****健志は――抱えていた。****
しかし予想に反して、
健志の表情は恍惚としたものになっていなかった。
むしろ、
猜疑心でも抱いているような目で俺を見据えている。
しばらくすると、
手を離せと言わんばかりに手足をバタバタさせ、
抵抗してくる始末だ。
さすがに呼吸も苦しくなるだろうしと
手を離してやると、
健志はふしだらににやぁと目元を綻ばせたり、
キリッとしてみせたりと表情が忙しなくなった。
髪は青年風。
細面だが骨格の良い引き締まった輪郭に、
すっと通った鼻筋、
均整の取られたあっさりした薄めの唇、
造作されたかのように整った凜々しい眉。
まさに端正な顔立ちの典型例だ。
それに加えてタッパもある彼はしかし、
容姿端麗というわけではなかった。
それだけあっても冴えない。
その理由はというと、
彼は驚くほど円らで小さな目をしていたからだった。
周囲のバランスがよすぎる分、
そこだけが浮き彫りになってしまう。
言うならば、仮面さえ付けたらイケメンなのに、だ。
しかしこの残念さに俺はほっとした。
親しみ慣れた親友の顔だったからだ。
ただ、そうも言っていられない状況ではある。
一旦は母さんを呼びつけられる
という窮地を逃れたと言えど、
また健志にでも騒がれたら窮状へと逆戻りだ。
それは敵わないと、
次の言葉を考えあぐねていたら
未だに俺の下敷きになっている
健志の唇がゆっくりと動いた。
「お前……楪の妹か何かなのか?」
その瞳に胡乱さは感じられない。
俺はこれ幸いと正直な答えを述べることにしてみた。
「ううん、違うよ。
俺は楪なんだ、信じてくれ健志」
そう答えた途端、健志の目の色が変わり、
彼はしばしばと瞬きをする。
「おい、本当かよそれ……
だってどう見ても女…………」
健志は目をぱちくりさせては、
俺の姿を舐め回すように見回していく。
しかし見れば見るほど俺は女であるらしく、
健志は頭を抱えていた。