表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/100

09

 魔境に向かう旅はそれから二日続いたが、その間ずっと風使いは仲間にはいらないと馬鹿にされ続けて辟易した。

 だが、いくら好き放題言われようと俺は大人どころか神だ。その程度のことを言われて怒る俺ではない。

 だから俺は一般的な風使い以上の働きをしてやった。


 まず普通の風使いは魔物の気配を探り、それを仲間に伝えるのが役割だ。もちろん攻撃もするのだが、風使いの攻撃力は水の次に威力が弱い。その分広範囲への攻撃が可能なこともあって決して弱い訳ではないのだが、昨今の事情では弱いと認識されてしまっている。おそらく多くのパーティに風使いが組み込まれる理由は魔物の察知能力だけになってしまっている。


 だがこの集団は風使いをパーティに入れていなかったこともあり、俺が周囲の気配察知を担当してやった。他の奴等もそれが当という顔をしていたから。


 だが俺はその程度では終わらせない。誰よりも魔物の気配を察知すると、目にも留まらぬ速度で風魔法を放って一瞬で魔物を倒してみせた。さらに大人な俺はそれを自慢することなく優雅に過ごしてやった。


 中には俺の早業に気がつかない者がちゃんと仕事をしろと文句を言ってきたが馬鹿を相手にする必要はない。わかる奴にだけわかればいいのだ。



 そして二日目の旅が終わって目的の魔境が見えて来た頃、最後の休息に入ることになった。


「は〜、やっと着いた」

「それにしてもまったく魔物が出てこなかったよな?」

「はっ! 俺の力に怖気づいて逃げていったんだろ! なんせ俺はこの大陸で一番強い勇者になる予定の大英雄だからな!」

「よ! 大英雄!」

「「「だははははは!」」」

「!?」


 こいつ等に俺の活躍はまったく伝わっていなかった。







 魔境は地下から溢れる悪意によって形成される未知の空間だ。そしてその空間はその地の特色が反映されやすい。


 砂漠なら荒れ果てた風景に。

 森なら鬱蒼とした木々に囲まれた空間に。


(そしてここは……瓦礫の山か)


 黒い霧の向こうには焼けて崩れ落ちた建屋や石瓦が散乱している景色が見える。もともとは村か何かがあったのだろう。もっとも魔境のせいで村が潰れたわけではないはずだ。おそらくたまたま廃村の上に魔境が生まれただけのこと。


 ただ危惧するとすれば、村があったということはそこにも墓地があったというところだ。


(一応、気を回した方がいいな)


 本来はここまで世話をしてやる必要はないのだが、雷使い達は未だに緊張感も持たずに休息を楽しんでいる。その姿に不安を覚えた俺は雷使いのもとまで歩いて話しかけてみた。


「この魔境には事前に調査に入ったのか?」

「ふん。そんなものは必要ない」

「だがここは魔境だぞ。一度入ってしまえば簡単には抜け出せない」

「はは。逃げ出す? 君たち風使いじゃないんだ。そんなことするはずないだろ? あ、でも怖ければ君だけ逃げればいいよ。どうせ魔境の中では気配を察知できないんだから」

「「「ぎゃははははは!」」」

「……そうか」


 雷使いは自分の腕に余程自信があり、周りの者もそれを認めているのだろう。そうでなければ調査もしていない魔境に踏み込むことはまずない。


 だが今更俺がなにを言ってもこいつは変わらないだろう。なぜならこいつに限らず雷の信者はどいつもこいつもそこそこ強い。逆に弱い雷の信者を探す方が難しいくらいだ。


 だからこいつ等は強いが故にいつも調子に乗る。

 他人を侮り、優れた自分を見せたくて仕方がないのだ。


(一人で死ぬのは構わんが……)


 こいつの強さに惹かれてここには二十人近く集まっている。この男を持ち上げておこぼれを貰おうとしている者もいるだろうが、それでもわざわざ魔物と戦ってくれる者を簡単に死なすわけにはいかない。


(この魔境の規模はまだ小さい。俺が気を張っていればそうそうやられはせんだろう)



 魔境に共通するのは青白い霧を発生させることだ。そしてその霧が広がれば広がるほど、魔境も強力なものに変わる。

 その点だけで見れば、この魔境の規模はそれほど大きくはない。だから余計侮っているのだろう。


「この程度であれば日暮れまでに終わるな」

「そうですね。さっさと穴を塞ぎましょう」


 全てと言っていいほどに魔境の中心地には深い穴が空いている。その穴が星の果てと繋がっているのかはわからないが、魔物を生み出すという点では同じだ。


 ただ魔境の空間で死ぬと厄介な事になる。魔境で死ぬと肉体を悪意に乗っ取られ、体が朽ちるまで魔境のために戦わされるのだ。


(だからこそ、信者を死なせるわけにはいかん)


 魔法を使えるこいつ等が魔物となって敵に回ると厄介だ。しかも見た目はヒトだから罪悪感からか積極的に攻撃できない者も多い。そのまま攻撃できずにためらっているうちに全滅などよくある事だ。

 そして全滅させられたその者達も取り込まれて、魔境はさらに強力になっていく。


 つまり、最初が肝心なのだ。時間が経てばたつほど、ヒトが喰われればくわれるほど魔境の攻略は難しくなる。


(はたして大英雄様はそれを意識しているのか?)


 俺は雷使いという稀な才能に危うさを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