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「わからないわ。答えを教えてよ」
「あきらめるのが早いぞ」
真剣に考えていると思ったら、水使いは恥を気にする様子もなく諦めやがった。
数分前の俺の期待を返せ。
ただの馬鹿だったのか?
「なんでそんな抽象的な表現なのよ。もっと理論的に説明しなさいよ」
でたでた理論的に。
これだから水の信者は頭が固くて嫌なんだ。
少しは感覚的に生きたらどうなんだ?
「それに考えたんだけど、水はもちろん地も火も生きていくために必要よ。でも、風はどうなの? なくても生きていけ……そうか」
「やめろ。それ以上は言うな」
「必要ないから信仰心が薄いのね?」
「があああああ! 違う! くそ! 違う!」
「じゃあなんで風が必要なの?」
こいつは俺を馬鹿にしたかと思うと今度は真面目な顔をして聞いてきた。
本当になんなんだ?
俺がその神だぞ?
普通に失礼だぞ。
「いいか。風が吹かないと気持ちよくなれないだろ」
「……は?」
「風がぴゅーって吹いたら季節を感じれて気持ち良くなれる。お前はそんなこともわからん馬鹿なのか?」
「……馬鹿っていったい」
水使いは間抜け面をしているがその表情ではあんまりスッキリできない。むしろムカつく。
「あ、なるほど」
お、わかったか?
ついにこいつも殻を破るのか?
「つまり風使いがふらふらしてるのって気持ちがいいからなのね? その瞬間を楽しむためだけに人生をかける。だから先の事など気にせずふらふらふらふら。なるほどなるほど。とっても勉強になったわ。ありがとう、風神様」
なんだ?
感謝されているのに全然嬉しくない。
様をつけられているなのに見下されているように感じる。
なんかこの女がニコニコしているのがムカつく。
だが俺の不快な気持ちもやがて薄れた。
なぜなら時間をかけてようやく不気味な気配がそこまで迫ってきたからだ。
「な、なに? 怒ったの?」
俺の態度を見た水使いは少しだけ動揺している。
このまま放置していれば面白くもなるかもしれないが、顔を覚えたこいつに何かあると目覚めが悪い。だから一応声をかけてやった。
「なにかが近づいてくる。警戒を上げろ」
「!」
水使いは立ち上がるとすぐに魔力を練り上げた。ムカつく奴ではあるが無駄なやりとりが必要なくて楽でもある。
「姿を見てもすぐに攻撃するなよ。正体を見極めたい」
「それって、魔境がらみかもしれないってこと?」
水使いの表情がより真剣になる。
基本的に魔境の魔物はその領地を出ることはないが、決してゼロではない。
だからもしかしたらここを目指しているなにかも魔境から逸れた魔物かもしれない。
だが、やはり魔物とは違う。
「はっきりいって感じたことのない気配だ。だから生け捕りにして正体を暴く」
それを聞いて水使いの魔力は一層研ぎ澄まされたが、その表情は固かった。
パキ
なにかが小枝を踏む音が森の中に響く。
それを聞いて水使いも息を呑む。
カサカサ
不気味な気配は特に隠れる様子もなくこちらに歩み寄ってくる。もう、気配を探らなくともどこにいるかわかる程に近い。
そしてそれはようやく現れた。
暗い森の中を抜けて焚火に照らされるほどに近づいたそれの容姿は、俺の想像した不気味な存在からはほど遠いものだったが。
「……女の子?」
「……うむ」
「……この子を生け捕りにしたかったの?」
「……うむ?」
現れた少女から水使いに顔を向けると、そこにはまたしても軽蔑の表情を浮かべられていた。




