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転生

 

 目が覚めると純白の空間の中にただ一人で座っていた。


「僕、死んだんだな…美咲泣いてるんだろうな」


 鏡がないので分からないが恐らく死んだ時と変わらない姿なのだという確信がある。

 一つだけ明らかに違うのは入院中に来ていたシンプルなパジャマではなく、彼女がコーディネートしてくれた僕のお気に入りの服装だという事だ。


「ここは死後の世界って事でいいんだよね?三途の川もないけどここからどうしろってんだか」


 川も雲も羽のあるちっちゃな天使もいないただただ真っ白な世界。

 聞いていたような場所とは違うがイメージ通りのような気もする。


「にゃぁ」


 久しぶりに聞いた懐かしい鳴き声に振り返る。

 そこには美咲に預けたリュカとアリスのお兄さん。先代猫のリアムがいた。


「久しぶりリアム。君がいるって事はやっぱり僕は死んじゃったんだね」

「にゃぁ」

「また会えて嬉しいよ。このままこの空間で一人ぼっちだったらどうしようかと思ってたからさ、ありがとう」


 座っている僕の膝の上にゆっくりと登り得意げな表情で僕を見上げる。

 きっと今までも近くに居てくれたのだと思う、生きてるうちは分からなかったけどこうやって再開出来ると嬉しいものだ。


「リアムはずっとお主の側に居ったぞ。彼が病気で死んでしもうた三年前からずっとな」


 その声に驚き顔を上げるとそこには白い法衣に身を包み立派な髭を蓄えたお爺さんが立っていた。

 目の前にいるのに全くと言っていい程に気配を感じない。


「貴方は神様って事でいいんですかね?」

「お主が神だと思えば神であるし違うとも言える、儂はお主自身や人々の意識の集合体であって神という存在は個人ではないからの。信仰や妄想が産み出した幻覚や幻聴と言っても間違ってはおらんよ」

「それは熱心な人が聞いたら卒倒するか怒り狂いそうですね。けど、どうりで神様っぽい神様が出てきたもんだと思いましたよ」

「カッカッカ、歯に衣着せぬ物言いいで気持ちがいいの!」


 このお爺さんの言うことが正しければ目の前のこの神様は死後の世界においての僕の妄想。

 顔も髭も髪も服装や声、口調まで僕が心の奥底でイメージしている神様の姿形なのだろう。

 そんなことが出来てしまうのであれば、結局僕にとってそれは神様以外の何者でもないのだから信じるほかない。


「このままこの空間で過ごしたいという訳でもあるまい、輪廻転生を望むか?それとも別の世界へ行きたいか?」

「別の世界ってのは異世界みたいなことですか?やっぱりあるんですね」

「そりゃあるじゃろ、なぜ地球のような星や宇宙が一つしかないと言い切れる」

「それは確かにそうですけど」

「お主が儂を想像したから今の儂の姿があるように、神への畏怖や信仰があるからこそそう言った存在が生まれるように異なる世界という存在がお主の先にあるのは紛れも無いお主自身がそう信じているからじゃ」

「美咲に感謝しなくちゃですね」


 どうやら賭けには勝ったらしい。

 余命宣告を受けてからの短い余生を来世への予習に費やした僕と彼女の時間は決して間違ってはいなかったみたいだ。

 答え合わせは終わった、彼女に教えてあげることが出来ないのが残念だけどいずれ美咲も同じ道を通るのだろう。

 あと五十年以上先かもしれないし、もしかしたら僕と病室で過ごした記憶すら忘れていたらこういった答え合わせはできないのかもしれないが。


「それで、何を望むのじゃ?異世界転生に期待しておる所悪いのじゃが…儂、つまり神たる存在から勇者よ!魔王を討ち滅ぼすのだ!なんて展開はないぞ?異世界で勇者にも魔王にもなる事は叶うかもしれないが、それはお主の選択であってお主は神の使徒や神からの願いで異世界へ転生する訳では無いからの」

「それなら僕はどんな世界に転生するのでしょう?」

「それこそお主自身が選ぶのじゃよ、世界の形は無限にある。無限とは言えお主が想像出来る範囲でしか現れん事を考えると有限とも言えるがの。いくつか要望を言ってみい、それに近しい世界へ送り出してやろう」

「それはなんとも嬉しい限りですが、少しばかりサービスが過ぎるのでは?」

「嫌なら適当に選ぶが剣と魔法の永遠の乱世の世界でも文句はないな?」

「いえ、すみませんでした神様。では何点かだけ要望を聞いてください」

「良かろう。その全てを叶える約束など出来ぬが言う分にはタダじゃ、好きなだけ申してみよ」


 好きなだけとは流石は神様だ。太っ腹である。

 けど、僕が答えた要望は三つだけ。我ながら欲が無いとは思うが多くは望まないし必要ない。


「では一つ目、剣と魔法の世界がいいです。俗に言うファンタジーな世界がいいんですが平和な世界でお願いします。あと、言われてないからってなるのが怖いので一応なのですが魔法適性のようなものがあるのであればください」


 転生した途端に何百年と続く乱世の中なんてのは御免だ。

 そして魔法世界は譲れない!魔法適性なんてものがあるのかは知らないがこう言っておけばこの神様は多少考慮してくれるだろう。

 魔法世界に転生して何も魔法を使えないなんて真っ平御免である。


「二つ目に、病気であっさり死んじゃうような人間は嫌です。あとこれまでの記憶を持ったままにしてください」


 これは切実なお願いだ。

 今となっては病気で死んだことも悪くはなかったと思えるが、死んでいなければやりたいことも行きたかった場所もある。

 それに沢山のものを残してきたしやり残してきた、異世界に行ってまであっさり死ぬのは避けたいしこれまでの全てを忘れて生まれ変わってもそれは僕とは言えない。


「三つ目、リアムも一緒に転生させてください。そしてもしも叶うのであれば僕の彼女だった子、美咲と預けた猫達アリスとリュカが死んだ時は僕と同じように選択肢を与えてくれないでしょうか…?僕の願いは以上です」

「その願い、しかと聞き届けたぞ!ではこれらの願いから近しい世界へ送り届けよう。良き生を送るのじゃ」


 目の前が光に包まれてこれまで以上に白くなる。

 睡魔に襲われ自然と瞼が下りて微睡の中に落ちていくような意を任せると強烈に心地の良いあの感覚が全身を包む。



『…マエ、…カナカ テルナ …コセ』



 微睡の中で誰かの声が聞こえた、聞いたことのない知らない人の声だった。

 その声が聞こえると同時にこの死後の世界に来てからずっと近くに感じていたリアムの気配が離れるのを感じた。

 僕は目を開けることも手を伸ばすことも出来ずに、ただただ夢の中に沈んで行った。


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