03
「きゃあ〜〜! 助けて〜〜!」
盗賊達を見逃したあとに林を歩いていると、今度は女の叫び声が聞こえてきた。
普通ならそれを聞いてすぐに駆けつけるべきなのだろうが、この林は人気がなさそうに見えているのに、そこかしこに人の気配をがあるというちぐはぐした場所だ。
だから誰かが助けに行くだろうと考えてはみたが、よくよく思い出せば俺の目標は風使いの信用を上げることだった。それなら俺が風魔法を使って助けだすべきだろう。
(仕方ない。人数は……全部で六人か。間に合えよ)
声のする方に走りながらも気配から正確な人数を割り出す。さらに魔法の痕跡も気配から探ってみるが、まだ魔法で争われた形跡はない。
それに少しばかり安心した時、木の合間を縫って人の姿が見えた。
(あれか)
そこにいたのは馬車を襲う三人の盗賊に、助けを求める一人の女。普通はそれを見れば誰だって助けようとするはずなのに、なぜか木の後ろに二人ほど隠れている。
(……こいつ等はなんだ?)
その意味を考えてみようとしたが、考えても仕方がないからとりあえず出合い頭で一発かますことにした。
そして木の合間から飛び出した時に、ようやく盗賊達もこっちに気がついた。
「よし! 獲物がかかったぞ!」
「なにが獲物か知らんが飛べ! エアインパクト!」
ドバン!
「「「ぶわ!」」」
「え?」
盗賊達もなにかしようとしたようだな、俺の出会い頭の風魔法で盗賊の三人は吹き飛んで林の中に消えていった。呆気ないほどになんの苦労もない。
「大丈夫か?」
まずは木の後ろに隠れている二人は無視して、座ったままの女にとりあえず声をかけた。もしかしたら怖い思いをしていたかもしれないと心配したのだが、その女はまだ男達から手を出される前だったのか衣服に乱れはない。
それを見て満足しようとしが、なにかが気になる。
(……そうだ。後ろの奴等も意味がわからんが、そもそもこの女がおかしいんだ)
注意深く観察すると、女はそこそこきらびやかな服を着てはいるものの、髪も化粧もけばけばしくて気品なんてものは感じられない。一応高価な物だけは揃っているが、まったく活かしきれていないのだ。
「あ、あの、その、え?」
しかも挙動不審なその姿はやはり服装から見てとれる立場とは異なる気がする。
「……ひとりか?」
「へ?」
「お前が馬車を走らせていたわけではないだろう。御者はどうした?」
俺に言われて女は慌てて馬車に目をやってから口をパクパクさせている。しかもその額から流れる汗は、時間が経つほど大粒に変わっていった。
「そ、その! さっきの盗賊に殺されてしまって!」
「……」
女に言われて俺も馬車に目を向けたが、御者の死体どころか血の跡すらない。
「……護衛はどうした?」
「え? あ、あれよ! 逃げ出したのよ!」
「それがそこに隠れてる二人か?」
「ふぁ!?」
無駄なことだろうとわかっていたが、俺は首を回して木の後ろに隠れている二人を指差した。
「「「…………」」」
そしてしばらくの沈黙が流れたあと、女の大声でようやく木の後ろに隠れていた二人も飛び出してきた。
「く、なんなのよあんた!」
「バースト」
バスン
「ぎゃふっ」
「「うお―!」」
「エアインパクト」
ドバン
「「ぶぅお!」」
そしてなんの抵抗も見せずに呆気なく林の中に消えていった三人を見送り、俺は盛大に溜め息をついた。
「はぁ。なんでよりにもよって……俺の信者なんだよ」
最初に吹き飛ばした三人も含め、全員が風の信者だった。つまりこいつ等はグルで、俺を叫び声でおびき寄せたつもりだったのかもしれん。
(それにしても……酷すぎる)
地上に降りてまだ数人しか会ってないのに、その全員が俺の信者で盗賊崩れの犯罪者じゃねえか。しかもまともに攻撃魔法を使える奴がいない。せいぜい気配を察知するために魔法を使っただけで、今の奴等も刃物で襲いかかってきただけだ。
「……たまたま、か? いや、この国だな。うん。この国が腐ってるんだ」
俺はなんとか言い訳を手に入れた。
おそらくこの国は風の信者に冷たい。
だから風の信者は仕方なく犯罪者に落ちぶれてしまった。
うん。
これなら納得できる。
こいつ等も好きで犯罪者の真似事をしているわけではないだろう。あくまで仕方なくそうなったんだ。
「つまり、俺が風使いの素晴らしさを伝えてやればいいんだな?」
それなら最初の目的と同じだ。
そうやって俺はそれ以上考えないようにして歩きだしたのだが、林を出るまでに三回も風の信者に襲われてしまった。