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転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
6章 獣人狂想曲

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雪の遊び


 数日後、アルトロワの防壁よりも外側にある荒野に、地元の住民が集まっていた。大学の建設予定地として立ち入りが制限された場所だが、なぜか屋台が軒を連ねて客を呼びこんでいる。


 屋台で提供されているのは温かい飲み物だけでなく、串焼きの肉といった食事や焼きたての菓子、港町から川を使って仕入れた魚介のフライまであった。アルトロワのほぼ全ての飲食店が集まっているのではと思うほど、種類が豊富だ。


 会場では匂いに誘われた住民が店の前に並び、自警団が巡回警備をしていた。他にも屋台の責任者として商業ギルドが出張所を設けているようだ。ギルドの紋章が入った天幕が、遠くからでも異彩を放っている。


 入り口付近では教会が救護所まで設置していた。出番がなくて暇そうな治療師とシスターが、和やかに談笑をしているのが見える。


 どう見ても祭の会場だった。ほんの少し前世の故郷を思い出してしまったのは、恐らく気のせいではないだろう。


「なにこれ」

「第一回アルトロワ雪まつり」

「ま、祭?」


 リリィは一緒に来たユーグを見上げた。早く祭の会場へ行きたいのか、遠くから屋台の群れを眺めている。


「あの竜と勝負をするって言ったでしょ? どうせなら楽しい勝負にしたいじゃないか。獣の襲撃でみんな疲れてたんだから、思いっきり発散できるものがいいと思って」

「それで雪まつり?」

「この季節なら材料は空から降ってくるからね」


 屋台から少し離れたところには、様々な雪像が作られていた。


 明らかに子供が作ったと思われる雪だるまに、休憩室として使われているかまくら。氷をレンガ代わりにしている小人の家は、地元の大工が協力して建てたようだ。扉に金槌とノコギリを交差させた絵が彫られていた。


 町から最も遠い場所には、氷の城まで建っている。祭のシンボルだろうか。

 アルトロワは雪が降る地域だが、会場で使う全ての量を賄えるほど豊富ではない。


「こんなに大量の雪とか氷は、どこから持ってきたの? アルトロワに降る分だけじゃ足りないと思うけど」

「そこはほら、氷と雪を操る竜がいるでしょ? お願いしたら快く出してくれたよ」

「出させた、の間違いじゃ……」


 きっと上手におだてて協力させたのだろう。竜を消耗させると言っていたし、高すぎるプライドを操って際限なく魔法を使わせたに違いない。


「ところで、ここ最近よく分からない注文が増えたのは、ユーグのせいってことでいい?」


 竜が飛来した次の日のことだ。


 急に父親が職人の寄り合いに呼ばれて出て行き、なぜか未加工の魔石が入った箱を持って帰ってきた。商人ギルドからの依頼だそうで、全て屋台で使うコンロ用に加工してくれという。季節の祭がない時期なので奇妙だと思っていると、今度は屋台を出している飲食店から魔石の購入が増えた。


 注文が増えても加工する速さは変えられない。次々と消えていく在庫や持ち込まれる魔石に、出張で村を巡ったことを思い出した。


 リリィもテランスも手を動かすのが先で、どうして依頼が増えたのか聞く暇がなかった。魔石を全て納品し、一晩眠った翌朝、ふらりと現れたユーグに遊びに行こうと誘われてここにいる。


「あっ……在庫を作る時は手伝いに行くってお義父さんに伝えて」


 流石にまずいと気がついたユーグは、協力を申し出てきた。足りないのはむしろ未加工の魔石なのだが、それを言うと無償で提供してきそうだ。


「あなたはまず怪我を完治させるのが先でしょ。で、発案者がこんなところにいてもいいの?」

「それが、企画書をフェリクスと商業ギルドに出したら、あとは寝てろって追い出されたんだよ」

「でしょうね。どうせあれから休まずに書き上げたんでしょ? 領主様が何も言わなかったら、計画を主導しようと思ってたんじゃない?」


 傷口が塞がったから大丈夫だと本人は言うが、その本人の言葉が最も信用できない。無理をして傷が開いてしまっても、きっと黙っている。計画を持ちかけた責任もあるだろうが、おそらくアルトロワで生活をすることを楽しむようになってきたからだろう。


