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転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
1章 光と影の町

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影の予兆


 夜が明け、ユーグは一人で森へ行くことにした。眠っているリリィとテランスを起こさないよう、魔法で転移をすると冷え切った空気に包まれる。早朝の森にはうっすらと霧が立ち込めていた。


 地図に表示されている光点へ向かうと、ユーグの気配を察して一匹の犬が寄ってきた。人懐っこい顔で尻尾を振っている犬は、ユーグに頭を撫でられてただの紙に戻る。


「……一晩でこれか」


 犬が来た方には魔獣の山ができていた。夜中にユーグとパトリックが仕留めたような狐に、熊や大きなトカゲ。全て体内に魔石を有している。全て回収してから、ユーグはまた転移魔法で村へ戻った。


 勝手に森へ入ったことは告げずに、起きてきたリリィ達と朝のひと時を済ませて作業場を出た。パトリックの家の裏で魔獣を出し、二人で解体しつつ検分していく。魔獣の群を多く発見したのは偶然なのか、何らかの異常が起きているのかを知るためだ。


 パトリックと共に魔獣を解体し終えると、毛皮を洗剤で洗って汚れを落とす。内側に残った肉片を曲がった刃物で削り取り、なめし液に沈めた。ここから一週間ほどは一日一回攪拌させた後、板に貼り付けて乾かすそうだ。


 休憩を挟みつつ全ての工程を終えると、午後を大幅に回っていた。


「けっこうな量になったな。ユーグの取り分だが」

「仕留めたのは僕じゃないよ」

「それは違うだろ。お前が敵の居場所を教えて、俺が弓で仕留めた。だから二人の戦果だ」


 洗った魔石をその場で渡された。毛皮は乾燥が終わったら届けるとパトリックは言う。


「こいつの毛皮は手袋の裏地に最適だ。帝都の商人も買付に来るほどでな、いい仕立て屋に頼んで女への贈り物にするらしい」

「つまりこれを使って恋人への貢物にしろと。さすが既婚者。ご機嫌取りに慣れてる」

「おう。いつでも参考にしろ」


 頼りになる先輩に結婚生活のコツを聞き出し、他の自警団員へと会いに行く。午前中に森へ間引きをしに行っていたという団員は、気になる痕跡を見つけたと語った。


「誰かが森で焚き火をした跡があった」


 ユーグとあまり歳が変わらない青年と年配の寡黙な男は、大まかな位置を説明する。村を守るために設置している、魔獣避けの結界よりも外側――森の奥だ。


「一人や二人じゃない。大勢としか言いようがないが、余所者が森にいるのは間違い無いだろう」


 村の人間なら森で火を使わない。ましてや間引き以外で結界を越えて行くことなど、地元の人間には考えられなかった。


 ユーグは森がある方向を検索してみたが、人間は検出されなかった。検索範囲よりも外側にいるようだ。


「領主様に報告してくるよ。魔獣の数は?」

「例年よりも少し多いようだ」


 年配の男が答えた。種類に変化はないものの、全体的に数が増えている。森の奥で何らかの変化があったのではと男は推測を述べた。


「ユーグ、頼んだ。俺達は皆に警戒するよう伝える」


 誰もはっきりと言葉にしなかったが、森にいると思われる集団が犯罪絡みではないかと疑っていた。


 村から離れることを言っておこうと作業場へ戻った。作業に没頭して話を聞いていないテランスに代わり、リリィが用件を受け取る。


「領主に報告したら、すぐ戻るよ。念のために番犬を置いておくから」

「強い魔獣でも見つかったの?」


 富嶽(ふがく)と呼んでいる犬型の道具を呼び出し、外への扉の前で待機させた。見た目はただの黒い日本犬にしか見えない。巻いた尾を振りたくって命令を待っている。


「何も心配しなくて大丈夫――って言いたいところだけど、用心してね。扉を開ける時は相手を確認してから」

「ん。気をつける」

「結界は使ってみた?」


 リリィが前世でほぼ唯一使えた魔法だ。使い方を覚えていれば展開できるかもしれない。


「確か……こうやってたはず」


 リリィが目を閉じてすぐに、透明に近い結界が現れた。強度は格段に落ちているものの、現代の魔法式では解析されにくいところは変わっていない。


「とりあえずは安心かな? 何かあったら連絡してね」


 転移で一気に領主の屋敷まで移動したユーグは、執事を捕まえてフェリクスへ取り次いでもらうよう頼んだ。気安い関係とはいえ立場はフェリクスの方が上だ。一応、世間体のために正式な手続きを踏むようにしていた。


