#18 何かと阻まれたけど切り抜けた男。
更新でぇぇぇぇぇぇぇ
無機質で殺風景な部屋に簡素な机と1組の椅子。
扉の外には俺が暴れた時に取り締まるための憲兵がいるのだろう。
この部屋で今まで何人の犯罪者が犠牲になったことか……
だが、ここの空間まで入って来れればこちらのものだ。だって実際俺は化け物なんかでは無い。
悪いことをしていないのだからあれこれされる道理はない。
アイツらがいう化け物がどんなものかは知らないが。
まぁあの程度の嘘でここまで通してくれるなら楽だな。
さて、これから尋問されるのであろうが、どれ程情報が得られるだろうか?後に行うであろう情報収集の手間が少し省けるといいのだが。
初めて対面して交流するNPCであるのだし。この世界についての造詣を深める良い機会であろう。
ガチャ
扉が開き、立派な服を着た人を中央に3人が入ってくる。
扉を閉める時に見えた外の憲兵の数は2人か。まぁ妥当だな。
「待たせたな」
中央にいた、自分がこの中で一番偉いよ!と言わんばかりのオーラを放つ人物が、俺の向こう側の椅子に座る。
「いんや、忙しそうだしねぇ。俺は気にしないよ。」
ふむ。
第一印象からの評価は────美人だな、ということ。凛とした佇まいに、確実に強いであろうと思わせるようなそのオーラ。頭も周りそうなキリッとした雰囲気。
まさに、超絶仕事できる人の具現化のような女性だ。割とタイプ。
憲兵は、魔術持ちを呼ぶと言っていた。この人は尋問に適した何らかの魔術が使えるのだろう。妥当なのは真偽判別系か?
「私はこの街の騎士団団長である『マリー・ユーリシア』だ。」
「俺はU。よろしく。」
よし、こっからは真面目にいこう。まだ尋問の段階だ、敵と判断されるルートが完全に閉ざされた訳では無い。
ここからは返答には気をつけないとな。
「私は発言の真偽を見抜くスキルを持っている。無駄に嘘をつくことは疑いを増長させると心得なさい。」
「あら?正直に言っちゃっていいの?」
「言ったところで優位性は変わらないからな。」
(ふーん)
その発言によって、スキルの判定方式のアタリがついたなんてことには気づいていないのだろう。心の中でほくそ笑む。
「そうかい」
本質的な質問をされる前に、色々と試してみよう。まだ嘘がバレた時のリスクは少ない。
「有意義なお話をしたいもんだね」
本心からの言葉。だが団長さんはあまりご機嫌では無いらしい。真顔だ。
「………では、尋問を始める」
〘通常シナリオ【尋問】を開始します〙
「まず最初の質問だ。」
彼女の目がほのかに光を放ち始める。スキルエフェクトであろうか。
「まぁまぁ、そう焦んなよ。ちょっとお話しようぜ?せっかく美人さんと関われるチャンスなんだ。楽しませてくれよ。」
手始めにちょっとした検証から始めることにする。
まずは思考量で──────
(────)
「そんなしょうもない言葉で誤魔化そうとするな。」
「でも本心だぜ?」
(────)
「言っただろう。私には真偽を見抜くスキルがあると。つまらない嘘をつくな。」
「ホントなのになぁ」
(────)
「!……?」
澄ました顔をしていた彼女に、一瞬驚愕の面が現れる。
直ぐに無表情になるが、その一瞬の変化を見逃す俺では無い。
(この反応は当たりか)
というのも、NEO内のいくつかのスキルにはプレイヤーの心あるいは思考を読むことによって発動する種があると聞く。思考入力が存在している時点で、技術的には可能なわけだが。
そもそも「美人」か否かというのは、主観的な評価に過ぎない。だが、俺の「美人」という主観的評価に対しスキル効果が発動した。
その事実が示すのは、団長のスキルが「真実」か「偽」かを判定するスキルではなく、真か嘘かで結果を出すスキルであるということ。
そして、もしそういう仕組みならば、ある程度対策は出来る。
それは『圧倒的な思考量による塗りつぶし』だ。
最初は「団長は美人では無い」という思考を過度に行う。そして「ホントなのに」と言ったタイミングでは、本音を曝け出す。
もし最初のスキル判定で「美人」という言葉が嘘と出た場合、すぐ後に本音が届き、「団長は美人だ」という1つの言葉が嘘と本音の両方として届く。
二律背反的なそれ。スキルによせていた信頼が、大きく揺らがす。
その予想外の動揺が、顔に出た。
思考由来のスキル判定で無いのであれば、どちらも「真実」と出るため動揺はせず、無表情を保っていただろう。
やはり思考を読まれるというのは厄介ではあるが、こちらが思考を制御できる+単純な事しか悟られないのであれば、こちらが相手の印象を操作できる。
早くしてヌルゲーになったな、あとは情報を聞き出して終わらせてしまおう。
