00a 余生を全振り
初投稿になります。
何本も冒頭だけ書いては何も出さないってあるあるですよね…?
「世界には色々な宗教とか信仰があって神様は何人もいるし死後の世界なんて天国も地獄もその他もあって何処に行くかなんてかなりバラバラだったりするでしょ?なら、神様も天国も地獄も信じてない人が死んじゃった時はさ、何処に行くのかな?」
余命一年、それが僕に宣告された時間。
とは言え、宣告された日から一年間生きられる保証がある訳ではない。
既に二ヶ月が過ぎた。
長くても後十ヶ月後にはこの世に居ないのだから限られた時間は有効に使いたいが、小さな病室で出来る事など無いに等しい。
お爺さんになるまで生きられれば宇宙旅行や仮想世界に意識を移植する事も夢ではなかったのかもしれないが、今となってはいつかはやりたかったスキューバダイビングもバンジージャンプもスカイダイビングも叶わない。
今更になってもっと多くの事を経験しておくべきだったと後悔してしまう。
時間には限りがあるのに先延ばしにしてきた結果気付いた時にはもう何も叶わない状況になっていた、思っていたよりも人生は短かったらしい。
ベッドに横たわり窓から覗く雲の流れを見ているとつい感傷的になってしまう。
「ただいまぁ〜、おしっこの時間でちゅよー」
廟室の入り口に目をやると綺麗な花を尿瓶に挿した女が入って来た。
顔立ちもスタイルも性格も良くストレートに愛情を表現してくれる、僕には勿体無いくらい素敵な彼女。
彼女なりに僕を笑わせてくれようとしているのは分かるのだが、彼女の今後を考えると色々と不安になってしまうな。
「おかえり、美咲。今日は早いじゃん、仕事サボったの?」
「美咲そんな不良じゃないしー、早く悠太に会いたくて午後休取ったったぜ!みたいな?褒めて褒めて!」
「そらありがたいね。いい子いい子」
「うへへぇー足りぬーもっとー」
頭を撫でると身体をクネクネさせながら喜ぶ彼女を見て自然と笑顔になれる。
今も昔も変わらず彼女が幸せそうにしていると僕も幸せな気持ちになる。
まぁ、彼女のことを幸せにするという僕の将来の夢は叶えることが出来なくなってしまったが。
「ぐぬぬぅ、悠太どうせまたくだらない事考えてるんでしょ、分かるよ?」
「くだらないなんて決めつけるなよ、傷付くだろ…」
自分が死んだ後、取り残された彼女の世界。
そんな僕が知る事の出来ない先の事を考えるとつい暗い表情が出てしまう。
「あぁ、神様!僕が死んじゃったらこの超絶パーフェクトプリティガールが何処の馬の骨とも分からない奴のものになってしまうなんてあんまりだ!この女が一生独身になる呪いをかけたまえぇってとこだよね?くだらないじゃん」
彼女は何でもお見通しだと言わんばかりの顔でミュージカルのような口調、大袈裟な動きをしながらニマニマした顔で僕を振り返る。
「当たらずと言えども遠からずなのが癪だけど、僕は神様に祈る程信心深くもなければ美咲に一生独身でいて欲しいなんて思っちゃいないよ、死んだ後の事なんて散々話したじゃん」
「そだね、約束したもんね。悠太の猫ちゃん達は美咲に任せておけば大丈夫、既にリュカくんとアリスちゃんは家族だしね!流石に彼氏とか結婚とかはまだ分かんないけど、悠太よりもいい男がいたとしてもその人はそこで初めてスタートラインに立てるんだからハードルは高そうだね!」
「ありがとう、本当に僕は幸せ者だよ。それはさておき尿瓶は返して来な、手も足も問題ないんだから僕には必要ないよ」
「そんな事くらい知ってるよ?美咲がしてみたくて看護師さんに借りて来ただけだし」
「はいはい余計たちが悪かったよ。看護師さん達に変な誤解されからさっさと返却して来な」
「もー恥ずかしがり屋さんだなー」
口を尖らせて部屋から出る彼女を見送りタブレットに手を伸ばす。
本棚のメニューを開くと何千冊もの本が表示される。
最初は漫画や小説ばかりだったのだが、今ではオカルト本や何に基づいたのかさえ分からない魔術や魔法の原理を書いた本、世界の宗教観など様々なジャンルが並んでおりそのほとんどが美咲が送り付けてくるギフトの中身だ。
宗教によって死後の世界観が違うのであれば色んなジャンルを読み漁って広げた自分中の世界だけを信じて死んだとしたら死後の世界は自分自身の中から生まれるんじゃないかという美咲の謎アイデアである。
これがまた案外楽しくて日々消化されていく残り時間を自分でも思っていた程悲観する事なく過ごせている。
まぁ要するに中二な妄想に耽っているだけとも言えてしまうのだが答え合わせは死ねば可能なのだ。
答え合わせが出来るのであれば死ぬのも恐くはないと思える。
もしも自分の望む通りの世界が死後に広がっていて、それこそ異世界転生なんて事があるのであれば事故や過労で急死して目が覚めたら異世界なんて展開よりは初心者には優しいのかもしれない。
「おやおやぁ?お兄さん、可愛い彼女さんが部屋を出た隙にエッチな本ですかい?」
「違うよ…昨日贈ってくれた精霊の本読んでんの。思ったよりも早く来てくれたからさ、読むの間に合わなくて」
「ホントかなぁ?もうちょっと外してようか?それとも見てて欲しい感じ?」
「いいから早く入りなよ」
「うぃー。どうだった?今回の本は参考になりそう?」
「面白いんだけど参考になってるかは分かんないね…」
「ふーん、まぁそういうもんか。でも楽しい事で溢れた来世だといいよね!」
「少なくとも三十年ちょっとで寿命ですなんて言われて病室で死ぬような来世は勘弁して欲しいよね」
「大丈夫、もしそうなってもまた美咲が隣で見送ってあげるからさ!安心して逝きなよ!」
「まだ一回も死んでもないのに二回目の死ぬ話とか安心して逝けとかビックリなんだけど」
「ハハハ、ごめんごめん。まぁ来世でも美咲が最期の瞬間まで笑顔で居させてやるから安心してろって話よ!」
「本当に頼もしい彼女だよ」
「最高のな!」
こうやって些細で大切な日々は過ぎていった。
送られてくる色々な本を読み漁り、仕事が終わったら彼女がお見舞いに来てくれて本の感想を話したり緊張感のない会話を繰り返す本当にどこにでもあるような当たり前の毎日。
そんな毎日を繰り返した余命宣告から十ヶ月後の冬、僕は彼女に見守られながら静かに息を引き取った。
『もし来世でも君に逢えたのなら必ず幸せにする…』
頻度は分かりませんが頑張って継続します。
タイトルとか変えるかもです。
本文の文字数の最適解も分からない…