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00b 余生を全振り

彼女視点です。

 

『余命一年』


 その言葉を言われたのが私だったのならよかったのにと本気でそう思った。

 これが多少困難でも私一人の全力を尽くせば解決可能な問題なのであれば立ちはだかる全ての壁を排除して捻じ曲げてでも道を切り開こうと思えた。

 けど、彼の身体はどうして今まで気付けなかったと思ってしまう程に病に侵され取り返しがつかない状態だった。

 私は情けなく俯いてこれが運命だったのだと自分に言い聞かせるしかなかった。


 だからせめて。

 せめて、最期の瞬間まで笑顔を絶やさず彼が不安や未練を残さずに安心して逝けるように残りの時間を過ごそうと決めた。


 そのために最初の時間だけは重たくて真面目な話を繰り返した。

 やり残した事は何なのか、死を前にして不安な事は何なのか。

 非情で冷酷だと思われるかもしれないけれど私達には必要だと思ったから淡々と質問を繰り返した。


「何かやりたい事ないの?」

「ダイビングとかしたかったけどね」

「無理に決まってんじゃん…空も無理だからね、病室とか病院の敷地内で出来る事を言ってよ」

「じゃぁたまにキャッチボールでもしようよ僕した事ないんだよ」

「分かった、今度買ってくるから晴れた日は一緒にやろうか」


 そんなに大きな広場があるような病院ではないしキャッチボールしていいのか知らないけど悠太が望んでいるのなら叶えてやろうと決めた。

 最悪の場合ダメだと言われても勝手に廊下でやってしまえばいいと思った、雨でも出来るし。


「この先不安な事とかはある?」

「そりゃあるよ、言い出したらキリがないくらい沢山あるよ」


 そう言って悠太がこぼした不安。

 ・私の今後の人生

 ・自分の飼っている二匹のネコの今後

 ・死後の世界


 たったの三つだけだった。

 自分が死ぬってのに彼女とネコの心配してるなんてどれだけお人好しなんだよと泣けてしまった。


「私の何が不安なの?」

「なんて言うかさ、自惚れに聞こえるかもしれないんだけど。僕が死んだら美咲は新しく彼氏作ったり結婚したりなんてしないと思うんだよ。それが不安というか、もしそうなったら僕の死で美咲を縛ってしまってる気がして嫌だなって思うかな」

「大丈夫、悠太の死に囚われずに自由に生きるから不安に思う事なんてないよ」

「なら安心だね、ありがとう」


 嘘をついた、何十億という会った事もない人達がいるけれど少なくとも私がこの先出会う人の中には悠太を超える人がいないのは分かってるから。

 きっと悠太の不安だって言葉のまま全て本当のことだという訳ではないのだからおあいこだと思う。

 お互いがお互いの嘘に気付いたまま会話を進めているのだからこれはこれでいいのだけど。


「ネコちゃん達は安心しなよ、二人まとめて美咲の子にしちゃうから」

「暴れん坊な二人だけど根気強く相手してあげてね!」

「リュカくんは懐いてくれてるんだけど、アリスちゃんの嫉妬みたいなのが凄いんだよね…きっと悠太をどっかに連れて行っちゃった犯人を美咲だと思ってるんだろうけどさ」

「まぁ、あの子達の前には現れないけど毎日美咲から僕の匂いがしてたらそう思われても仕方ない気がするけど」


 そう言って悪戯っぽく笑う彼の顔は凄く綺麗で儚げだった。


「それで?死後の世界ってのは天国とか地獄の話?」

「まぁそんな感じかな?」

「かな?って曖昧だなー。何?地獄に落ちるような事に何か思い当たることでもあるの?」

「いや、思い当たる事なんてないけどさ不安だよ。天国ってどんな所なんだろうとか思うしさ」

「悠太のご両親はさ、二人とも他界しちゃってるけど二人はどこに居ると思ってんの?」

「そりゃ天国にいるならいいなとは思ってるよ」

「なら悠太も天国に行けるんじゃない?」

「いや、あの二人は熱心だったのか普通なのか分からないけど家に神棚とかあって毎日お祈りしたりしてたのを知ってるから、なんと言うかもし神様がいるなら報われて天国とかに行ってて欲しいなって思うんだけど、僕は違うからさ」

「熱心にお祈りしてた訳でも家に神棚がある訳でもない自分が同じ場所には行かないだろうってこと?」

「まぁざっくり纏めるとね。資格がないかなってことだよ」

「悠太は知らないのかもしれないけど死後の世界の振り分け条件なんて宗教によってかなり分かれてるんだよ?ある宗教だとそこの宗教に属していない人はそれだけで全員地獄行きだからね。そのルールで言っちゃえば美咲も悠太もみーんな悩む間も無く地獄行きで確定しちゃってるのよ。だから極端な話だけど何かを信じて死んでいく人の数だけ死後の世界は分岐しててもおかしくはないと思うんだけどな」

「面白い話だけど、今まで何も信仰してこなかった僕はどこにいくんだろうね」

「進行してこなかったからこそ可能性は無限じゃん!今流行の異世界転生みたいなのも割と現実的な話だと思うんだけど!」

「ならもしも異世界に生まれたらって考えながら過ごすのもありだよね、来世の予習みたいな」

「美咲が色々集めてオススメ送ってあげるから妄想と期待を膨らませて過ごそうぜ!来世は勇者でも魔王でもなれちゃうかもですぜお兄さん!」


 異世界への妄想を繰り返しながら、こういうのはどうか?こっちの方がいいんじゃないのか?なんて話をしながら過ごした。

 たまにはしんみりしちゃう日もあったけど笑顔の方が圧倒的に多い日々を過ごせたと思う。



 悠太は静かに幸せそうな笑顔で息を引き取った。

 そりゃ死ぬよ。分かってた。

 余命宣告から十ヶ月後の冬。


 全て終わり家に帰ると悠太の残していった子達が出迎える。

 きっとこの先リュカもアリスも見送って私の番がくるのは最後なのだろう。

 とにかく、この子達には名一杯元気に過ごしてもらおうと思う。

 そしてその時が来たらこの子達には悠太の所に行くように言い聞かせながら育てよう。

 私はのんびりと後を追うよ。


 私達の過ごしたこの十ヶ月間の予習の成果がどういった結果になっているのか答え合わせをしよう。

 私がその答えを知るのは今から何十年先なのか分からないけれど、今から楽しみで仕方がないよ。


「いつかまた逢えたなら、その時は必ず幸せにする。私の手で助けてみせる」


次回からようやく始まります。

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