#27 斯くして彼はNPCとなった
更新です。なんかあんま進まねぇです。
そういえば気づいたら週間1位でした。いつもありがとうございます。
「ぶぐぇっ」
井戸から飛び出て勢いのまま近くの壁に叩きつけられ、その衝撃を全身に受けカエルが潰れたような情けない声が出る。
いてて、と呟きながら慌てて立ち上がり、誰かに見られてないかと左右を見渡すが──ふぅ。
良かった、誰もいないな。
もしも井戸の中から吹っ飛んでくる俺の姿が見られでもしたら、ネットで話題になること間違い無しだっただろう。悪い方でね……。
ネットのおもちゃは今後も勘弁だなと1人思案しながら、大通り方面へ裏路地を歩いていく。
昨日は追いかけっこやらなんやらでゆっくりしていられなかったが、今こうやって歩いてみると色々面白いものが見つかるな。
なんと言っても路地の脇。その有り様をよく示している。
ネズミ型のモンスターがうろついていたり、廃棄された果物の腐り果てたのが詰まった箱が置いてあり、etc……とにかく、忠実に不衛生が反映されていた。
ゲーム特有のフィルターがあってもグロいもんはグロいな………ずっと見ていると気分が悪くなる。
なるべく早くここから抜け出そうと急ぎ足になる。
そうして歩くこと数分、大通りに到着する。が、すぐには裏路地から出る気にはなれない。
夏休みで再び爆発的にプレイ人口が増えたのであろうか、それとも時間帯の影響か、理由は分からないが、昨日通った時とは比べ物にならないほどの混雑さだ。
「……裏路地よかまだマシな空気か。」
ここから出たら直ぐに人に揉みくちゃにされて人の波に流されてしまうだろう。そして追われても身動きが取れずに即確保だ。
しっかりと電波妨害腕輪が機能しているか不安になるが………ここで二の足を踏んでいてもしょうが無いか。よし、物は試しっ!
ドキドキしながらも堂々と裏路地から出て、大通りを歩き出す。人々の反応は………無だな。
昨日は人の目に止まれば直ぐにでも捕獲しようとしてきたが、NPCに擬態した今の俺は誰にも目を向けられることは無くなっていた。
良かった!上手く機能しているらしい。これで問題なく、誰にも構われずに移動が可能となった!
それにしても凄いなこの電波妨害腕輪とかいうアイテム。これ既出じゃなかったら割と大発見なものなのでは?後で調べてみよう。
所長が太っ腹で助かったな〜こんな優良アイテムくれるとは。相当な熱量で外が知りたいんだろうな………それだけじゃ無いっぽいけどね。
いやー、良いねぇ快適に遊べるって!
このゲームの醍醐味は緊張感のある戦闘だけじゃない。というか、未知の世界の探検が1番この世界を楽しめるはずだ。なにせ全現象に練られた設定があると謳っているのだから。
それを誰にも邪魔されずに楽しめる!嬉しいな!!
………………。
「……なんでこんなことで喜んでんだろ……」
喜ぶのも束の間、唐突に虚無感が襲ってくる。普通は今頃もっと進んでんだろうな……ストーリーとか進めて面白いもの発見したり……神ゲーと呼ばれる所以の「果てしないコンテンツ」を楽しんでいたのだろう。でも今の俺はようやっとスタートラインに立てたってとこなんだよな……NPCとして。
いやなんでだよ。NPCのフリして遊ぶプレイヤーとか初めて聞いたわ。
どこに向かっているのか分からない人の波に流されながら、心の中で悪態をつく。
どれもこれも全てあのリス地バグ?のせいなんだよな……。しかもNEO内で発生する全現象は仕様だっていうから問い合わせは出来ないし。オプションとしてね。本来ならガチギレ案件かもしれないが、バグかと思ったら実は演出の一部で、問い合わせしたら「仕様です」って帰ってきた前例もあるし、なんとも言えない。
このゲームマジで謎だな、色々と。
そして今1番知りたい謎はこの集団がなんなのかということだ。
大まかな進行方向と時間から考えると、多分今は一区のどこかを進んでいるはず。ちょうど中央くらいかな……?
一体こいつらは何処へ……
「ばふぁっ!?あっ、すみません!」
勢いよく進んでいた人の波が急に止まり、前を歩いていた人の背中に顔からダイブしてしまう。
別に俺が完全に悪い訳では無いが、ぶつかってしまったのは事実なので直ぐに頭を下げる。
「あぁ、大丈夫だ。この人混みだからな、気にする事は無い。それに俺も急に止まったから……って、NPCか?」
わーお超イケボ。衝突した人──ガタイがよく筋肉がついたアバターの男性がこちらを振り返り、低音ボイスを響かせる。
女だったらイチコロなイケおじマスクに、そのビジュに解釈一致する低音イケボ。こりゃ男でも堕ちてまうぜ……!
「?どうした。頭でも打ったか?まあゲームにそんなものは無いだろうがな。いや、NPCならあったりするのか?」
「ああ、大丈夫です。ところでこれの集団は一体…?」
頭上のネームタグが表示されていないせいでNPCと認識されているらしい。それならせいぜい最大限利用させてもらおう。
どうやらこのイケおじの反応的に、この集団にNPCである俺がいたのは予想外であったらしい。現実世界で告知されたイベントか何かがあるのか?それともプレイヤーだけが受注出来るクエストとか。
まぁなんにせよ、NPCとして認識されるのは、「無知であること」あるいは「プレイヤーが知らないはずの事を知っている」ことのいい口実になる。
それにどうやらこのゲーム、プレイヤー間の関係が割と歪なようだ。『煌光の剣』とやらが情報開示しているだけで賞賛されているのもそうだし、アイリス達もそうだ。たかが俺一人を探すためにあの人数を動員するというのは、あまりにもコストパフォーマンスが悪いように思える。だが実際はそれ相応の理由があるのだろう、だって実際行ったんだから。
何が言いたいかというと、そこまでしても取りたい確固とした優位性がこのゲームにあるのでは無いだろうか?それのせいでトッププレイヤー達は各々殺伐としていて、イニシアチブを取るために「新情報:俺」が欲しかった……とか。
そんな水面下バチバチで情報戦やらなんやらをやってるプレイヤー諸君なんかにまた纏わりつかれるくらいなら、無知なNPCの方がよっぽど良い御身分だ。
「君は知らなくて当然だが、すぐそこの迷宮の超大型レイドが11時半からあるんだ。プレイヤー主催のな。」
裏でいろいろ考えながらもそれを1ミリも表に出さず、人当たりよさそうな顔でイケおじ君の反応を待っていると、その言葉が帰ってくる。そしてその言葉に、経験則的な心当たりから妙に納得をした。
あぁ、人海戦術による高難易度ダンジョンのごり押し攻略───いわゆる『フロスカレイド』の拡張派生版か、と。
ここから主人公はNPCとなります。ご了承ください。
割と新しいんじゃないかな?主人公がNPCになる展開。
元々NPCは見た事あるけど、NPCになるのは少ないのでは……?
〜以下布教〜
キタニタツヤさんの「化け猫」、良すぎるのでぜひ聞いてみてください。