「どォした?なんか変なことでもあったか?」
「……いや……なんでも…ない。続けるぞ。」
ポーカーフェイスを保ってはいる彼女ではあるが、内なる困惑が隠しきれていない。
仕事が出来そうな美人さんが取り乱すのはなんかいいよね。
「1つ目、何が目的でこの街に来た?」
目的。装備やらリス地固定やら色々あるが、1番の目的と言えば待ち合わせだ。あれ?そうだっけ?ゲーム内の目的が待ち合わせってなんか変だな。
まぁいっか。
「待ち合わせだよ。遊ぶ約束してたの。」
嘘をつく必要もない。俺は無実。イノセント。潔白なクリーンなのだ。
「……は?貴方が、か?」
む。
「は?ってなんだよ。酷くね?俺だって遊ぶ相手くらいいるぜ?」
(まぁキャンセルされたけど)
別に悲しくも無いけど、変な遠回りばっかしてるせいで中に入る頃には配信終わってそうだな……という思考。
やはり俺の悪運は今が最高潮らしい。
チュートリアルにこの尋問って、本当についてねぇや。
「……そう。じゃあ2つ目、あなたは化け物?」
「違う。てか何?化け物って。抽象的すぎるだろ。」
思った以上に実りがないことに少しガッカリする。
ちゃんとした話がしたいのに訳の分からない情報しか出てこない。手に余ることを聞かされても、どうせ脳の片隅に押しやられる運命であるのに。
だが状況が特殊なため考察要因が俺しかいないのも事実。それは少し問題だ。
情報屋的存在や考察ギルドとかに持ち込めばいいと思うかもしれないが、そんな軽々しく扱える情報では無い気がする。
なんというか、深いというか。
「次、3つ目だ。」
うーん、意味ないなぁ。
「なぁなぁ、もう止めねぇか?」
「……何を言っている止めるわけがないだろう。」
そもそも別にそんなことしなくても暴れねーから。
心配性だな。まぁ、街の門番的存在だろうし分からんでもないけどね。
「だから、俺は別にわざわざこんなことしなくても問題なんで起こさないって言ってんの。」
「そんなもの、信用出来るわけが無いだろう。馬鹿なことを言うな。」
でも俺の言ってることが真実だってスキルに出てるだろうに、と心の中で愚痴をこぼす。
時間の無駄な気がしてならない。
「ふーん、じゃああんたの持ってるスキルのこと信じてないってことか?ますます意味ねぇよ。」
「そういう訳では……」
「そういう訳だろ。俺の言ったことが真実だってスキルで分かってんのに俺の事信じねぇんだろ?」
「なぁなぁ、もうちょい建設的にいこうぜ?忙しそうなのに、こんなことに時間取られたくねぇだろ?」
団長さんの目の下のクマが睡眠不足を物語っている。忙しくて寝る時間が無いのだろう。NPCにも栄養失調とかあるのか。
「まぁ忙しいが…」
「じゃあ良いじゃん。合理的に考えなよ。」
「………………」
目に見えて迷いだした。
無事言いくるめられそうだと安心する。
迷うこと10数秒、決心が着いたのか瞼を閉じて息を吐き出し精神を整える姿が見えた。
「………分かった。尋問はここまでにしよう。」
よし。
「団長!宜しいのですか!?」
まさか言いくるめられると思っていなかったであろう後ろの憲兵が驚きの声を上げる。
手でそれを制止するような仕草をしながら立ち上がる。
「これで尋問を終了しよう。だが最後に2つ聞かせてくれ。」
立ち上がったものの、未だこちらを見据える団長。
なんだろうか?
「いいよ。なんでも聞きな。」
「君のその目はなんだ?」
「呪いだよ呪い。【神の嫌印】ってやつ。」
違う。いや、そうなのかもしれないが、断定は出来ない。という本音を心の深くへと沈め、再び『塗りつぶし』を行う。
……反応からして、やはり上手く対策が出来ているようだ。
今回は何とか誤魔化せたけど、ちょっと自分の状態を確認するタイミングを設けないとな、と思う。
なんか変になってるらしいし。
「……そうか。では2つ目、君は……いや、やはりなんでもない。」
なんでもないんかい。
まぁ多分、最初のお世辞が本心かどうかの話だろう。
なんだかんだ照れ屋さんかもしれない。
「そう?じゃあもう行っていい?」
「ああ、行っていいぞ。」
うし。
大した時間ロスじゃないけど、早めに終われて良かった。そう前向きに捉えよう。
「おっけー、じゃあね。お勤め頑張れ〜。あ、美人ってのは本心だよ。今度お茶しよーね。」
「……ああ。」
最後まで思案顔だけど、言質取りました。美人団長さんとお茶が出来ます。やったね。
〘通常シナリオ【尋問】を終了しました〙
〘派生シナリオ【欺瞞】を開始します〙
お腹の中で虚無空間発動してます。
お腹がすきました。
遊戯王はよく知りません。
あ、ちなみに今回はフラグ回です




