表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
1章 光と影の町

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/113

職人の帰郷


「で、まずはあの魔石をどこで手に入れてきたんだ?」

「あれはエルフが住む森にいる魔獣から採取したものです」

「エルフの森ってのはどこにある?」

「まず隣の大陸に渡らないと」

「一生、辿り着けねえな……」

「魔石が必要なら、いつでも言って下さい。お義父さんなら格安で譲りますので」

「だからお義父さんと呼ぶなって」


 翌日、テランスとユーグの会話を音楽代わりにしながら、リリィは魔石の加工を始めた。怪我をしたテランスが無理をしないよう、ユーグには話し相手になってもらっている。放置しておくと、すぐに魔石を触ろうとするのだ。


 歳が離れた二人で話すことがあるのか心配になったが、気を利かせたユーグが魔石に関する話題を上手く引き出している。職人として生きてきた父親も、己の仕事のことなら饒舌になっていた。


 リリィが起きた時には襲撃の痕跡はほとんど消えていた。床に落ちた魔石の仕分けまで終わっていて、いつでも仕事が再開できる状態だった。食事の受け取りやら片付けの雑用までユーグが積極的に奪っていくので、リリィは魔石の加工しかやることがない。


 贅沢なもので、至れり尽くせりの立場にされると落ち着かない。


「俺を治療した魔法式は?」

「プロ――じゃなくて、こう、感覚で。なんとなくこうすると、治療ができるって想像力を使ったら出来ました」

「よく分からんものが刻んであると思ったら……お前、魔法式を習ったことがないのか」

「正式に習ったことはないですねぇ」

「くそっ……魔力が無駄に消費されるなんて我慢できん。間引きはもう終わったと言ったな。今からでも遅くない。基礎を叩き込んでやる」

「わーい。お義父さんに弟子入りだー」

「俺は厳しいぞ。途中で投げ出すなよ」


 作業台の反対側で、即席の授業が始まった。真面目で吸収が早い生徒に、テランスは上機嫌で己の知識を分け与えていく。


 ――忙しいけど、心は暇ね。


 黙々と作業をしているのはリリィだけ。二人は仲良く魔石の話をしていて、疎外感がひどい。けれどリリィは呑気に喋りながら作業ができるほど熟練した腕前ではないので、孤独を味わいながらひたすら手を動かすしかなかった。


 ユーグの変化に気が付いたのは、昼が近づいた時だった。何となく、リリィとは物理的な距離が開いていると感じる。視線が合えば微笑んでくれるが、背後から近付くことはなく、動作もいつもよりゆっくりとしている。


 特に理由を思いつかないまま時間は過ぎてゆき、予定を二日過ぎてから全ての加工作業が終了した。


 テランスの腕はほぼ完治し、痺れなどの後遺症も現れていない。少しぎこちなさがあるものの、日が経てば解消される程度の違和感だそうで、リリィは安心した。


「滞在中に危険に晒してしまって、申し訳ありませんでした」


 自警団をまとめている村人は、リリィ達が加工を終えて魔石を引き渡すときに謝罪をしてきた。


「あんた達のせいじゃない。悪いのはあの盗賊連中だ。遅くなったが、亡くなられた方にお悔やみ申し上げる」


 テランスが対応をしている間に、リリィとユーグで作業場を片付け、あとはアルトロワへ帰るだけになった。


 帰郷には領主から借り受けた転移門を使うと聞き、価値を知っているテランスは若干顔色が悪くなった。そして借りることになったのが自身の怪我ということを知り、アルトロワがある方角を見つめて黙ってしまった。


 馬を率いて転移門を潜った先は、領主の敷地の一角だった。前もってユーグが知らせていたようで、門の出口を任された使用人が控えている。彼らはリリィ達が到着すると、手慣れた様子で転移門を片付けていく。


「あの方には返せないほどの恩があるな……」


 馬を引いて転移門を潜ったテランスは、ようやく口を開いた。


「移住者を募集していたって理由でリール領で暮らすことになったんだが、生まれた子供の名付けに困っていた時に、たまたま相談したのが領主様だったんだ。リリアーヌの名付け親なんだよ」

「えっそうなの!? 私、初めて知ったわよ」

「へぇ……領主サマが名付け親なんだ」


 背後で感情が消えた声がする。謎の威圧感で振り向けない。

 全く気が付いていないテランスは、昔を懐かしむ声で続けた。


「正確には奥様だな。奥様が名を挙げられて、領主様が同意された」

「それならいいや」


 何がいいのか全く分からないが、とにかくユーグからの圧力は霧散してリリィは安心した。


「僕は借りた馬と魔導器を返納してきます」

「ああ、領主様にはよくお礼を申し上げておいてくれ」


 面会を取り付けていないので、リリィとテランスが直接会うことはできない。ユーグとはそのまま別れ、家に帰ることにした。盗賊に滞在先が襲われたことは家族も知っているだろう。早く元気な顔を見せて安心させたい。


