#15 横道ありきのチュートリアルRTA
短いです。明日も更新します。
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【Player Dead】
リスポーンしますか?
『Yes/No』
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ログイン直後に表示されるのはデスを通知するUI。
キャラクリエイト時と同じ、真っ白な空間のなかでポツリと浮かぶそれを見ながら、俺は思考する。
(『月環樹の頂き』で死んだけどリスポーンはどこだ?)
普通は全プレイヤーが最初に転送される初期エリア、『始まりの森』。今問題であるのは、開始直後に『始まりの森』で行うはずのチュートリアルをすっ飛ばした状態であるということだ。
俺の初期配置がバグか仕様かは不明だが、少なくとも悪運が只今絶頂期を迎えていることは確か。憂いが拭い切れない。
「Yes」
しかし、この奇怪な空間に置いて俺ができるのは、自分のリスポーンを操作することだけ。実質的には一択のそれ。必要なのは押す勇気。
覚悟担当の真摯な願いだ、頼むぜシステム!
光と共に視界が切り替わり、目の前に新たな景色が入ってくる。
◇
〘エリア『始まりの森』に入場しました〙
生い茂る緑の木々。透き通った空気。雪フィールド特有の肌寒さは消え失せ、赤みがかった蒼穹は生まれた生命を祝福するように広々と拡がっていた。
「はは、爽快な気分だな」
緑の葉枝の隙間から見える朝焼けの赤。少しずつ明けている気持ちがいい日光が体を暖める。
〘チュートリアルを開始します〙
待ち望んでいた宣告が聞こえてくる。それと同時に表示される、新人を導かんとするUI。
正規リスポーンに成功したことを示すその声
喜ばしいアナウンスだ。
しかしそれを差し置いて俺を感嘆させたのは、その世界の圧倒的なリアルさであった。特異な状況下なため忙殺されていた昨日では薄かった実感が、今、濃密な情報となって五感を刺激する。
風が肌を撫で、葉擦れの音が静かに空気を揺らす。戦闘時では無い、ゆったりと流れる時間軸だからこそ感じられるそれらが、心に染み込んでいく。
〘視点の操作を確認してください〙
出来ればずっと感動の余韻に浸っていたいが、そのアナウンスを聴いて「待ち人のために進行なければ」と我に返る。今までのVRが陳腐に思えるほどリアルな世界であるが、チュートリアルはあくまで王道のようだ。
まさに現実の身体を動かすように感じるアバター。違和感は完全に仕事を辞めたらしい。
視界に現れた的に、カーソルを合わせるような形で進行していく。出来るだけ早く正確に行おうとするも、チュートリアルすらもワクワクする気持ちが抑えられない。この単純な作業ですら、面白い。楽しみながらも、慣れた手つき──目つき?で合わせていく。
(やっぱり、新しい世界に入り込んでいく高揚感はいいな)
ゲーマーが感じる楽しい瞬間ランキングに、間違いなく上位でくい込んでくるであろう、「ゲームを始める瞬間」。
このゲームも例外ではなく、初めて接する世界に対する悦びは大きい。
既にだいぶプレイしているのは置いておいて。
〘ステータスUIを開いてください〙
次はステータス。事前に開き方は知ってはいたが、初見の人のためUI表示されたモーション映像に合わせて開いてみる。
みるのだが──────
「─────なんだこれ?」
ウィンドウは表示される。
しかし表示されている文字の大半が、虫食いされたように黒くなっていたり、文字化けしていた。
さらには、黒く塗りつぶされたウィンドウに纏う赤いスパークと共に、色彩が箇所箇所で反転したりブレたりと、まぁ一言で言えば『バグ』が発生したような状態になっている。
「あーあ、【異端】の副産物でステータスまで使えなくなっちまったか?ハハッ笑えねー」
気持ちがいい林の中の背景に恐ろしいほどマッチしない異物、思わず気落ちする。
そして何より問題であるのが、バグって破損したらしいステータスウィンドウでは、〘ステータスUIを開いた〙判定にならないらしいということ。
異端の遺したあまりに大きな遺物を目の前に「どうすりゃええねん」と声が洩れる。
