夢は覚める・幻は覚える
ハッキリとは覚えていない。
ただ、もう一度瞼を閉じれば
“良い気持ち”になれる。
そう感じていた、だから素直に瞼を閉じる。
だが思い出せない。
瞼の裏に投影されるのは何か“良くない予感”
“悪い”と断言できないのは
自身の性格の問題だと思う。
「おはようございます!眠そう……ですね。」
務めてにこやかに声をかけてくれるこの女性は、私の記憶に新しい。異動初日の挨拶で八王子に住んでいた、という共通点だけで私との距離を縮める役を仰せつかったらしい。
「何だぁ〜ボケェ〜っとして、程々にしとけよ。」
何故ニヤニヤしながら声をかけてくるのか理解に苦しいこの男も当然、私の記憶に新しい。数日前も“良い気持ち”が思い出せず、どんな夢だったか呆けている所へ現れた、妙に共感されたのは覚えている。
「調子はどうかな。」
どんな漫画家でも嫌味な奴を描いてくれと言えば
こうなるであろうこの人は勿論、私の記憶に懐かしい。
事あるごとに同じ台詞で登場し、何につけても厳しかった“じいちゃん”だ。
小学生だった私に《書道・剣道》を文字通り叩き込んでくれた。お陰様で、どちらも段持ち、人生の武器になっている。
大人になって感謝しようにも遅く
仏壇の凛々しい顔よりも
昇級試験に合格した時の顔を
ハッキリと覚えている。
ただ、もう二度と目の前に現れて欲しくない。
そう感じていた、だから素直に瞼を閉じる。
だが消えない。
瞼の裏に投影される“その姿”
“居る筈がない”と断言できないのは
自身の性格の問題だと思う。