#13 戦闘終了後。なんか変だなと零す変人が変なエリアを闊歩する。武器は無い模様。
「うーん、なんか違うんだよなぁ」
枝葉が雪に覆われ、幹や根から仄かな光が放たれる月環樹。
それが集合した純銀の白い樹海を歩きながらそう独り言を零す。
危機的な状況は去りもはや急ぐ必要は無くなったので、終ノ光刀の回収場所へゆっくりと歩きながら少し考え事をしていたのだが。
「端から端まで違和感しかねぇ」
そう。違和感がものすごいのだ。
雪に足を取られながらもせっせと歩を進めながら、
手元のUIに映し出された【BATTLE RESULTS】を眺める。
このUIとアナウンスによると、あの黒い奴を倒せたのは確実。
それはいいのだ。
だが、余りにも簡単すぎる。
【天ノ叛逆】による置き攻撃。あくまで一時的、その場しのぎのつもりだった。
なのに結果は、撃破。
あのLvにしては、HPが低すぎる。
倒しきれないことを想定して、わざわざ太陽の神獣の存在まで見出したにも関わらず、結局太陽の神獣が居そうな2つ目の丘に行くことは無く戦闘が終了した。
未開拓エリアで、しかも神の名を冠するMOBがそんなに弱くていいのか?
それにそもそもLv198?だったか、そんなに高レベルエリアボスとの戦闘を一日目にしているこの状況も異様。
普通は初期街の周りに湧き、チュートリアルが始まるはずなのだ。
異様な状況を余りにもノーガードで受け入れすぎていた。
【BATTLE RESULTS】にめちゃくちゃこき下ろされて批判されているのも違和感。
てか、そう。バトルリザルト。
おま、そんな言うことないじゃん。異端とか、死を持って償えとか、大罪とか禁忌とか。ひでぇよ。
神の獣殺したのマズかった?まぁたしかにマズそう。
……まぁ気にしなくていいか。システムの不興を買ったとはいえ、それはそれで一興だ。俺を不快にさせちゃうようなそんなシステムはぶち壊してやろう。
勇みながらずんずんと進んでいくが、終ノ光刀は一向に見つからない。
早く見つけて次の行動に移りたいんだが……
特に言えば、早く街に行きたい。リス地設定、HP回復、装備入手、そしてチュートリアル。普通、ゲームの始めたてで必要な事が何一つ出来ていない。
そして、腹に穴がぽっかり空いたまま過ごすのも嫌だ。早く修復させてくれ……。
早く見つかれと願いながら歩き回るも、思いは届かず虚しく散る。
そういや、シナリオ確認してないな。
ホラー感ある名前してたけどまぁ確認しない訳にもいかない。
うーん、今回はどれくらい罵られるかな?
UIを開き、該当シナリオをTAPする。
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◆ワールドシナリオAS【異端】◆
タイプ:特殊(影響型)
推奨Lv:非推奨
備考:異端種は死ね死ね死ね死ね死ね死ね
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うん?あんまりパンチがないね。
備考でちょっとチクチクするだけ。
それにあんまり詳しいことは載ってないっぽいし、現段階じゃあなんの参考にもならなそうだ。
推奨Lvが非推奨になってるのはツッコミどころだが、そもそもツッコミどころなんぞ最初から無数にあるし。
拍子抜けって感じだな〜と、UIを消し前へ進み出そうとしたその瞬間、シナリオを確認したことによる確実な変化が訪れる。
〘ワールドシナリオAS【異端】を確認しました〙
〘シナリオ効果を発動します〙
アナウンスが流れシナリオ効果なるものが発動された瞬間、視界の右上から禍々しいオーラが一瞬放たれる。
思わず身震いしながらそちらを眺めると、月環樹の上部の枝に終ノ光刀らしきものが刺さっているのが見えた。
まさか落下中に刺さるのは盲点だった。見つかってラッキー、と思いたいところだが嫌な予感がビンビンする。
跳躍を贅沢に使用し、引き抜ける距離まで到達する。手を翳し引き抜こうとするのだが、どうにも触りにくい。
見つけはした。見つけはしたのだが手に取りたくない、そう思わせるような見た目に変化していたのだ。戦っていた時は、煌めく光を放つ綺麗かつ高貴な見た目をした刀だった。ハズなのだが……
「なんだこれ……」
刀身が黒く染まり、幾何学的でありながらも生物的な何かを感じる紅い模様が入っている。そのうえ、黒い靄を纏っているという、如何にも呪われてますと高らかに主張するような禍々しさのオンパレード。普通に手に入れた剣だったら、厨二感のあるデザインだなとしか思わないのだが、経緯が経緯なのだ。下手に呪われたり祟られたりしかねないし、されたら困る。
放置するのはあの鹿に申し訳ねぇし、そもそも武器がないから取りに来たのだ。まぁ、仕方ない。
ふぅ。
よし抜くか。
「もってけハート13個!」
覚悟を決め掛け声とともに柄に手を掛け、勢いよく引き抜く。
───ッしょっ!
引き抜いたすぐ後に下に放り投げ数秒気を張り、なにか影響はないかと警戒する。
が、杞憂だったようだ。
過度に警戒した俺を嘲笑うように風が吹き抜け、電子の海ながらも肌寒さを感じながら息をつく。
なんつーか、フロスカも割とマゾ鬼畜ゲーだったし、その前のやつなんか行動タイミングをカンマ001くらいの精密さで要求してくる割とえぐいゲームだったし、このゲームならいい息抜きになるかと思ったんだけどな。
なんで初めて1日くらいでこんなにずっと神経尖らせてんだよ……
はぁ。と、溜息を着きながらも大樹の幹を滑るようにして慎重に降りる。忘れそうになるが今のHPは1。降り方ミスって落下ダメで死んだとか大恥もいい所だ。
「禍々しい刀の安全性も確認出来た事だし、ピリピリすんのもこれくらいにして街への道を模索するか〜」
下に落とした刀を拾い上げ、UIを操作し装備しようとする。だが失念していたことがひとつ。疲労のせいでたまたま気が付かなかったのか、はたまた認識はしていたが認めたくなかったか。どちらにせよ、見逃していたひとつの要素が文字通り命取りであった。
まぁ当たり前と言えば当たり前な話であるが。引き抜いてから放り投げるまでのたった一瞬。そんな短時間で物の本質を判断できるわけが無いだろう。
「ぅえッ」
再びの困惑。そして驚愕が襲う。仕舞おうとしていた刀が急に手元を離れコントロールを失う。そして鳥のような速さで蝶のように宙を舞い、脳天を突き刺そうとしてくる。
辛うじて脳天直撃は避けた。だが疲労により反応が遅れ避け切ることは出来ず、代わりに犠牲になったのが右目。
右目を貫かれて無事なはずもなく、HPが減少し───
HP0
その表示に目を向けながら思わず呟く。
「そりゃ……、ねぇだ……ろ……」
満足したように刀から離れ、何処かへ消え去っていく黒い霧を左の視界に捉えるも、その視界も徐々に暗くなり
ブラックアウトした。
〘称号【復讐されし者】を獲得しました〙
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【Player Dead】
リスポーンしますか?
『Yes/No』
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いえーい初デス乙〜
初心の刀についてですが。ただ刺さっただけじゃなくて、刺さって縮小した後に吸収されてます。描写ぶそく




