生存組合“ケモノ組“2
太陽が昇りきった昼間の空の下で屋上へと上がった賢二と十和子の2人は貯めた水をジョウロで掬い農作物に水やりを行う。
「今の時代で手作業の農園なんて信じられるか?」
「しょうがないだろ、発電機だって無限に有る訳じゃ無いんだ。それにこんな前時代的な手作業も風情あっていいだろ」
企業が生産する第一次産業がオートマチックに切り替えられ手作業での生産する農家はこの100年で多くが廃業しており手作業での農園は個人の趣味趣向へ変わっていた。
「ほう、都市部育ちの奴にこういった風情がわかるなんて珍しいじゃないか」
「そういうお前はアナログが好きなのか?」
「決まってんだろ? 手作業でやったほうがこうして成長してるだって実感出来る。何でもかんでも機械に任せるのは私は好きじゃないね」
黙々と2人が水やりを行う。
遠くを見ると地平線に先にある白い外壁に囲まれた旧首都であった東京が見える。
逃げるように東京から出て行った賢二。
身体が犬のように変わり戸惑いながら人間性を失った獣に追われ続けた2週間で生死をかけた。
落ちていた軍人の拳銃やナイフを手にし迫りくる獣を殺した。
殺しまた殺してを繰り返していく先にいた神永瑠璃が率いる生存組合“ケモノ組“へと辿り着いた。
「やあやあ、お2人さん。太陽があるうちに逢引きですかな?」
片手を上げながら2人に言葉をかけると同時に苦虫を噛んだ様な顔をしながら黙って睨みつける。
「ちょっとちょっと、そんな睨みつけないでよ」
「うるせえぞカミナード、燃えちまえよ」
「スーパーで精肉コーナーにある油と同等扱い!」
「おうおう、丁度いいじゃないかい。そのたるみきった腹の脂肪はきっとさぞ燃えるんだろうねえ」
「トワちゃん酷いよ! 此処には夢と希望が詰まってるんだよ!」
瑠璃が自身の腹をポンと叩くと脂肪が波の様に流れる。
「別に太ってるわけじゃないし。むしろ痩せたし」
「いや、このサバイバル生活で太る要素がないだろ」
「おい、2人とも」
瑠璃の腹の脂肪を抓まれてその痛みに悶える側で賢二の視線の先を見ると何かがこのデパートに近づいて来る3つの影。
「トワちゃん、ケンケン、お客様の来店だね。準備しようか」
》》》》
扇状に建てられたデパートの構造状、入口から全て見渡せれるようになっておりそこで3人が迫って来るケモノを待つ。
「らいらいらい、久しぶりの来店だ。賢二、相変わらず良い目してんな」
「お前だって似たようなもんだろ」
「違いない、人間辞めて手に入れたのがこんな化け物みたいな力だけど生き残るのに役に立つなんてね」
十和子が片手で引き摺った鉄筋を片手で準備運動と振り回し、賢二が片手にナイフを構える。
ケモノが吠えてきた。
それが開戦の合図となり2人も前へ出る。
「いらっしゃいませ、お客様!」
全長2メートルの鉄筋をバットの様に振るい一匹のケモノを吹き飛ばすと1回、2回と地面に叩きつけられながら飛んでいく。
そのまま肩に担ぎもう一匹に一直線に走り出す。
これが鵠十和子の剣、小細工なんて必要ない。
だが、それでも堕ちたケモノを甘く見てはいけない堕ちたケモノも彼らと同じ化け物なのだ。
その剣が音速を超えようともそれを知覚できる感性を持ち合わせている学習能力も持っている。
十和子が飛び込んでくると分かるとその音速の振り下ろしを受け止める。
あとはそのまま十和子の首筋に噛み付けばゆっくり食事にありつける。
「後始末は任せっぱなしかよ」
だが此処にはもう一匹の狩人がいた。
首筋にナイフを立てそのままま引き裂く賢二。
たった1人で2週間の間に生き残るに必要だった物が一撃離脱。
1回で確実に殺す暗殺技能こそが賢二の生き残るに必要だったが故に身に着けなければならなかった物だ。
そして聞こえてくる低重音のエンジン音が地面を揺らす。
それはやって来たケモノに喰らい付くばかりにうねり声を挙げ鉄の塊が現れた。
「ヤッハー!!」
瑠璃が跨がるライムグリーンのバイクがデパートの駐車場に現れそのまま突撃するとケモノを宙に飛びながら地面に叩きつけられると瀕死になりつつも小さく声を出し続ける。
「たくよ、雑過ぎるんだよ2人とも」
最後には逆手に持ったナイフをケモノの脳天に突き刺しそのまま息の根を留める。
殺しに対してもはや彼らに抵抗はない、守るために殺す、この世紀末世界ではそんな持っていては明日は我が身、いつ喰われてしまうか分からないのだから。
それが彼らにとっての日常なのだ。
3匹のケモノの死骸、そして2本のナイフから爛れる血を見ながら賢二はため息をつけると十和子がポンと肩に手を載せる。
「気にするんじゃねえぞ、これも生き残るためだ」
「わかってるさ、そんなこと」
ケモノと言うが言っているがかつては自分たちと同じ人間を殺した事に罪悪感を抱く。
生き残る為、そんな大義名分があるからこそ手に持つナイフで幾人ものケモノをこの手で殺した。
どこにでもいた大学生だった筈がある日に命掛けのサバイバル生活を行い、さらに自己防衛と言いながら簡単に元とはいえ人間の命を奪う自分に嫌悪感を抱いた。
自分の身を守る為に人間としての理性を保つために心を殺しケモノを殺す。
殺られるならやり返す事がこの世紀末になった世界では正しい事だとわかっているがいざそれを継続することが出来るだろうか。
腕立て、腹筋、スクワットを毎日100回休みなく続ける、1日1時間の勉強を続ける。
目標に向かってその過程を継続させていく事は正しい事だろう。
だが、それがいつまで続ける事が出来るのだろうか。
毎日続けるなんて辛いだろう、疲れるだろう、痛いだろう。
こんなに辛い事はない。
自分たちがあの子達を守らないと分かっているのに殺したくないなんて思う俺は屑なんだろ。
「たくよ、楽に生きたいのに嫌になってくるな畜生」
この狂った世紀末では既に救世主である神が降りている。
そして救世主はヒトを選び、選ばなかった俺たちをケモノとして排除した。
ケモノはケモノらしく這いつくばれと言わんばかりに廃墟と化したこの外側に追いやられた。
だからこそ法などない、いつ自分たちが食われる側になるかわからない弱肉強食こそが残された法なのだ。
「ごめんね、ケンケン。だけどやっぱり私達2人だけだとどうしても手が一杯になっちゃうから」
「瑠璃、いいんだよそんな事。やらなくちゃいけない事だっていうのはわかるから」
本当はもっと楽に生きていきたい、ただ身体能力の向上だけじゃなくて神様から摩訶不思議な力を貰って俺が最強だなんて思ったこともあるがそんな都合よく行くはずがない事なんてわかってるさ。
そんな事が出来るのは外壁の内側、本当の意味で神様に選ばれた彼らなのだから。
デパートには俺たち3人を除いたら全員が小さな子どもに竹槍を持たせるなんて何百年前の話だ。
そうだ、だからこそ俺たちが、俺がやらなくちゃいけないんだ。
手に持つナイフを鞘に収めながら死体に軽油をかけ燃やしてから俺たちはデパートへ帰っていく