システムがどうにかバグを直すのを期待し──────
(あ、俺そういやシステムに嫌われてんじゃん)
と思い出す。
「ははは…………」
笑えない。
システムがダメならシステム君のバグに願うしかない。
「どんな邪教だよ……」と思いながらも願ってると、あれ?バグにバクを直せって変だな?と、どこか見当違いな考えまで浮かんできた。
どうしようもない。
「おっ」
だが事態は、案外簡単に解決するようだ。
願いが通じたのかは分からないが、バチッバチッというスパーク音と共にステータスの色彩が通常に戻り、文字化けが直る。
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PN:U
Lv:76
職業:〘流離人〙
所持金:5000モネ
称号:【超成長】
SP:290
体力(HP):20
魔力(MP):--(破損)
筋力(STR):40
持久(STM):25
防御(VIT):10
俊敏(AGI):70+10
器用(DEX):15
技量(TEC):60+10
幸運(LUC):30
心核:速技
装備
右手:なし
左手:なし
頭:なし
胴:初心の衣
腰:初心のベルト
脚:初心のズボン
足:初心の靴
アクセサリー:無し
所持スキル
・『乱斬』
・『穿刃』
・『弐抜断』
・『飛牙』(New)
・『天喰』(New)
・【天ノ反逆Lv4】
・「軽業Lv7」
・「呼吸法Lv5」
・「走行Lv6」
・「食い縛りLv2」
・「跳躍Lv5」
・「投擲Lv1」(New)(破損)
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「ほぅ」
ほぅ。
色々と興味及び好奇心を唆るモノが目に入ってくる。
詳しく見たい──────のだが、それを始めてしまっては時間が取られることは分かりきっている。
後回し後回し。色々気になるんだけど後回しだ、と自分に言い聞かせる。悠彩待たせてるから、ツッコミたいけど後回し。そうしないと後で面倒が待っているとわかっている。
よし。────────つ、ぎ。
断腸の思いで、後ろ髪を引かれる気分でステータスUIを閉じる。
〘武器を装備してください〙
「ステータスオープン」
食い気味でステータスを開く。お、今の俺なら早押しクイズ大会を総ナメできるな。
武器装備するためには一旦ステータスUI開かなければならない。そして開いてしまえばもう好奇心は収まらない。
そもそも、熊戦のリザルト確認をお預けされているのだ。なのでこれは、ゲーマーなら誰しも愛するそれをお預けされた反動。
(そう。俺は悪くない。遅れても兄を恨むなよ、悠彩)
心の中で免罪符の販売を開始した後、詳細の確認を始めた。
まず気になるのがこの(破損)っていう表示。魔力と「投擲Lv1」が破損している。どういう条件で破損するのだろうか?
「うーん、あるとしたら過剰出力か?
目ん玉撃ち抜く時に使った「投擲Lv1」はLv1にしては異常なスピードだったし。あんなんでLv1なら、LvMAXになったら山でもブチ抜けそう」
考察を言語化していく。口に出すことで、その考察に対して心が評価を行っていく。
でもそうするも魔力が破損してんのはよく分かんねぇな?と、脳内井戸端会議が結論を出した。会議室が速攻閉廷する。
ふむ。検討の余地あり。
「次、俺のレベルについて。
始めて1日もせずに、ようここまで上がったな。インフレし過ぎでは?ツキノワグマ関連は負けイベ想定だった?」
そもそもこの時点でのエンカが想定外か?仕様かバグか、それが分からないので評価のしようが──────
〘武器を装備してください〙
ない、と考察が止まる。
考察にかまけてしまい、時間経過がシステムを怒らせてしまったようだ。促されてしまっては仕方がない。
さっさと拾った終ノ光刀を────
「あるぇ?終ノ光刀がインベントリにないぞぅ?」
勝手に免罪符売りだしたからか?これがルターの洗礼……
描写を変えましたなう(2023/07/19 14:36:05)
書き方を相当変えました。
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