「魔獣の間引きと不審者情報について、早急にご報告をしたいことがあります。時間は取らせません」

「かしこまりました。少々、お待ちください」


 老練の執事は重大さを察して、フェリクスの執務室へと去っていった。談話室から漏れ聞こえてくる音楽を耳に待機していると、すぐに執事が戻ってきて部屋へ通される。


 夜遅くまで仕事をしていたフェリクスは、ユーグが執務室へ入ってくると書類を補佐官に渡した。


「今日はここで終わりにしよう。休んでいいぞ」


 了承した補佐官は書類を鍵付きの棚に納めた。秋は税金の申告があると聞いている。部外者が見ては都合が悪いだろうと、ユーグは棚から目を逸らす。


「話を聞こうか」


 フェリクスからソファに座るよう示され、素直に従った。補佐官と執事が執務室を出て行くと、お互いに取り繕った態度を捨てる。


「疲れてるね」

「この時期はいつもだ。ついでに作業が効率化するような案を出せ」

「いやいや、部外者が口出しすると面倒なことになるから遠慮するよ。君のベテラン補佐官に睨まれたくないからね」

「……年頃の娘との仲を改善してもらって感謝している、という話しか聞いていないが」

「わぁ。隠し事ができない職場だね。怖い怖い」


 真顔で睨まれた。現状を把握してから案を出すことを約束させられ、ようやく本題に入る。


「それで?」

「ル・ノーブル近くの森で魔獣が増えてる。魔力の吹き溜まりで異常繁殖した……と言うより、奥にいる何かから住処を追われたような印象だね。魔石を分析しても、暴走してる証拠がないから」

「奥か……」


 広大な森は、正確にはリール領のものではない。三つの領が隣接していて、共同で管理をしている。範囲が広すぎて一つの領では抱えきれないことと、凶悪な魔獣が発生した場合に責任を押し付けられないためだ。魔王が存在していた影響で魔獣の暴走が頻発した時代の名残である。


「他の領にも異常がないか、それとなく問い合わせてみよう。あとは雪が降る前に討伐隊を結成すべきか……」

「面倒なことはもう一つ。誰かが森に住んでる」

「盗賊の類か?」

「僕は姿を見てない。自警団員が焚き火の跡を発見しただけ」

「お前の検索にも引っかからんか」

「万能じゃないからねぇ。捜索対象が曖昧だと、人間なのか魔獣なのか判別できないんだよ。村はパトリック達が警備を強化するって――」


 村に置いてきた富嶽との繋がりが途絶えた。動くための魔力は十分に与えたから、攻撃されて姿を保てなくなった可能性が高い。


 ル・ノーブルの地図を脳内に表示すると、村人以外の反応があった。それと同時に閉じた窓をすり抜けて白い鳥が飛び込んでくる。リリィに渡した道具だ。何も書かれていないことが、逆に事の重大さを感じさせる。


「フェリクス、村が襲われた!」

「先行しろ!」


 手勢を連れて後を追うと言うフェリクスを残し、急いで村へ転移した。


 日が落ちた村に血臭がする。転移したばかりのユーグに、刃こぼれした剣を持って男が襲いかかってきた。


 薄汚れた格好だ。

 狂気を目に滲ませて外国語で叫んでいる。

 村人ではない。

 ならば遠慮は必要ないと判断して、刀で首を刎ねた。


 逃げる村人をわざと追い詰め、恐怖を煽っていた不審者を同じように片付ける。村人は鍵がかかった民家へ強制的に転移させて、ユーグは村の中にいる敵を探した。


「パトリック!」


 複数人を相手に善戦していた元騎士を見つけた。迷うことなく乱入すると、一人一人確実に仕留めていく。


「商人と一緒にいた奴が手引きしやがった!」

「もうすぐ領主が来る、持ち堪えろ」

「そりゃ心強い! 敵を率いてきた奴が作業場へ行ったのが見えた」


 パトリックは行けと合図をした。


「ユーグは作業場へ向かってくれ! 鍵を閉めてるから、まだ無事なはず!」

「無理はしないようにね、おじいちゃん」


 富嶽を起動してパトリックの補佐につくよう命じ、ユーグは作業場へ駆けていった。

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前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

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