01 千代、行き倒れる
雨に濡れた体からは徐々に体温が奪われていきます。
頭が熱いのに、体が冷たいです。
徐々に息が苦しくなっていって、意識がぼうっとしてきました。
（私このまま死んじゃうのかな）
嵐の中、外で倒れてしまった私は、この世界にきたばかりの頃のことを思い出します。
あてもなく、どうしていいのか分からなくて、あの頃はとても心細かったです。
でも、そんなときに「あの人」が手を差し伸べてくれた。
（このまま死んじゃうんだったとしても、せめて最後にもう一度会いたいな）
「あの人」の声を聞きたい。
その瞬間、私の心にあったのはそんな気持ちだけでした。
意地悪な事されてばかりだったけど、でも不器用な優しさのある「あの人」の声をもう一度……。
私は朦朧とする意識の中で、一人の男の人を思い浮かべました。
もう一度、少しでも良いので。
また、「あの人」の姿をこの目で見たいです。
神崎千代。
高校二年生。
私は、毎日楽しく過ごしてる普通の高校生です。
だけど、どんなに年齢を重ねても伸びない背丈と、大人びない顔つきが悩みです。
「うーん。あれ？ ここどこだろう？」
そんな私は、なぜか気がついたら、見知らぬ土地に倒れていました。
自分で気がつかない間に歩いてきたか、事件で攫われてきたのかな？
たぶん後者……？
発想が物騒ですが、そうとしか思えません。
とりあえず、私は周囲を見回しました。
「外国っぽいような」
起きた場所をしばらくウロウロしてみると、洋風の建物が目につきました。
通りを歩いている人は、黒髪黒目が多かった日本では見る事ができない風景。
金髪に、赤髪に、青の瞳に、赤の瞳に色々。とってもカラフル！
それだけじゃありません。
頭部には猫耳に犬耳。それに、おしりにはふもふ尻尾とか、もふもふじゃない尻尾とか。
実に多様な光景です。
多様性を主張している現代もビックリのいろいろ加減です。
私は瞼をごしごし。
「えっ？」
十分ぐらいしてから私は、よくある異世界転移を果たしてしまったのではないかという可能性に思いいたります。
「えぇ――っ！」
何でしょうこの私に厳しい展開。
ただの高校生でしか過ぎない私に、とても無慈悲な現実は。
気付いた時には、見知らぬ景色。
そして見知らぬ町です。
でも、どんなに目をこすってみても、それらは幻の様にさっくり消えたりしません。
どうやら私、びっくり現象が起きて別の世界から別の世界へと、飛ばされてしまったようです。
「ふぁぁっ！？ お家に返してくださぁいっ！？」
動揺のあまり、それからしばらく自分が何を言ったのか覚えてません。
おかげで周囲を歩いていた人たちには、不審なものを見るような視線をいただいてしまいました。
途方にくれながら、あっちをウロウロ。こっちをウロウロしてたんですけど、空腹でエネルギー切れを起こしてしまいます。
ぐぐーうっ。
「ううっ！」
その時に、ちょうど人気のない場所を歩いていたのが、運が悪かったんです。
空腹でばったりと倒れた私は、誰かかた助けられる事なく、そのまま時間経過。
3時間程、放置され続けました。
絶望感や悲壮感がどっと、私のこのぺったんこな無い胸に押し寄せてきます。
「誰か助けてくださぁい」
ただの高校生が外国、ではなく異世界に放り出されるなんて。
まったく、順応できる気がしません。
