****突破口****(30)
楽しきデートも終わり、
告白も未遂のまま夜が訪れる。
あることに気付いた俺は
何もし得ない自分を苛んでいた。
「っぅう……俺はどうして、
こんなにも莫迦だったんだろう」
雨戸も下ろしてカーテンも閉じた。
そして布団にくるまり、枕を泣き濡らす……。
真っ暗だ、部屋も心も頭も何もかも。
ここ数日俺は泣いてばかりで、悩んでばかりいる。
貴重な高校生活を惰眠と泣き伏すのに
やつすなど愚の滑稽……
なんてジョークもちっとも笑えない。
陰惨な俺の心が晴れることはあるのだろうか。
いっそもう男に戻れないままでいる方が
約束も守れない自分にはお似合いかもしれない。
「そうだ、それでいいや……」
口の端だけが持ち上がって、にへらと笑った。
きっと今の俺を見たら、
健志だって神だってもさい、と嘲笑するだろうな。
『……約束三つを挙げさせてもらうよ。
一つ目は、俺の生活を守ってくれること。
二つ目は、犯罪行為に荷担させないこと。
三つ目は――』
『分かりました、約束しましょう――』
「…………え?」
頭の中で、
「声が……聞こえた?」
今のって……。
それは紛れもない突破口だった。
この最悪に惨めで
最低な事態を収拾する唯一の方法。
恐らくは、
現実的には絶対あり得ない非現実そのもの。
しかしそれが、俺には……いや。
「〝私〟には使えるんだ」
こうしちゃいられない。
俺は素早く上体を起こすとカーテンを引き、
雨戸を上げた。
窓の外には淡く光る数多の星々が
地上をぼんやり照らしている。
こういう星の美しい夜には月がいない、新月だ。
俺は月の光を受けて変身する狼男でもなければ、
ほんの一回だけはただの人間でもない。
俺は、神に恵まれただけの一少年だ。
「神、起きてるんだろ? 出てきてくれ」
扉に背を向けて言い放つと、
間もなくキィィという僅かな音が響いた。
確かめるまでもないが、
俺はその主に向かって宣言する。
「俺はもう忘れてきた過去から逃げない。
その責任も罰だってちゃんと受け止めるから、
だから……」




