生存組合“ケモノ組“
西暦2200年、夜が明け朝日が登ると同時に神が降臨した。
金色の長い髪に白い腰巻きを備えた質素であったがそれを目撃した人々は降り立ったそれの神々しさに目を奪われた。
「貴方様方に祝福を」
放たれた言葉と一緒に夥しい模様が神の背後に現れるとそこから放た光の雨が世界中に放たれる。
光の雨は矢の如くヒトに突き刺さると何事も無かったかのようにその身体の中へと入っていくとある者は誰とも構わず獣の様に殴る、蹴る、噛み付く。
それは1人2人ではない、10人、100人、1000人と増えていく。
その中で現れる現れたそれと同じ黄金の翼を得たヒトがいた。
そしてある者は光の剣を、ある者は光の槍を、またある者は光の弓を手にして暴れるケモノを抑え、処分する。
神が現れた日、世界は死にそして新たな秩序が造られた。
それこそが神の都、アルカディア。
白く純白の外壁に囲まれたそれは絶対正義の象徴でありあの日より光の雨を受けても人間性を保ち高次元の存在に昇華した新たなヒト。
外壁にあるのは神より罰を受けたケモノへと墜ちた絶対悪の住まう新たなヒト。
此れは神により選別されたヒトによる墜ちたヒトを粛清する聖戦である。
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「皆の衆、凱旋じゃー!」
「やかましい、喋るな」
「んー、ケンケンが辛辣ですぞトワちゃん!」
「二人とも静かにしてないと奴らじゃなくて私がお前らの首をへし折るぞ」
「わーん、酷いよ!」
リュック一杯に荷物を詰め込んだ3つの人影、それぞれ人だった時の面影をケモノへとその身を落としたにも関わらず嘗て持っていた人間性を残し言葉を交わす。
先頭で音頭を取る短く髪を整えた活発な少女の神永瑠璃。
だがその背中にはカラスの様な黒く艷やかな翼が折り畳まれている。
少女を注意したネックウォーマーを巻いた犬の耳に尻尾を生やした少年、月読坂賢二。
髪を腰まで伸ばしたタンクトップの女性、その晒している肌の至る所には黒い蛇の鱗が見えており、手には身の丈を超えた道路の標識を肩に担いだ鵠十和子。
「これ以上騒ぐと奴らがやって来るから早くデパートに戻ろう」
「オーライ、リーダーも拗ねてないで行くぞ」
「ブーブー」
「この豚やっぱり置いていこう」
「いーやーだ、置いていかなでぇ!」
重いリュックを背負い3人は仲間が待っているデパートへと向かっていく。
外壁の外、ケモノへと墜ちた者たちの中でも人間性を保った者たちが暮らすコミュニティー。
嘗ては大手デパートとして盛んだった建物にひっそりと暮らす
14人のヒトたち、だがそれらは本来のヒトの姿とは掛け離れたものへとなっていた。
そして3人を除いて全員就学前だった子どもたちだ。
ある者には蛇の鱗に尻尾が生え、ある者は背中にコウモリの翼を持ち、またある者は硬い毛とそれに覆われた尻尾が生えていた。
その姿はまさに悪魔そのもの、故に異端と呼ばれるヒトならざる者達の末路。
「それじゃあ会議を始めるぞい」
「でぇリーダー、今回は何するんだ?」
椅子で船漕ぎしながら十和子が尋ねる。
「フフン、よくぞ聞いてくれたトワちゃん。私は思ったんだ、もうすぐ春だよね?」
「前置きはいいから要件だけヨロ」
「ケンケン酷い!」
「リーダー、サッサと進めろよ。もう大方の内容はわかってんだからさ」
「じゃあ早速だけど花見をしよう」
「ヘイヘイ、リーダー。頭の中にちゃんと脳みそ詰め込んだか? 外は奴らで一杯で」
「そんな事わかってるよ。だからジャジャーン!」
瑠璃が2人に見せるのはデパートで集められた折り紙。
「おい瑠璃もしかして…」
「流石ケンケン、犬だけに鼻がいい!」
賢二がまたか、と手で顔を覆い十和子が口笛を吹く。
「これで花飾りを作ってお花見だ!」
「俺花飾りの作り方知らないけど」
「ヌフフ、ここを何処だと思っているんだい。こんな事もあろうとジャジャーン」
どことなく取り出した折り紙の本に賢二は覚悟を決め、十和子は黙々と折り紙で花を作り始める。
外壁の外は既に世紀末、油断した瞬間に理性の無い獣に殺される世界に神永瑠璃は世紀末でもエンターテイメントとして誰かと共に楽しむ事をモットーに今日もデパートでは鎮まりかえった夜でも3人は小さな子ども達の為に花を折り続ける。
幼い子ども達にこんな世界だけど楽しいことがあると瑠璃は知って欲しかった。
「見ろ子ども達、今日は花見じゃぞー!」
「「「わぁあああ!」」」
徹夜で作られた赤、青、緑、黄色、色とりどりの花飾りが会議室にて飾られる光景に心が踊る小さな子ども達とそれを先導する昔ばなしのおじいさんルックの瑠璃がいた。
彼らもあの朝に現れた神の放った光の雨によりヒトからケモノへと墜ちそれぞれが人とは違った皮膚に鱗、翼に尻尾そしてヤギの角といった物が生えていた。
歓声を挙げる中、台車に載せられたダンボールの枯れ木を賢二が会議室に運んでくるとザルに一杯の塵紙を持った瑠璃が声を掛けた。
「それともう一丁、枯れ木に花を咲かせましょう!」
塵紙が待った瞬間、枯れ木が回転すると枯れ木から一気に満開の桜に変わる。
次々に枯れ木を模したダンボールが台車で運び込まれる度に塵紙が舞うと桜が咲く。
「花咲か爺さんじゃなくて花咲か婆さんかよ」
「参ったね、ホント」
「十和子」
賢二が外で手に入れたポテトチップスを摘みながらビールを煽る十和子が賢二の横に座る。
「子どもの笑顔って不思議だよな、ただ見てるだけでこっちも楽しくなる」
「ああ、本当に不思議だよな」
「だけど私はこれじゃあ満足しないね」
「なんでだよ?」
もう一度ビールを煽り空になった空き缶を握り潰し瑠璃と戯れる子ども達を見ながら呟く。
「あの子達にも本当の花見って奴を教えてやりたいんだよ」
賢二が十和子の言葉に想像が膨らむ。
瑠璃が前日までに満開になった桜の下で場所取りをしながら十和子が賢二の首根っこを引っ張り最後にはみんなが笑って宴会を開いている光景が。
「ああ、またここにいるみんなで」
この世紀末世界では人間性を奪われたケモノたちが跋扈する冥府の窯の底、幼い少年少女を連れて外に行く事は出来ない、故に彼ら3人で外へ行き食料の確保へ向かう。
ケモノという烙印を押されても、こんな世紀末世界だからこそ彼らは笑おうと楽しもうとした。
そうもしなければ恐らく人間としての心が壊れてしまうから、小さな子ども達の為にと言いつつ自分たちの心を守る為に利用する。
子ども達も自分達だけでは生きていけないから大人に頼り、そして彼らも自分たちの心の癒やしを求めて彼らを活かす汚い共依存。
「さてと、私はちょっと屋上農園に行ってくるよ」
「水やりか?」
「勿論、きっとあの子達も今日は疲れて寝ちまうだろうからさ」
確かにと賢二も笑い同じように席を立つ。
「俺も手伝うよ」
「ヒュー、流石色男」
「からかうな」
そう言って賑やかな花見を後に2人は屋上へと上がっていった。