TSUKIYOMI
1993年。
私は、月面探査機TSUKIYOMI。月の鉱物が、色々な感情を発しているとの情報から、調査のために私が開発された。
研究者チームは、YURI.UMI。
CHAN-TSUBAMEMOTO。
JEF。この3人が私を作って、月に送った。
月に送られる前、JEFが遅いランチを食べながら、「君も、サラダ食べる?」と聞いてきた。私は、なんのことか、さっぱりわからなかった。すると、「君、ウサギなのにサラダ食べないなんて、変わってるね。」とJEFが言った。
後ろを通りかかったYURI.UMIが、「ウサギじゃないのよ。月面探査機なんだから、サラダは食べないわよ。」と言った。そう、私はウサギという動物の形を模倣したらしく、長い耳をしている。
CHANは、パソコンに向かってクールに微笑んでいる。「何にも食べないわよ。その代わり、寿命は3年ね。」
私は、まだ地球上にいた頃、3人と過ごした日々を懐かしく思う。月面に一人でいるのは寂しい。
耳から、HANDを出して、ひとつの鉱物を手にした。その鉱物の記憶をスキャンしてみる。眠っている鉱物が目を覚ます。
《アームストロングさんは、いつ来るの?》
宇宙飛行士の姿が、私の内臓ハードウェアに映し出されている。蓄積されているメモリによると、1969年に月面着陸したアメリカの宇宙飛行士だ。
以下TSUKIYOMI 内蔵映像
アームストロングは、鉱物を手に取り眺めた。
《君は、美しいね。》
アームストロングの声が聞こえてきた。鉱物は、嬉しそうに輝いた。
《ホントに?》
《うん。美しい。リビングルームに飾りたいな》
《ホント?地球に連れてってくれる?》
《うん。いいよ。でも、ほかにも、調査しないといけないことが、たくさんあるから、また、後でね。。。》
ボーマンは、悲しいことに、鉱物をもと置いてあった位置に置き直すと、宇宙空間に消えてしまった。
でも、月の鉱物は、キラキラ輝きながら、その後、何年も、何年も、ボーマンが自宅のリビングルームに飾るために、戻ってくるのを待ち続けた。そのうち、鉱物は、意識がぼんやり霞み始めた。
TSUKIYOMIは、宇宙飛行士に恋をした鉱物をスキャンし終わった。
月の鉱物は、今はもう、意識や記憶もなくなって、ただの鉱物になっていた。
TSUKIYOMIは、そっともとの位置に戻した。