棒状の何か
一方健志はと言うと、
前半から中盤にかけて
今にも吐血しそうな形相をしていたが、
最後の愛のある罵倒により恍惚とした表情を浮かべ、
腕を大きく伸ばしながら床に倒れ込んでいる。
ここまで満足げで悦に入った姿は見たことがない。
正直な感想を一言。
「うへぇ、きっもちわる」
すると健志は身体をビクンと跳ねさせ、
「あふぅっ////」と鳴いていた。
やっぱりキモイ。
なんとか俺を楪だと認めさせられたようだし、
さっさと健志の上から退こうとすると
鼻息の荒い健志が俺の手首に掴みかかってきた。
「きゃ……」
荒っぽい掴みだったせいか、
グイと強引に引き寄せられたせいか、
俺は健志の上に倒れ込んでしまった。
そしてここからが本当の恐怖というやつで、
俺の顔と健志の顔との距離が
小指一本分くらいになっている。
しかも健志は、
「も、もっと罵って……」と
逆上せ上がった顔で俺に迫ってくる始末だ。
「ちょ、やめ、マジキモイから近付かな……あ」
うっかりで健志を
興奮させてしまった俺くんピンチ!!
多分、メンタルティな意味で。
――そんなとき、
微かな声のようなものが耳に入った。
「っっっっっっっきも」
けれど健志は反応していない。
やっぱり空耳だったのかと思っていたら、
今度は窓の方で何かが蠢き、
そうかと思った
次の一刹那には目前に何かが振り下ろされていた。
シュッとスイングするような風を切る音、そして、
「ダサ男×変態ドM野郎の胸糞
BLには視界の暴力罪として天罰です!!」
という非常に愛らしい少年ショタっ子ボイスが木霊する。
瞬きも許されず、その声の主すら確認しない間に、
俺たちは棒状の何かで殴打されていた。
「ゔっ」
「ゔぁ、ぁあんっ////」
どういうことかいっぺんに殴られた
俺たちは離れるようにして逆方向へと倒れ込んだ。
ぼやける視界と朦朧とした頭で
やっと捉えたその姿はとても小さく、
地球外生命体の形をしていたような気がする。