#17 なにかと阻まれる口八丁な男。
更新じゃああああああ
現在時刻、7時27分。
約束した(させられた)待ち合わせ時間から約45分ほど遅刻中である。
遅刻魔。約束を守れないゴミ。そう言われても仕方ない時間だ。
だが、俺の心にそれに見合った焦りは無く、足取りも緩やか。
丈の低い草を踏みながらのんびりと歩いていく俺の前にスライムが立ちはだかる。
ぽよん
目の前でぷるぷる震えながら佇むそれの核的なものを枝でちょんとつつくと、シューっと音を立てながら霧散した。
「おっ、ようやく街が見えてきたぞ」
現在位置は、始まりの森と街の間に存在するエリア『始まりの草原』。
めちゃくちゃ遅刻してるのになんでそんなにのんびりしてるかって?
話はチュートリアル後に遡る。
◇
「やべぇやべぇ!このままじゃ間に合わん!!」
『始まりの森』にて、木々の間を全力疾走にて駆け抜けていく男が1人。俺だ。
時刻は6時40分。あと5分で約束の時間だ。ここで遅れてしまえばあの子は非常に不機嫌になることは分かっていた。
ピコン♪
「う゛っ」
軽快なゲーム内メッセージの通知音がすると共に、空から降りてきた紙飛行機が全力疾走の俺と並走する。
俺がこのゲームにおいてメッセージを送れる関係、つまりフレンドであるのは1人だけだ。
もちろん妹の事であるのだが。
なんで5分前に居ないの?とか言われたらどう返そう……と、言い訳を考え始める。本当なら考えつくまでメッセージを開きたくないところだが──────それはより事態を悪化させることになると分かっている。
全力疾走を続けながらも恐る恐る紙飛行機を開きメッセージを確認する。
だがそれは俺が恐れていたようなものではなく、果たして救いの手であった。
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To:U
From:Ur
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件名:ごめん
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本文:急に配信予定が入っちゃった。準備時間のせいで遊べなそう……ドタキャンになっちゃうけどまた後で遊んでください。
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「マジかっ!良かったぁ〜」
思わず安堵の声を零し、全力疾走を止める。
チュートリアルのせいで不機嫌にさせるところだったが、配信予定に助けられた。グッジョブマネージャー!
急ぐ必要が無くなった俺は、のんびりとしたペースで進もうと決めたわけである。
◇
そんなのんびりウォークで1時間弱歩いてようやく見えてきた【始まりの街】。
ゲーム内の街だと甘く見ていたのだが、近づいてみるとその大きさに驚きを隠せない。
目を凝らしてみる。
しっかりとした門に、両脇に構える槍を持った憲兵。検問を受けないと通れないように都市を囲む高い壁。
「すげぇな」
非常に本格的。都市としての構造が、理にかなっている。
そんなコメントが最初に出るような出来と規模であった。
「取り敢えず入るか〜」
草原を走る風に背中を押されながら、歩いていく。
近づくと更に大きく見える始まりの街。様々な障害を乗り越えてやってきた最初の目標地点。
その大きさにワクワクし、少しずつ歩が早くなる。
そしてそもそも、俺の足も早くなったので、思ったよりも速度が出る。
さっきまではやっと見えるくらいであったが、Lvアップによるステータス増加の恩恵で俊敏性が大幅に上がった。
その足のおかげで、遠くに見えていた街がもう近くに。
(ステータスのおかげで移動が楽になるのはありがたいな)
このゲームでは転移装置などは存在するのだろうか?そこら辺も、街へ到達したら確認しなければだなと思う。
憲兵も俺に気づいたのか、ジリジリと近づいてくる。
街に入るのに手続きが必要なのだろうか?
さっさと終わらせて早く街に入りたい気分。すこし面倒に感じる。
だがゲーム内の検問イベントなんて、短時間のものな筈。速攻で終わらせて─────
──────いや、なんだ?少し変な雰囲気が漂っている気がする。
「ッ!!そこの者!止まれ!」
2人の憲兵の内の1人、頭上に『ガラン』というキャラクターネームが浮かんでいる方がこちらに向かって怒鳴っている。
なんだかピリピリしている憲兵。その雰囲気に当てられ、自分も緊張が高まる。
(何かのイベントか?戦争イベント……なんて話は聞いてないが)
少し怪しい雰囲気だ。
「おい!止まれと言っている!!!」
もう片方の憲兵、『アルバート』と言う名前の奴も同じく怒鳴りながら近づいてくる。
検問、にしては厳しい言葉。
少し歩くスピードを落とす。刺激して戦闘に入れば、NPC敵対ルートに入りかねない。
だが、近づかないと街に入れないので接近しないという選択肢はない。ジレンマ、板挟みだ。
「……警告はしたぞ」
2人の憲兵が、俺を挟み込むようにジリジリと移動し、そして俺に向かって牽制するように槍を突き出す。
(……なんで槍を俺に?)
