「――もうどうにでもなれ!!」
「ピロンッ」
枕元に置いてあったスマホが
LINKの受信を報せる。
面倒臭いし、
どうせ夢だろうからと無視を決め込もうかと思ったが、
それ以降も何度もピロンピロンと
うざいくらい受信音が鳴り響くので眠る気も失せて、
俺はスマホを手にした。
待ち受け画面には
健志からのLINKが何通も表示されている。
するとそれらは一瞬にして
俺を地獄へと突き落としたようなものだった。
『おい楪!』
『まさか……』
『この僕が今日お前んちに行くの忘れてないよな?』
『ないよな?』
『おーい返事しろ』
『……三分だけ待ってやる。
だからそれまでに用意しとけよ』
それが一分前のLINKだ。
「んんっ!?
あれ、今日だっけ。
あー……………オワタ」
健志になんて説明するんだよぉぉぉ。
それに、
説明できたところで信じてもらえる自信がない。
しかも今から家を出ようにも
一分前に送られたLINKで
三分だけ待つと言っている辺り、
もうこの付近にいることは間違いないだろう。
すなわち、事態の収拾がつくまで
どこかへ避難するというのも不可能になる。
こう考えているうちにも時は刻一刻と過ぎていく。
とりあえず健志との正面衝突が回避できないにしても、
サイズの合っていない
男物のスウェットから鎖骨や
谷間が露出しているのはいかんせん見過ごせない。
何かないものかと部屋右側にある
クローゼットに向かおうとしたとき、
あるはずのないものが視界の隅に入った。
それは女物の下着と衣服だった。
水色のレースをあしらった水着のような下着と
白い丸襟のブラウスに、
紺色のシックなロングスカート。
俺は兄弟の末っ子で、
上はもちろん兄だし女装趣味もない。
こんなものさっきはなかったはずなのに。
謎の女物の衣服を抱えていたら、
「ピロンッ」という
着信音が静かな部屋に響いた。
恐る恐るスマホの待機画面を表示してみる。
『あと一分』
という健志からの最終通達のごとき
メッセージが送られてきていた。
「ええい! もうどうにでもなれ!!」