年下の・・・・娘
共通の趣味の集まりで知り合ったアユミちゃんは、私とかなり仲が良くて。
年下ではあったけれど、ずいぶん一緒にあちこちに出かけていた。
月に一度はイベントに行って。
年に一度は遠出をして。
近からず、遠からず、そんな距離感が心地いい、関係。
知り合って二年が過ぎた頃、私は故郷を離れることになった。
その年の冬。
アユミちゃんの作ったなべをつつきながら、楽しく談笑してたら突如、会話が途切れた。
いつになく真面目な顔をして、私と向き合う、可愛らしい…女の子。
「……あのね。私、実は男なの。」
「ふーん。」
ああ、この鍋美味いな後で作り方聞こう、そんな事を考えて水菜をつまんでモグモグ…。
目を丸くする、アユミちゃん。
「驚かないの?!」
「まあ、アユミちゃんはアユミちゃんであって、うーん、性別は気にしてなかった。そうなんだ。ねえ、餅巾着食べちゃってもいい?」
アユミちゃんの目に、みるみる涙がたまって、ぼろぼろこぼれて。なんだどうした一体何が起きたと焦り始めたんだよね。
「ずっと、隠してることに罪悪感があって、辛かったのに!!!」
「気付かなかった、ごめんごめん。」
ド派手に泣くアユミちゃんのお化粧は崩れに崩れまくったけど、相変わらず可愛かった。
しまった、女の子泣かせちゃったよ!!…違う!!男の子だった…ってねえ。
混乱しつつ、豪快にタオルで涙を拭いてあげた、あの日を思い出すなあ……。
「もう、いつぶりなんだっけ?」
「ずいぶんだね、うん。泣いちゃった日以来だー。」
私の目の前には、気のよさそうなおじさんが一人。
歩ちゃんは、私が故郷を離れるタイミングで女装を卒業しちゃったんだよ。
それで普通に就職して、結婚して、今は娘さんが二人いる。
年に、二、三度電話してたからね。最近はSNSもあるし。
たまたま出張でこっちにくるっていうんで、急遽会うことにしたんだ。…なにげにあの日以来初の対面、意外と違和感なく話せるもんだな。
「なんかばれないようがんばってた自分がおかしくて。」
「ばれるも何も、性別なんて疑わないでしょ、普通…。」
一人暮らしを始めた一番の目的が女装だったそうで。
性別を偽って知り合った友達第一号が私だったそうな。
何回かアパートにお邪魔したけど、全然気が付かなかった。
よっぽど歩ちゃんが気を張ってがんばっていたんだろう。
…私が無頓着なだけかもしれない。たぶんこっちが正解だ。
「学生時代にやりたい放題やれたから思い残すことなくてね。」
「まあ、あれだけモテてたらねえ、そりゃ満足もするでしょ……。」
そう、歩ちゃんはモテモテで、私がガードしてたぐらいでね。
イベントではいつも写真お願いしますーとか言われてて大変だったんだよ…。
「今はいいよね、おとこの娘が堂々としてるもん。しってる?」
娘さんに昔の写真見せたらえらくほめられて大喜びなんだよ、この子。
「知ってるよー、良いよね、いろいろとさあ。時代は変わったよねえ。」
「ふふ、僕たちが、変えてきたのかも、知れないよ?」
私の目の前の、年下のおじさんは、そういってにこにこと笑った。
…いつまで経っても、年下のおとこの娘は可愛いもんだ。
昔、モテモテだった歩ちゃんに、いいなあモテて、私も可愛くなりたいなって言ったらさ。
「そのうちすっごくかわいくなるよ!」
って言ってくれたんだけどさ。いったい私は、いつかわいくなれるんだ。おかしいな。おかしいぞ。
目の前でイチゴパフェを可愛く頬張るおじさんを見つつ、私は焼肉定食をがつがつと食べたのだった。