「ユーグ、魔石のことが知りたかったら工房へ来い。お前に教えたのは基礎だけ、それも入門の部分だけだ。あの程度で効率が上がるほど、易しい技術じゃないぞ」

「じゃあ、近いうちにワインを持って行きますね」


 初めてテランスがユーグを名前で呼んだ。呼ばれた本人は驚いたが、すぐに柔らかい笑顔になる。


 ――あれは照れてるわね。


 警戒心を解くための営業用ではなく、心の内面が現れたような顔だった。


 使用人の一人に敷地の外へ案内してもらい、リリィとテランスは馬を率いてアルトロワに戻ってきた。


 借りていた馬を知り合いの農家に返し、賃借料代わりに村で買った特産の蜂蜜や加工済みの魔石を渡す。礼なんていらないと言われているが、言葉を真に受けて何もしないと人間関係が面倒なことになる。大した手間でもないので、渡しておくのが無難だ。


 馬のカネルが懐かしい匂いを嗅ぎ取って、早く家に帰ろうとリリィを引っ張る。見慣れた通りを歩いていると、丸めた革を持ったアランが声をかけてきた。実家の靴工房で使うものだろう。小さな釘が入った袋が音をたてた。


「出張はもう終わったんだね」


 後ろから近づいてくるアランが、なぜか襲撃してきた盗賊と重なり、リリィは思わず後ずさった。止めたカネルの鼻を撫で、心を落ち着かせる。


 ――なんで、思い出したんだろう。


 アランと盗賊は全く似ていない。よく知っている幼馴染に対して、恐怖を感じたことはこれが初めてだった。


「二人が滞在している村が襲われたと聞いて心配で」

「俺達なら大丈夫だ。すぐに領主様が来てくださったからな。その、カトリーヌは何か言ってたか?」


 テランスが妻の様子を尋ねると、アランは苦笑して怒ってましたと正直に言った。


「怪我をしたことも伝わってるので。また無茶なことしたんでしょって言ってましたよ。でも今は心配してると思います」

「……それはそれで帰るのが怖いな」


 和やかに話す二人を見て、リリィはユーグが距離をおいていた理由が分かった。アランは手を伸ばせば、すぐリリィに触れられる位置にいる。今のリリィは自分よりも大きな男に近付かれるのが苦手になっていた。テランスは家族なので平気だっただけだ。


 襲撃された恐怖を思い出させないように、ユーグはかなり気を遣ってくれていたらしい。細かい配慮のおかげで、村にいる間は仕事に集中できた。ユーグがアランのように振る舞っていたら、きっと集中できなかった。


「リリアーヌ、大丈夫?」

「え?」


 アランが一歩踏み出したとき、カネルが首を振って前に進もうとした。懐かしい家に早く帰りたくて焦れている。


「だ、大丈夫。ごめんね、カネルが帰りたがってるから、また今度」

「あ、うん……」


 素っ気ない態度になってしまったことを申し訳なく思いつつ、リリィはアランから距離をとった。馬を言い訳にして帰るリリィに、テランスが追いつく。


「リリアーヌ」

「ごめん、お父さん。良くない態度だったのは分かってる」

「いや……村にいる間は平気そうだったから、俺も理解してやれなかった」


 テランスはリリィがアランを避けたことに気付いていた。


「リリアーヌ、お前は女の子だ。依頼で行った先が善良な顧客だけとは限らない。それでも職人になるか?」

「その時は、護衛を依頼するわ。何かのついでに一緒に行くんじゃなくて、ずっと近くで守ってくれるように。ただその人、仕事に集中すると時間を忘れる性格だから、お互いに気をつけないといけないけど」

「……そうか。それならいい。二人で支え合いなさい」


 テランスはそれっきり聞いてこなかった。


 家に帰った二人は待っていた家族に抱きしめられ、ようやく帰ってきた実感が湧いてきた。母親の心配が小言に変わり始めた頃、リリィはカネルの世話をしてくると言って、裏口から外に出る。テランス一人に押し付ける形になったが、夫婦だから上手くやってくれるだろう。


 よく働いてくれた馬の脚を洗い、背中をブラシで撫でる。水桶に綺麗な水を入れてやると、カネルは嬉しそうに飲みだした。


 一通り世話を終わらせたリリィは、上着のポケットに入れたままだった折り紙に気がついた。鳥の形の紙は、角までしっかり折ってある。作った人の性格がよく現れた道具だ。


 これに魔力を入れたら、すぐに飛んでいく。遠く離れていても、誰にも妨害されずに出せる手紙にもなる。


 思い出したのは後ろ姿だった。助けに来てくれただけではなく、その後のことも気にかけてくれた。リリィはユーグに何かを返せただろうかと思う。自分ばかりが受け取っていないだろうか。


 ――冬の間に、一度ぐらいは家に来てくれたら。


 その時は和食を作ってみるのもいいかもしれない。手に入らない調味料はあるけれど、似た味は再現できるだろう。時間はたくさんあるのだから。


「まずはレシピを思い出さないと」


 早く驚く顔が見たい。

 リリィは早る心を抑えて、出しっぱなしにしていたブラシを片付けて家の中に入った。

領主の執務室にて会話を抜粋


「フェリクス! お義父さんがデレた!」

「そうか良かったな。魔導器を置いたら、さっさと出ていけ。仕事の邪魔だ」

「ところで君達がリリィちゃんの名付け親だって聞いたんだけど」

「愛称が『リリィ』になるようにしたそうだ。あとは名付けた本人に聞いてくれ」

「分かった。リリィちゃんの可愛さについて語り合ってくる。嫉妬しないでね」

「はいはい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらも読んでいただけると嬉しいです

前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