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急募:屋根から降りる方法

これでこの物語は最後です。

ここまで読んでくださった方も、初めて読んだ方も、みなさんありがとうございました。


 ブラウに置いてけぼりにされた京一は、とりあえずなんとなくかっこつけてのぼった屋根から降りようと思ったが、考えるとあの超人女がいなければ、屋根からも降りられないのである。前途多難だ。

「おいキリカ。どうするか」

「ぐえっ。なんだけいいちも腹へったのか?」

「はあ……お前なんとかしてくれよ。ヒロインだろ?」

「何いってんだ? けいいち、あほなのか?」

「必要な時に使えねえ奴だ」

「そうでもないぞ」

 突然聞こえた第三者の声に、京一はぎょっとしてそちらを振り返った。だがそこには誰もいない。やはり向こうの景色が広がるだけだ。

 しかしその何も無かった空間が次第に揺らぎ始め、人型の何かが浮き出てくる。

「おっさん」

「おっさんではない。ウェズデム。知性ある者だ。妻はウェズと縮めて呼ぶがね。しかしそれは特別親しい間柄のみに許される呼称故、君は私を敬意を込めて、プロフェッサーと呼ぶがいい」

 相変わらずの減らず口に、高飛車な態度。先日の死闘がまるでなかったかのようだ。

 ウェズデムは足を組んで堂々とそこに座っている。

「もうリベンジかよ。しつこいぜ」

「残念だがリベンジはもう少し後回しだ。現在【ノーフェイス】は絶賛修理中。しかも修理できるのが私しかいないため、今は中断している。見ろこのパワードアーマーを。【ノーフェイス】が完成するまでの試作品として作ったまがい物だ。とりあえず着用しているだけだ。この方が落ち着くからな。いや、だが軽視してもらっては困る、こう見えてもこの試作機は君たちの世界の技術力では実現できない高度な技術を利用していて――」

「あーいい! どうでもいいから!」

「……そうか? せっかく私の貴重な講義が聞けるというのに」

「俺は勉強は苦手なんだよ。で、何しにきたんだ?」

「ああそうだった、忘れていた。いやはや、私がこうしてここにいるのも、その少女の導きなのかな、と思ってね」

 ウェズデムがキリカを見下ろすと、キリカは威嚇する猫のように怯えながら、京一の背中の後ろへと隠れていた。

「安心しろ。昨日も言ったが、とりあえず君たちを殺すのは諦めた、もっと複雑な作戦を練ってこなければ無理だと判断したからな。そもそも、あんな化け物を最終手段として呼び寄せるこの少女をどうやって殺すのか、私には検討もつかんが……まあそれはいい。おいおい考えるとしよう」

「まだ殺す気があるんだな」

「もちろんだ。この異世界同士が繋がっている状況は、やはりどう考えても危ういからな。何かしら他の方法が判明するまで、君たちを殺す事が第一目標だ。そして私は一度決めた目標は、どんなことがあってもやり遂げる。天才に最も重要なものは不屈の精神だからな」

「結局精神論かよ」

 京一はとりあえずそうつっこんでおいた。そう誘われている気がしたから。

「これを」

 ウェズデムは、そのナリに似合わない、A4程の茶封筒を差し出した。

「な、なんだよ? また爆弾か?」

「ほう、それはいいアイディアだな。やればよかった。やはり君たちの創造力には驚かされる」

「誉めてねえよな」

「なに、中を見ればわかる」

 言われて京一は恐る恐る茶封筒を手に取り、中をのぞき込んだ。そこには数枚の紙切れと、一枚のカードが入っている。

「これは?」

十院(といん)京一(けいいち)は死んだ。少なくとも書類上はそうなっている。だろう?」

「そうだけど」

「だがまあ私の手に掛かれば、そんなデータなどいくらでも改竄(かいざん)できる。なので君の新しい戸籍を用意しておいた」

「おい。犯罪だぞ」

「私はこの世界に存在しないものだからな。法律では裁けない」

「偉そうに言うな」

 京一はばしっとウェズデムは叩いたが、彼のその鎧の堅さに、自分の手を痛める。

「この日本という国のとある地方で、移籍学生募集というのをしていたのだ。要は人口の少ない田舎町が、過疎化を防ぐために若者の生活支援を前提に、自分の土地へ来て暮らしてみないかという制度だ。それを利用すれば、親元を離れて一人で暮らしていてもおかしくは思われない。しかも学生寮で生活も支援してもらえて、学校にも特別編入させてもらえるというおまけ付きだ。いやはや、君たちは未開人だが、アイディアが素晴らしい。面白いことを思いつく」