いつフラグを建てたのだろうか?なぜこれ程危険人物扱いされ、警戒されているかが分からない。
「なになになに?なんでそんなにピリピリしてんだよ?」
なに特殊なイベントでもあるのたろうか?
戦争イベントでもあるのならこの緊張具合にも説明が付くのだが。
いや、それにしては警戒が薄い。どちらかというと、俺個人に対する感情のような。
「黙れ邪悪な化け物め!何が目的でここに来た!」
ん?
「……はぁ?邪悪な化け物っつーのは俺のことか?」
訳が分からない。
(なんで急に化け物扱い?初対面の人に酷いじゃないか)
訳が分からない。どこかでイベントフラグを建てたらしいのだが、全くもって心当たりがない。
「貴様以外に誰がいる!大人しく目的を吐け!!」
どう対応すべきか。
思考する。
街に入れなくなったりしたらシャレにならないし、なんで化け物扱いされるのかも気になる。
まず何よりここで敵対したら今後のゲーム生活に支障がでる。選択を間違えてはならない。
まずは友好的な姿勢を見せて何とかしてみるか。
「目的なんてないぜ。街は人が来るとこだろ?」
「だが貴様のような人外が来るところでは無い」
ぐふっ。
メンタルダメージがクリティカルで入った。
容姿弄りは禁止カードと幼稚園で習わなかったのかよコイツは。
俺のルックスはそんなに人離れしているのかと自己嫌悪に……。そんな馬鹿な、俺は割と顔がいい部類だと認識しているぞ。
ナルシストでは無い、客観的な認識だ。では一体問題は何か?その検討がつかない。
鏡とかで見れば、分かるだろうか?
「人外?心外だな。れっきとした人間だよ。」
だがこれはれっきとした事実。正当性がある事実なので、認める権利が俺にはある。
「馬鹿な。そんな簡単に我々を欺けると思うなよ。」
ふむ。
断固認めない様子。
どうしようか、このままだと本当に敵対してしまう可能性がある。
仕方ない。
色々情報を引き出してから俺の言いくるめでてやろう。
「逆に俺のどこが人外なんだよ?」
「戯言を。その邪悪な目を見て人間と思う阿呆がいるとで思ったか。」
目……ね。
どうやら目がイカれてしまっているらしい。
心当たりは──────有りまくりだな。
現在インベントリに格納されている、ゴミ武器こと終深喰。俺の右目はそれに貫かれた。もしやそのタイミングで何らかの効果を受けた可能性。
ありよりのありだ。
「あぁ、俺の目の話か。これは呪いの一種でな、お前もそういう呪いを聞いた事あるだろ?」
若干のヤマを張った出まかせ。
なにかにカスることを期待する。
適当に言ってみたけど、ありがちな設定ではあるはず。
「……あぁ、【神の嫌印】か。それは眉唾で実際は化け物の弁解だと聞いたが。」
ビンゴ。ここを押せば行けそうだな。
「弁解を出来る脳がある化け物がフィクションを使うわけねぇだろ?実際にある呪いを流用したんだよ。」
知らんけど。
「実際にそうだったとしても貴様は何故それを知っている?」
頑張れ俺の創作脳!即興で、できるだけありそうな設定を考えるのだ。幸い、コイツの知識は少なそう。
「そりゃ嫌印持ちの当事者だからな。そんな噂のせいで迫害でもされちゃあ困んだよ。真実探しくらいするさ。」
「知った方法を聞いているんだ!」
「知らねぇと思うが、嫌印持ちにもコミュニティがあるんだよ。そこから流れてきた情報だ。」
「……そうか。だが、完全に信用できるわけもあるまい。」
「じゃあそんなに信じられないなら検査してみろよ。」
「……隙を突いて暴れる積もりだろう?」
「暴れるならわざわざお話したりしねぇよ。それに俺がほんとに化け物だったらお前らなんて瞬殺だし、瞬殺じゃねぇ弱さなら検問しなくても中で取り締まれるだろうが。」
「……それもそうか」
これは堕ちたな。
「どうせなんかあるんだろ?検証出来る何か。」
「…………いいだろう。ついてこい。」
背中に槍を突きつけられたまま、門の横の検問室に入れられる。
この流れなら俺の勝ちだな。
「少し待っていろ。該当魔術持ちを呼んでくる。」
目。右目です。報酬落とさなかったくせになかなか遺産が多いですね。




