「君はボクのことを嫌っているでしょう?」
『あたしはまた、その子と話したい』
『戻ってきてほしいよ』
の二文だけだった。
だけどその気持ちというのは
過分であるほどに伝わってくる。
『それなら、そのために行動しようよ。
大丈夫、一人じゃないから』
私がいるよ、
とまではあまりにベタで気恥ずかしさに
耐えられそうにもなかったので控えておいた。
しかし、ほどなくして届いた天宮さんからの返答は、
『ありがとう。柚子ちゃん』
それとゆるきゃらの猫のアルビノをモチーフにした
ねこまくんが号泣しながら♥を
抱き締めるスタンプだった。
スタンプってやつは
こういう簡素な文にこそ活躍するものだなあ。
言葉で埋めきれない内情の部分を
自分から見せてくれるだなんて、
本当に有り難いものだ。
『あと、一つ
教えてほしいことがあるんだけど――』
俺は天宮さんからの相談を終えて、
神のいる元自室の前に立っていた。
というのも、神に指図されて
話し掛けた子の秘密をその日中に知り、
その日に悩みを相談されるなんて
なかなかどうして不自然に思えたからだ。
神という存在さえなければ、
疑いようもなかったのだけど
今は紛れもないそいつが家にいる。
疑うなという方が無茶な話だった。
もし神が仕組んだことなら、
何かしらの手助けをしてくれるのでは
と思い至った結果だ。
コンコンコンとドアをノックすると、
中から「ど~ぞ~」と
気の抜けた挨拶が返ってきた。
ドアノブに手を掛けて部屋に入った先には
ポテチを食しながらスウェット姿で
漫画を読み漁る神の姿があった。
しかもよく見ると右手ではスマホを操作している。
「あの、さ、神」
「なんですか~構いませんけど、
急にユズの方からやってくるだなんてぇ~」
神は依然として漫画を読み進め、
こっちを向こうとしないまま喋り出した。
口と態度がまるで別なのだが……。
「なんだよ、俺から来たらいけないのかよ」
そう膨れると神は急に漫画を読むのを止めて、
漫画をぱたんと閉じた。
そして気怠そうに身を起こすと俺の方に正面を正して、
「だって、君はボクのことを嫌っているでしょう?」
と自嘲めいた笑みを見せたのだった。
俺は一瞬のその言葉にヒヤリとした。
本当に何か悪いことでも
したような気分になったのだ。




