5話 解決編
七原実香は純喫茶「幕怒鳴弩」にいた。
向かいの席には高田洋一がピエロのマスクをして座っていた。
ドクロ山荘に救助隊がきて下山する最中、今日ここに来るよう言った。
真相を明らかにしてみせると言って。
「それであの事件の真相とは一体なんでしょうか?」
「簡潔に言えば犯人は四郎とあなただということです」
「──ほう」高田はそう言ってコーヒーを飲んだ。
マスクをしたままだったのでマスクの口元が汚れた。
「汚れても問題ないんですよね。マスクを取り換えれば」
「おや気づいていましたか。返り血は案外気づかないもので」
そう言ってにやりと笑う高田。マスクをぱぱっと取り換えた。
コーヒーで口元を汚した事実はあっという間に隠蔽された。
「死体損壊罪は懲役3年以下。危険を冒さず楽しめる。
そう言ってそそのかしたのですか?」
「はい。四郎くんはすぐに飛びついてきました。
私が殺した死体をバラバラに刻めると聞いて」
一郎と二郎の事件、高田に死亡推定時刻のアリバイはなかった。
彼が殺した後、四郎は死体をバラバラに刻んだ。
彼は死亡推定時刻にアリバイはあったがその後に空白の二時間があった。
「四郎は当初、あなたが殺した死体をバラバラにするだけのつもりだった。
アリバイがあるからばれないし、もし発覚しても懲役3年で済む」
「そうです。当初は残る三郎もその予定だと彼には言いました。
そして私の予定どおり予定外のことになりました」
四郎は二つの事件の鉄壁のアリバイを持っていた。
だから次の事件でアリバイがなくても大丈夫だと思ったのだ。
そこで三郎を、今度は殺すところから自分でやった。
高田の想定どおりに。
「四郎は3時に三郎を殺して1時間で解体しました。
4時に終わって疲れているところをあなたに殺されたんです」
「それはどうでしょう。
4時以降にアリバイがないのはオーナーもですよ」
おどけて言う高田に七原は言った。
「殺すだけならオーナーも可能です。でもバラバラにはできない」
「・・・バラバラに?」
そうだ。四郎の行方はわからなかった。どの部屋にもいなかった。
外は切り立った崖で囲まれていて隠れる場所もない。
「だったら方法はひとつしかない。隠したんです。
一郎と二郎の部屋に。バラバラにして半分づつ」
血の臭いはもう充満していたから追加しても誰も気づかない。
身体の部位が増えたところで誰も数えたりするわけがない。
「ただ頭だけはさすがに目立つ。だから部屋に置くわけにはいかなかった。
頭だけはあなたがいつも持っていたボストンバッグに入れていたんです。
臭っても平気でした。山荘は血の臭いが充満していましたから」
「そのとおり。あとは燃やしてしまえば終わりです。
でも警察は金口くんの推理と同じように考えてくれましたよ」
いまだに四郎の行方を追っていると聞いた。
ドクロ山荘の焼け跡はまだ検証できる状況じゃなかった。
「面白かったです。死刑を怖がりつつバラバラにしたい欲望だけは一人前。
私が汚れ役を引き受けると言ったら嬉々としてついてきました」
そうだろうなと七原は思った。
四郎がそういう人間に見えたからこの推理にこぎ着けたのだ。
「そしてアリバイで安全圏に逃げると予想どおり調子に乗りました。
ああいった人間が一番掌で踊らせるのが簡単なんです」
四郎はおそらく自分が高田を利用しているつもりだった。
最後の最後に思い知らされるまでは。
「さて、そろそろ私は行きます。また会えるとよいですね」
「よくない」
しっしと追い払う七原に高田はスケジュール帳を手渡した。
ドクロ山荘に行った日にマルがついていた。そして他の日にも。
「・・・事件はまだ続くということ?」
七原はスケジュール帳を閉じた。