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05

 林の中で何度か盗賊を退治したあと、ようやく林から抜け出せると思ったところでまたも風の信者が唐突に現れた。


「ぐへへへ! この林を抜けたければ」

「エアインパクト」

「「「へばぶっ」」」

「……」


 気分を晴らそうと思って、盗賊達を地面に埋めるように吹き飛ばしてみたけど一向に気が収まらない。


 はっきり言ってもう嫌だ。

 いったいどれだけ自分の信者を潰さねばならんのだ。それにここまで自分の信者に襲われたら、流石に俺の気のせいではすまない。言い訳の余地もなく、間違いなく俺の信者にはクズが多い。


「……泣きたくなるぞ」


 認めたくなかった現実を目の当たりにしてつい愚痴を溢した。

 そしてやや放心状態で地に埋もれている盗賊共をしばらく眺めていると、遠くから新たな気配を感じとることができた。


(……俺の信者じゃないな)


 それにそいつ等が動いているスピードはヒトが歩く速度ではないし、林の中から迫ってくるものでもない。ただ気になっているのは、こちらを目指して移動してきているということだ。

 しかし、こちらに迫ってきているからと言って俺が隠れる必要もない。だから歩き出しもせずに待ち構えていると、林を迂回するように馬達が走ってきて、そいつ等は俺の前で馬を止めた。


 その姿を見てやはり移動しておけばよかったと思った。

 なんとなく面倒事しか予想できん。


 なぜならそいつ等は今までの盗賊とはあきらかに服装が違う。きらびやかではないが、綺麗に手入れされた鎧を身に纏いながら横一線に並んでいる。おそらく兵士と呼ばれる者達だろう。


 だが俺を嫌な気分にさせたのはそいつ等の格好ではない。あきらかに俺を疑って探るような視線を頭上から投げかけてくるからだ。


「……なんだ。お前等も俺に文句があるのか?」


 なんとなくイライラが抜けきらずにそんな言葉を口にしてみるが相手の反応は薄い。むしろ「またか」と言う言葉が聞こえてきそうな態度。

 そして五人組の兵士は俺の問いかけに答えることもなく馬から降りた。その時点で俺は怒りを覚えていたが、真ん中にいた兵士は俺のことをあしらうように意見してきた。


「そこの盗賊を捕まえにきたの。どいてくれるかしら?」


 澄んだ声自体には心地良さを感じることもできるが、なんせ内容と態度がいけ好かない。しかもそのリーダー格の女が水の信者というのも厄介だ。


 なぜなら水の信者は頭が固い奴が多い。だから俺がいくら言い訳しようと自分の信念を曲げないだろう。だからといって俺にガンを飛ばしてくるのは気に食わんが。

 それでも俺は譲歩して会話を続けてやった。


「それで、俺がどいたらこの盗賊共はどうなるんだ?」

「犯罪奴隷になるだけよ。殺しはしないわ」

「犯罪……奴隷か」


 こいつ等は盗賊だ。確かに捕らえられる理由は十分にある。罰を受ける理由もある。

 それは間違いないしそれを訂正しようとは思わん。だが、俺はそうやって裁かれていく信者達に同情せずにはいられなかった。 


「それともあなたもそいつらの仲間かしら?」


 そんな俺の思いを反意と受け取ったのか、リーダー格の女は俺に対して魔力を練り上げて威嚇してきた。それに合わせて他の兵士も魔力を練り上げてくる。


 その練度はさっきまでの盗賊達とは違う。ヒトに対してだけでなく魔物とも戦うことができる魔力で、場所が違えば褒めてやってもいいくらいだ。


 だが気に食わないのはそこに並ぶ兵士達が水に炎に地の信者達で、俺の信者が一人もそこにはいないという事だ。



 だからだろう。

 俺は俺が思っている以上に苛ついているのかもしれん。


「……なんなんだ、お前等は? そうやって風を仲間外れにして楽しいか?」

「……違うわ。結果的にそうなっただけ。私たちがなにかしたわけではなく、彼らは自らそうなったの」


 リーダー格の女は俺の目を見てしぅかりと答えてはきたが、その態度が苛つく。はっきり言ってどうしようもないほどの正論をぶつけられてしまえば苛つくとは当然だ。


 だが俺はこう思いもする。お前等がもう少し優しくしてやればこうはならなかったかもしれねぇだろ、と。


 だからその思いを消化出来ずに黙っていると、リーダー格の女はさらに言葉を続けてきた。


「そろそろどいてくれないかしら?」

「どかなかったら?」

「正義を執行するだけよ」


 ――スパン


 そしてリーダー格の女は勇ましくも、丸くてきれいに整った水の刃を作り上げて俺に掲げてきた。


 なるほど。

 確かにそれを作り上げる為に相当な努力をしてきたのだろう。そうでなければそれ程までにきれいな水の刃は作れない。

 その魔力の高さからも、もしかしたらこいつは聖女の素質を持っているのかもしれないと感心するほどだ。



 だが、今はその魔法を褒めてやるべきタイミングではない。なんならその立派な魔法をさっさと収めるべきだ。

 なぜならそれを使う相手を間違っているから。


 お前が今、目の前にしているのは……神だぞ?