「おいおい、ってことは何か? 俺にその地方に行って一人暮らしをしろっていうのか?」

「コレクト。正解だ。今やこの国ではアンバサダーなるもののおかげで、地方へ移住する若者も少なくない。その移籍学生支援制度を利用して地方へ勉強に出るのも当たり前の時代になってきた。それならば誰も君を知らない土地で、君の素性を疑わない人間関係の中で、問題なく暮らせるのではないだろうか」

「……確かに、そうかもしれないけどさ」

 京一は中から一枚のカードを取り出してそれを眺めた。学生証のようなもので、移籍学生証明と書いてある。そして左側には自分の顔写真が貼ってある。どこから引っ張ってきたのだろうか。

「ぐえっ」

 その移籍学生証明の所在地欄を見て、京一はキリカと同じうめき声を上げた。


 そこには島子(しまね)県と書いてある。


「マジかよ……」

「何だ。何か問題でもあったか? 良いところだと聞いているが。だがしかし既に君の移籍資格は取ってしまった。住まいもこれから通う学校も既に決まっている。少なくともあと数年は問題なく暮らせるだろう」

「キリカはどうするんだ?」

「それも妹として組み込んである。設定を言えば、アンバサダーに憧れて地方での生活に興味を持った少年が、移籍学生支援制度に応募して小さな妹を連れて移住。そこで新たな学園生活を送るというものだ。といっても保護者や親元の住所などは全てダミーだがね。だから君は十院京一であり、十院京一でないのだ。同じ名前同じ容姿を持ってはいるが、君はそこで死んで葬式を行っている十院京一とは別の存在……ふふ、まるでその少女のようだな」

 一人で言って笑って、ウェズデムは立ちあがった。

「とにかく、私ができることはした。君はここを離れて遠い地方で暮らせば良い。問題無く生活できるはずだ」

「えらく親切だな」

「勘違いしてもらっては困る。ただ君たちの居場所がわからなくなっては困るのでな。私が把握しやすい場所をあえて提供させてもらっただけだ」

 カシャンカシャンと、ウェズデムのパワードアーマーの関節部位が口を開いていき、そこからいかにもジェット噴射しそうな丸い口が顔を出す。

「ではハッピーニューイヤーだ。少年。しばしの別れだが、何、君たちは死ぬ事はないさ。何よりまた別の土地で、新しい物語に巻き込まれていくことだろう。休む間もないほどにな。だがまあ、運命がやってくるその時まで、余計な事は考えず人生を楽しめばいい。私はこれから帰って、知り合いをうちに招いてパーティーをするんだ。おっと、早く帰らねば準備が間に合わない。実は私はパーティーでショーを企画していてね。新しく開発した商品を大々的に紹介するつもりなんだよ。だがそれには――」

「さっさと行け。間に合わなくなるぞ、おっさん」

「……ふむ、確かに。たまには良い事を言うな未開人」

「あ、あと」

 飛び立とうとするウェズデムを、京一がそう呼び止める。

「結局、あの時のスタジアムで死人は出てないんだってさ。一応伝えておく」

「……ほう、この世界の人間はなかなかに頑丈だな」

「ほんとにな」

「それではもういいかね少年。アデューだ」

 ボウッ、とジェット噴射を爆発させて、ウェズデムは上空へと飛び去っていった。だが試作機故だろうか、勢いよく飛んだ割に、上空でふらついて、一度近くの電柱に思い切り衝突していった。なんとも格好のつかない去り方である。

「悪い人間を演じるのも大変だな……」

「ぐえっ。キリカあいつきらいっ」

「おうおう。今度絶対顔殴ってやろうな」

 京一はもう一度封筒の中身を確認して、自分がこれから取るべき行動を確認する。

島子(しまね)県か……あいつを散々馬鹿にした手前、行きたくない……けどしょうがないか。幸いあっちに行くまでのお金は入っているみたいだし、向こうに行けばどうにかなるんだろうし。そこはあのおっさんを信じよう」

 封筒の中身をしまって、京一は前を向いた。とりあえず考えるのはやめて、やることをやってみようと思ったのだ。

「それに、こいつがいればどうにでもなるんだろうしな」

「ぐえっ」

 キリカは嬉しそうに京一の肩へと登り、そこに(また)がった。

「よし行くか。シジミ食べ放題だぞキリカ!」

「ぐえっ! 食べるっ! すすめー!」

「……うん」

 勢い良くそう言い出したものの、だが京一は一歩も進まず、ゆっくりと下を見下ろした。

そして小さくため息をつき、ぼやくように言ったのだ。


「とりあえず、誰か屋根から下ろしてくれ」

続きを書いてみたい。。。異世界にも行かせてあげたいし。

でも別の話も書きたい。。。いろいろ悩んでいます。

とはいえ、ひとまずは本当にありがとうございました!感想とかいただけると布団で悶えて喜びます!!


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