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少年の妄想記 短編集  作者: 餅を食べる長ネギ
1/1

そこに茶碗がある

少年は思う。

自分の行動は間違っていたのだろうか?

 そこに茶碗がある


 確かに昨日見た。デパートだか、百貨店だか、茶色い茶碗を見た。まさに今あるものと同じで、分かりやすく違いは見つからない。そうパッと見ただけだから全く同じものかと問われると、こう絶対とは言い切れないのだがまあ同じなのだ。大体茶碗として想像して茶色いものを思い浮かべない人いないだろう。それと同じで大体描いてみたらこの茶碗が出てくるかなと言うほどのものだ。だから全く一緒で、一つの違いも無いと訊かれると絶対と言えないのはそう言うことなのだ。それでもやはり見たことのある茶色い茶碗だ。


 茶碗だ。

 ああそうだよここには茶碗がある。

 一体なんだって茶碗なのだ?

 いやいや其処に茶碗があるからだろうに。どうしたら視たものを茶碗と言い切れない。そうだ茶碗だ。それでも何故だ。ここは陶器屋だと言うか?


 いいや


 本屋だ。何と言ったって其処に本があるからだ。何でそんなとこに茶色い茶碗がある。それに本があるからたって本屋とは限らんに。本といえば図書館にでもいいじゃ無いか。図書館なら教養の無い学生が茶碗を持ってきたかもしれないだろう。其れは最もだが、本があるって言ったら本屋だろう。それに図書館に茶碗があるかい。そんなことがあったらすぐ叱られる。そうだな此処は本屋だ。それと茶色い茶碗は、本の表紙だな。そうすりゃみたことあるのだって説明つく。もしやカタログとかじゃないか?


 いいや。茶色い液体の入ったしっかりとした茶碗だわ。正しいことは正しいと言わねばならん。


 そうか茶色いなら味噌汁か、味噌汁は美味しいよな。そうだ味噌汁は美味しい。美味しいが、なんだって味噌汁の入った茶色い茶碗が本屋にある?


 なんで?なんでってそこにあるからだよ。当たり前じゃないか。見えてるから事実だろう。でもそんなところに味噌汁の入った茶碗があるのは、不自然じゃないか。やっぱり何かの間違いじゃないか?ほらこの前精密に描かれて、本物と区別がつかない絵を見た。


 其れはそうだけれど、なんだって描かれてる絵にこんな香りがある。それに今にも溢れそうな姿はどうすれば描ける。


 その通りだ。まさに溢れようとしてる、一期一会のこの様は、そう描こうとして描けるもんじゃない。


 だとしても。


 なんだって溢れそうな味噌汁をどうしてそのままなんだ。本に掛かったら嫌だ。あっという間に味噌汁風味香り付きの本になってまう。そうだな。それはいけない。大切な本が読めないではないか。


 その通りだ。この溢れそうな茶碗に、水が注がれてるがどうすりゃいい。大変だ。悪いことは悪いと言わなければならん。早くしろ。


 しかしどうにもならんのだ。


 どうして何も言わない。姿が見えんのだ。見えないとは、どうするか。しかし何もしないのもいけないことだ。如何して悪を放っておける。他に適任はいない。どうにかしろ。


 判っている。


 然し。

 言葉届かぬ相手に、どうしろと言うのだ。其れから其れに。此の茶碗は、本の上にあるどうにかしたいがこの湿った本はどうすりゃいい。謝れば済むか云いや、弁償するか。しかし置いた訳でもないのに、どうするか。


 早くなんとかするべきに決まっている。兎にも角にも、次溢れる前に茶碗を退けろ。また被害が出るぞ。水を注ぐのも、茶碗を放置するのは有り得ない。


 無理だ。


 なんだ?

 なぜだ?

 如何してだ。


 なぜだか無理だ。



 目と鼻の先にあるが、手が届かないのだ。



 近いんだけど、届かないんだ。


少年は自分の正義が間違っていると思った。

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