「……勘のいいリリィちゃんは嫌いじゃないよ」

「そう、ありがとう。残念そうな顔で言わないでね」


 会場へ向けて歩きだしたリリィをユーグが止めた。視線を追うと空を飛ぶ竜の姿が見えた。


 滑空するように上を飛んできた竜は、粉雪を巻き上げて荒野に降りてきた。冷たい風と共に雪が飛んできたが、さりげなく間に入ったユーグに遮られる。リリィの視界は広い背中しか見えなくなった。


「お、お主、これはどういうことだ!?」


 子供の姿に変化した竜は、体についた雪を払っているユーグに一直線に詰め寄った。


「何が?」


 爽やかに笑うユーグとは対照的に、竜はうっすらと涙を浮かべている。


「ふざけるな、これのどこが勝負だ。ずっと雪を出せだの雪像を作れだの……こちらの魔力などお構いなしに利用しおって!」

「こっちのやり方で構わないって言ったじゃないか。契約書にも署名したでしょ?」

「し、しかしのぅ」


 急に勢いを失っている幼女と、腕を組んで見下ろすユーグ。事情を知らなければ、子供を騙して借金を取り立てる極悪な詐欺師に見える。相手はアルトロワを狙っている竜だと思い直し、リリィは黙っていることにした。


 わざと突き放した言い方で、ユーグが続ける。


「最初に説明した通り、君は必要な雪や氷を提供して、雪像を作る。僕たち人間側は君に食糧を提供してるでしょ? それにこの会場を設けたし、勝負のための雪像も作った。ちょっとぐらい協力してくれてもいいじゃないか」

「それは……そうだがの」


 人間の食べ物は魔力が回復しにくいのう――竜は小さな声でつぶやいた。アルトロワの料理は竜と相性が悪いのだろうか。それとも己の限界を考慮せずに魔法を使い続けているせいで、回復が追いつかないのか。


「勝敗は今日で決まるよ。来場者一人につき一票を入れて、最も多く獲得した人の勝ち」

迂遠(うえん)ではないか。何故、そのような方法で勝者を決めるのだ」

「おや。優れたものを作り出せるのも、強者の証じゃないかなぁ? 破壊するだけが強さじゃないよー?」

「う……わ、分かっておる」


 強者の証という言葉に騙されて、竜は納得してしまった。騙して勝つように(そそのか)したのはリリィだ。今は心の中だけで謝っておく。


 ユーグは会場から手を振る自警団を見つけ、竜に教えた。


「ほら、呼ばれてるよ。早く雪を出してあげて」

「む……仕方ないの。我がおらぬと勝負すら始められぬというなら、手を貸してやるのが強者の務め」


 文句を言いつつも仕事に戻ってくれるようだ。再び竜の姿に戻り、自警団がいる方へと飛んでいく。


「いやぁ、若い竜は分かりやすくていいね。考えてることが全部、顔に出てるよ」


 あまりの簡単さに、ユーグも少し良心が痛むらしい。苦笑して竜を見送っている。


 竜が何を作ったのか尋ねてみると、リリィが祭のシンボルだと思っていた城だとユーグは言う。


「勝てるの? かなり気合を入れて作ってるみたいだけど」

「僕の予想では、あの城にはあまり票が入らないよ」

「竜が作ったから?」

「雪像のタイトルは付けたけど、製作者の名前は伏せてある。順位を発表するときに明かす予定」

「じゃあ、どうして?」

「アルトロワの人の性格、かな。事前調査をしていれば、僕らに勝てるものが作れたかもしれないねぇ」


 人間は弱いと侮っているから足を掬われる。そう結論づけたユーグは、改めて会場へリリィを誘った。歩調をリリィに合わせてくれるので歩きやすい。こういう細かい気遣いが重なって、好きなところが増えていく。


「とりあえず……知り合いが店を手伝ってるらしいから、冷やかしに行こうよ」

「何の店?」

「見た目はケバブに似てたなぁ。森で仕留めた魔獣の肉を使ってるらしいよ」


 自然に繋いだ手が温かくなってくる気がした。お互いに手袋をしているので、体温が直に伝わらないのが残念だ。

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前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

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