#1 歴史的配信『フロスカクリア!』
処女作です。よろしくお願いします。
「すごい…」
私は配信者としても、1ゲーマーとしても、実力のある人間であると自負している。
実際、得意なゲームジャンルならプロゲーマーと渡り合えるし、配信者として影響力なら並のプロゲーマーを上回っている。
そのツテでプロゲーマーとコラボしたりして、様々なゲーマーを見てきた。そんな私でもすごいと呟かざるを得ない。その人のプレイスキルはそれほど卓越していた。
たけのこ:動きエグすぎ
るる:ひとつの動作でボス複数体に攻撃してる…
実鈴:納得出来ないし理解も出来ねぇwww
傍目でコメントが流れていくのを眺める。リスナーさん達も私と同じ気持ちのようだ。
コメントウィンドウから目を離すと、攻略に参加した人々が目を丸くしているのが目に入る。
中にはプロゲーマーもいたが皆等しく目を見開いていた。
口を開くものは誰一人としていない。
数年間クリアされなかったフロスカ最終ステージが今日遂に攻略されるかもしれない。
私が主催した攻略に集まってくれた、半透明のトッププレイヤー達総勢500人強の間には、異様な雰囲気が漂っていた。
………
……
…
『Floors to the Sky』通称フロスカ。
グラフィック良し、サーバー良し、民度良し、ストーリー良し、コンテンツ良し、キャラメイクのパーツも豊富、設定も細かい、そして楽しい。
どこも非の打ち所が無いように見えるこのゲームであるが、実は物凄い致命的な欠点を抱えていた。
『敵が強すぎる』
というものである。
予備動作ほぼ皆無、掠れば即死、HPも多く、動きも早い。そして何より致命的なのは、そのMOBが同時に複数出現する時があることだった。
全長10メートルはある99層のボス〘帝狼フォックスドッグ〙の前足パンチを受け流す。
受け流す向きを調整し、背後から、体は普通の大きさなのにその5倍くらいの斧を持つ〘巨神メギテラクス〙によって放たれた斧の縦ぶりに当てる。
〘神魔導士グランウィーズ〙によって放たれた極大の雷に斧を当てて自分を守りデカブツを感電させる。
そして俺は呟く。
「いやキッツいな」
一体一体が強いのに連携してくるからとても厄介だ。
しかもよりによって生き残ってるのが俺しかいない。
いや無理くね?みんなレイドボスやぞ。なんで1人で複数のレイドボス相手にしてんだ?規模違いすぎるだろ。
まぁ楽しいからいいけど。
というか場外にいる死んだプレイヤーたち目が痛い。死んだら半透明になるシステムだからよけいに幽霊っぽくて怖い。
長い間クリアされてないらしいが、知り合いに誘われて軽い気持ちで攻略配信に参加したのでそんな期待しないで欲しい。
そんなことを考えながらも、状況は進んでいく。
続けて繰り出されたワンコの噛みつきを上に飛んで回避し、そこに飛んできたミサイルのような魔法を下に弾きワンコの目に当てる。怯んだワンコの頭に乗り、スタンから解けたデカブツの横振りの斧を無理やり下に受け流す。
「ぐっ、流石にダメ食らうか」
完璧に受け流せず、弾き飛ばされたが、何とか空中で体制を整える。
吹き飛ばされたのを見たプレイヤー達は悲鳴をあげる。
そんなリアクションしないで幽霊さんたち。素直にビビる。
フィールドは平坦な大地なので遮蔽物となるようなものはなく、遠距離攻撃が出来るメカ魔法使いにとってはいい的だ。
すかさず高速で数多のレーザービームが放たれる。
地表を抉りながら到来するビームの間を疾走し、跳び、潜り抜け、時には弾きながら近づいていく。
ワンコは、デカブツ(斧)を直で食らって流石にタダじゃ済まないようで、明らかにHP少ないので命削って動いてますみたいな赤色と黄色のバチバチしてるオーラを纏っている。
しかし、フロアボスであるこいつらは、フロアの王として自分に対する反逆、つまり攻撃がとても許せないようで。であるなら攻撃されたら仲間でもやり返さないという道理は奴らにはないらしく、ワンコとデカブツの争いが始まっていた。
それをレーザーの雨を掻い潜りながら確認した俺は、メホウツカイに直行する。
最初から戦わせ合うのが正解だったんじゃねとは思ったが、取り敢えず勝機だ。
メホウツカイの元へ辿り着いた俺は、長剣を片手に魔法を避けながらの攻撃を試みる。
足に一閃、からの俺の接近に対抗して魔法で作りだしたらしき剣を持ったメホウツカイと剣戟を繰り広げる。
だが、本職が純魔なロボであったからか、強くはない。
突きを躱し、顔に切りつける。一応最上階に近いボスであるため、それなりの防御力を備えているのか、剣が弾かれる。
が、その勢いを利用して、身体を回し、正面に向き合い、目に突きを放つとHPゲージが目に見えて減る。
「こりゃ時間かければいけそうだ」
そして、メホウツカイの目を狙って突くのを繰り返す。
「多分ラストォ!」
目を突かれながらも剣を振り上げたメホウツカイは、俺に向かって剣を振り下ろす。
紙一重でそれを避け、首に剣を振る。
メホウツカイのHPゲームはミリしか残っておらずほぼ無。
あと一撃で死ぬという所だった。
これでメホウツカイとの戦いは終わりになる…はずだった。
それを見たのは偶然だった。そのメカの目に反射して見えたワンコの姿を認識出来たのはただの偶然であった。
オーラを纏いながら重心を落とし、口を大きくあけ、そこから光が…
「ビィィィィィィム!?」
メホウツカイと戦っていた間にずっと溜めていたのだろうその極太レーザービームが口から放たれる。
首を切ろうとしていた体勢から無理やり方向転換、メホウツカイの顔を蹴って離脱…とほぼ同時に眩い光に呑まれてメホウツカイが消滅する。
そしていかにも命使い切りましたみたいな顔してワンコがパタンと倒れる。
「え」
《Congratulations!第100層がクリアされました》
まじでこれで終わり…?
