06
林を出てからしばらく歩くと街が視界に入ってきた。 外壁もしっかりしているしそこそこ大きな街なのだろう。それにさっきの兵士達がこの街に所属しているとなると、そこそこ治安もいいのかもしれない。
だが問題は、街の入口で入門料らしきものを徴収している事だ。
「はぁ、これなら盗賊共から金を巻き上げてくるんだったな」
もっとも俺は金を持っていても入門料を払うつもりはない。酒になら払ってもいいがその金も今はない。
(なんでヒトは金なんていう対価を考えだしたんだ?)
昔はそんなものなかったから気楽でよかったんだがな。ただ、ヒトは酒というとんでもなく旨いものまで造りだしたからあんまり文句は言えない。神でも思いつかなかったというのに、いったいどうやってヒトはそれを発見してんだろうな。
(まぁ、とんでもない発見はだいたいが地の信者なんだがな)
その頂点の地神がなんでも知りたがる性格だから仕方がない。時にはその探究心にいい加減にしろと思いもするが、どうせあいつはそんなことじゃ挫けない。だからあきらめてもいるが、新たに旨いもんを発明してくれれば特に問題はない。
それから俺は街の側面に回り込むと、外壁沿いに歩いて門から見えないところまで歩いた。ついでに気配を読んで壁の内側にヒトがいないことも確認する。
「ここら辺ならいけそうだな。バースト」
一応周りを見渡したあと、足元に風魔法を発生させて軽やかに外壁を飛び越えた。外壁は背丈の三倍程度はあったがその程度ならなんの障害にもならない。
そして軽やかに着地してから、俺は今さらなことに気がつく。
「歩かなくても風魔法ですっ飛んでくればよかったな」
どうやら俺は無意識の内に地上の生き物と動きを合わせようとしていたようだ。まぁ、神として地上の生き物の生活を理解することは悪い事ではない。むしろ正しい行動だったはずだ。
気を取り直して壁の内側を見渡してみたが、ここは街の中でも薄汚れた地区のようだ。風が淀んでいて気分が悪い。
そしてここ一帯から感じる弱い風の魔力。
それを感じとって思わず溜め息が出た。
「なんでお前等はそんなにクズばかりなんだ」
呆れた俺の声に合わせて家の陰から数人の男が現れてくる。もちろんそいつ等は俺の信者だ。無駄に鼻だけは効くのだから褒めていいのやらなんとやら。
だがこの際はっきり言わさせてもらう。
もうこいつ等は元信者でいいよな?
「ははっ。この人数を相手によくクズなんて言えたな。だがこんなところで粋がっても仕方ねえぞ。さっさと金目のもんを置いていきな。そうすればそこまで痛い目をみなくてもすむぜ」
「ぎゃははは! そこは見逃してやるんじゃないのかよ」
「あいつ見てみろよ。いい服着てんじゃねえか。だからちったあ世間の厳しさを教えてやるのが本当の優しさってもんだろ?」
「ちげぇねぇ」
男達は何が面白いのか知らんが笑い出した。そのあまりにも不細工な面を見ていたせいで俺も思わず笑えてくる。
しかし、そんな俺の態度がこいつ等にとっては気に食わなかったらしい。
「おい。なにへらへらしてんだ。さっさと金出して命乞いしろや」
ほぉ。なにやら面白いことを言ってるぞ?
この俺に命乞いをしろと?
この俺に?
この、神である俺に?
「不敬だな。バースト」
ズガーーーーン
「「「うわぁ〜〜〜〜」」」
お仕置き程度に風魔法を使ったはずが、そいつ等は情けない声を上げながら空高く舞い上がった。本当は痛めつけて許しを乞わせるはずだったが、今は外壁を超えて遥か遠くを彷徨っているだろう。完全に加減を間違えた。
おかげでここら一帯のボロ屋がなくなってしまって更地だ。言い訳をしていいのなら、外壁が残っているのが救いということだろう。
だがいくら言い訳をしても、街の中でここまで派手な魔法を放つべきではなかった。なぜらなここに迫ってくる大勢の気配があるからだ。しかもその気配は風の信者ではないから兵士かなにかだろう。
面倒だ。
こっちは害虫駆除をしてやったのだから文句を言われる筋合いはないのだが、更地にしたことを責められては分が悪い。
「ふむ。逃げるか」
考えるのかま面倒になった俺は、とりあえずその場から立ち去って街の中に入り込んだ。