ友が作ったシステムだが、感じる殺気があまりにも多いので大して役にたたなかったらしい。
話が逸れた。俺は毎日その難易度〘拡張〙をやって、己のPSを鍛えてるのだ。被弾数が1桁になったことは3回だけで、そのうちゼロ被弾が1回のみだ。ものすごく大変だった鬼畜ゲーをクリアした後の残りのテンションで行ったらパーフェクトクリア出来たんだよな。1回でも動きをミスると、連鎖して200回くらいくらってそれで集中力切れてまた当たるんだよね。
それじゃあスタートするかね
«ゲームを開始します»
宇宙空間の中に浮く小惑星のような場所に切り替わる。
この、約30mちょいの円形のような所で避けまくるのだ。魔法で地面が削れるのがいやらしいところだ。
まぁ集中していくか。
………
……
…
ふぅ、疲れた。ゲームで疲れるというのも変な話だが、実際に脳を結構使うので仕方がない。まぁ楽しいので良いのだが。
被弾数は37だった。まぁ良くも悪くもないな。
集中できない時は100を超える時も多々ある。
そう考えると悪くは無い。
«『マジック☆スターライト』からログアウトしました»
日課を終え、返信が来てるかを確認する。
お、来てる来てる。