「スッキリしねぇぇ…」
はぁ?味方巻き込んで自滅って…はぁ!?
いいとこでちょっかい出して来てしかも命尽きるのかよ…
消化不良な気分になっちまったわ
はぁぁぁ??ふっざけんなし
《戦闘が終了したため、ラストロビーへ参加プレイヤーを転送します》
心の中で愚痴っている間に、再度アナウンスが流れ、自分のアバターが光に包まれる
そして視界が白くなっていき…
だだっ広い大地に転送された。
そして空間に大きく映し出されたウィンドウの上で、壮大なBGMと共に目の前にエピローグが流れ始める。
他のプレイヤー達はまだ幽霊状態は解けていないようで、たくさんの半透明の人々が涙ぐみながら嗚咽を上げていた。
どんだけだよ。
というかシステム的に泣けるんだな
とかそんなことを考えているうちに、スタッフロールが流れ始めた。こいつらは何をどう考えてあんなボスラッシュをやらせたんだろうか?きっと頭のネジが弾け飛んでるに違いない。
天才と狂人は紙一重だとか言ったりもするけど、真理だったのか…。
しょうもないことを考えているうちにスタッフロールが終わるそして、攻略した全てのプレイヤーがロビーに再転送される。
そしてロビーに着いた途端人々は興奮したように騒ぎ始め、まるで祭りのような状態になった。
とてもうるせーな。
おっさんアバターでギャン泣きとか需要が皆無なんだよ。え?ないよな?
まぁ一足先にログアウトさせてもらおうかな。
システム画面を開き、ログアウトボタンをタップしようとし…
「ちょーっとまってぇええ!!」
お祭り騒ぎの中でもよく通る聞き覚えのあるその声による威圧に、一瞬身体が硬直する。そして腕が掴まれた。
「あ、この度は攻略に参加させて頂いてどうもありがとうございます『アリス』さん。」
綺麗な赤髪を長く伸ばしツインテールに結え、幼い顔つきをしているながらもしっかりと発育のいい姿をしたアバターの少女。が
なにやら必死な顔つきで俺の腕を掴んでいる。
この少女は、VR用の動画配信サイト、VRityで配信している、登録者数270万人越えを誇る有名チャンネル『アリスinげーみんぐわーるど』の配信者である。今回の攻略を主催したチャンネルのひとつだ。
しばし沈黙が漂う。相当言葉を選んで話しかけようとしているようだ。目が少し泳いだ後、意を決したように重々しく口を開く。
「あなた、一体何者なの…?」
俺は自分の頭の上に表示されているはずのプレイヤーネームを指さし、
「『U』という者です。」
「あらそうなんですか、こんにちはUさん…ってそうじゃなーい!!!」
セルフツッコミをしながら少女は叫ぶ。
「そうじゃなくてね!なんですかあの動き!あんな凄いプレー初めて見たわよ!どこの所属の方なの!?」
凄い勢いだな。さすが配信者ってとこか。
というか所属って…プロって誤解されてるのか?尊敬するような眼差しを向けて来てるけど、残念ながら期待に添えないんだよね。プロじゃないし。
まぁ誤魔化す理由もないので正直に答える。
「無所属です。」
少女の顔に驚きが浮かぶ。
「……えっ?あんなに実力があるのに何処にも勧誘されてないんですか!?もしかして全部蹴ってるとか?」
というか最初からプロって思ったのはなんでだろうか。調子が良かったのは確かだが。
「え?あ、いやそうじゃないですけど……」
そのことを聞き、アリスはブツブツと独り言を言い始める。
「本当にただ勧誘されてないだけなのかしら?こんな逸材が今まで在野に埋もれてたなんて信じられない…。私もプロデビュー考えてたし、いっそ勧誘しちゃおうかな。」
面倒事の予感。あ、というかもう夕食の時間だ。
「あの、ちょっといい…」
意を決してアリスが口を開いた。そしてそれに被せるように、鳥がまだ爬虫類との境目を彷徨っていたであろう時代から存在する切り札を発動する。
「フレに呼ばれたので抜けますね^^」
ログアウト
「……かしら、っておーい!??まって!ちょ!」
…………
………
……
ちょっと申し訳ないけど、ご飯なのでしゃーないよね。
「悠~!ご飯できてるよー!」
母上の呼ぶ声が聞こえる。
「今行くー!」