「吠えるな。正義という名の犬が。ーーエアプレス」


 ズカーーン


「っ!」

「「「ぐぁ!」」」


 練り上げた魔力を押し潰すように真上から風圧をかけてやれば、そいつ等の魔力はあっという間に霧散した。

 しかし、それでもやはりこいつだけは質が違う。


「ほぉ、これに耐えるか」


 リーダー格以外の兵士は圧し潰されて地に伏せてしまったが、リーダーの女だけは足を地面にめり込ませながらもなんとな耐えている。

 どうやら正義を口にする程度には立派らしい。

 しかもまだ口答えできるのだから根性もなかなかだ。


「……その盗賊の倒され方を見れば、これくらいの使い手であることは……予想できたわ……」


 その視線を追ってさっきふっ飛ばした盗賊達を見ると、確かに地面の中に埋もれていた。つまり俺の攻撃手段と威力がどんなもんかはわかっていたということだ。


(だったら、尚更不可解だな)


 こいつは俺の魔法を理解していながら、それを避けずに正面から立ち向かってきた。おそらく勝てないと知っていなから。


「なるほど。それで? 俺の実力を予想できていながらなぜ喧嘩を売った?」


 女は俺の風魔法に耐えるのが必死で、すでに水の刃は維持できずに消えている。


 だというのに、歯を食いしばって睨み返してくる。

 なにもできないとわかっているくせに。


「それが、正義だからよ。いくら相手が強くても関係ない。私は私の信じる正義の為に決して退かない」

「お前は馬鹿か? 死んだら終わりだぞ?」

「死んでも貫くべき事があるのよ!」


 なかなかに苛つかせてくれる。


 ただ、力の差を見せつけられても正義を貫こうとするこいつは、紛れもなく水の信者だ。

 少々暑苦しく感じるが。


「もうちょっと肩の力を抜いて生きたらどうだ? 疲れるぞ?」

「……そう思うならこの風魔法を解きなさい」

「解いたら襲ってくるだろ?」

「……」


 嘘も言えないようだ。ここまできたら馬鹿と言っていいかもしれん。しかし、その姿に思わずあいつの姿がが重なる。


(まるで本物の水神を見ているようだな)


 力を持つ信者はそれぞれの神と性格が似通ってくる。それこそ勇者や聖女になる者は神の生き写しと言っていいほどそっくりになる。


 だから水神に風魔法を使っていると思うと流石にかわいそうになってきた。


 仕方ない。

 魔法を解いてやるか。


 パシュン


「……なんの真似?」

「まぁ少し悪戯が過ぎたと思ってな」


 当然女は睨みつけてくるがたいして怖くはない。どっちかというと水神が怒ったらどうしようかと少しハラハラしてしまう。


「見逃すと思うの?」

「先に魔法を使ったのはそっちだろ。見逃せよ」

「あなたが素直にどかないからよ」


 せっかく魔法を解いてやったのに本当に面倒だ。水神といい水の信者は頭が固いから融通が効かない。

 それに俺は後ろの盗賊を守りたかったわけじゃないのだから、後は好きにしてくれればいいのに。


(……待てよ。ここに全員が揃っているからややこしいんだ)


 閃いた俺は振り返ると、地面に埋もれたままの盗賊を風魔法で浮き上がらせてやった。そして気を失ったままの三人は抵抗することもなくふわふわと漂っている。


「なにをする気?」

「まぁ見てな」


 それを訝しげに見つめる女に俺は笑いかけ、緩やかな風を起こしてやった。


 ふわ〜〜



 その風を受けて盗賊達はゆらゆらと流されながら少しずつ林の中を進んでいった。それがあまりにのんびりとした動きのせいか、女と兵士達はそれをじっと眺めている。


「だからこれはなに?」

「あれ〜? 風魔法の制御に失敗したな〜。このままじゃ盗賊が風にのって逃げちゃうぞ〜」

「はぁ!? もしかしてわざと!?」

「そんなことよりも早く追いかけないと見失うぞ?」

「く! 行くわよ!」


 それだけ言うと、女と兵士達はめちゃくちゃ睨みながらも林の中に走っていった。そもそもあいつ等は盗賊を捕まえに来たのだ。水の信者なら優先順位を間違えないだろう。


「まぁ、これで少しはスッキリしたか」


 林の中に消えていく五人を見送ったあと、俺は気分良く林を抜け出した。


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