表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

異世界へ……?

プロローグです!!!!です!!!!


 1月1日。元旦。


 新年明けましておめでとう――――と、誰もがえんやわんやとお祭り騒ぎをするこの日。京斗(きょうと)の街は新年を迎えた喜びに、街中を(きら)びやかに彩っていた。老若男女、その誰もが笑顔をこぼし、街を練り歩いていた。

 だがその街の中心から少し東に外れた一角に、この祝うべき日に相応しくない黒く塗りつぶされた場所があった。それは白く四角い建物で、正面にはメモリアルホールと施されている。そしてその下、正面入り口の脇には『十院(といん)家』と大きく書かれた立看板が置いてある。

 そこには黒い服を着た人々がぞろぞろと集まり、周囲は重苦しい空気に染まっていた。誰もが下を向き、誰も笑ってなどいなかった。


「これで良かったのか?」

 その様子を、少し離れた建物の屋根から見つめる三人の人物がいた。その青い髪の女は、冷たい凍るような目つきでそう、隣にいた少年に声をかけた。

「こうしないと、皆に迷惑をかけちまうからな……これでいいんだ」

 その少年――十院京一(けいいち)は、言葉とは裏腹に、少し寂しげな表情でそう言った。彼の視線の先では、彼自身の通夜が行われていた。そこに集まっている人々はみな、京一の良く知る人物たちだ。

「けいいち、何でみんな泣いてるの?」

 京一の横でちょこんと座りこんでいる少女が尋ねた。少女は京一の服をつまみながら、らしくない大人しい様子で座っている。無知な少女にも、今目の前で行われている事がどんな事か、雰囲気は伝わっているようだった。

「なんでだろうな……こんな馬鹿一人死んだくらいで」

 京一は目を細めた。人だかりの中には京一のクラスメイトや担任の教師らもいた。

 視線をずらせば、あの祝部(ほうり)(かんざし)までが、制服を着用してそこにいた。死を偽装するために利用した彼女は、今まで見た事もないような落ち込んだ表情で顔を落としている。

「なんつー顔してんだよ……似合わない」

 京一は何かを誤魔化すように無理矢理そう言って笑った。

 偽装とはいえ、まだ十代半ばの女の子に自分の死を見せつけたことに、後悔は残る。彼女にとってトラウマになってしまう可能性もなくはない。ただそれだけが気がかりだ。

 来賓の中に、大柄な無精髭(ぶしょうひげ)の男を見つけた。それは京一が世話になったホームレスの男、タイショウだった。彼は着慣れないスーツを着用し、らしくない暗い面持ちをしていた。

 そして京一の両親も見える。義母はすすり泣くように下を向き、父はそんな母を支えながら、来賓らに一回一回頭を下げていた。

 大丈夫だと高をくくっていたのに、胸がじわりと締め付けられる。

「家族にとってさ。俺は(かせ)でしかなかったんだよ」

 京一は一人、そう語りだした。

「俺がいなかったら、きっとあの人達は幸せになってた。新しく子供が生まれて、その子と三人、仲良く暮らしていけてた……そしてこれから生まれてくる家族の名前なんて考えながら、にこにこと楽しそうに生活してたはずなんだよ」

「……子供が、生まれるのか?」

 こくり、と京一は頷く。

「お腹の中に子供がいるみたいだ。俺のせいで新しい子供を作るのを躊躇(ためら)ってたみたいだけどな、やっと踏ん切ったみたいだ」

 京一は母のお腹に目をやった。まだ目を見張る程大きくはなっていないが、確かにそこに新しい命がある。京一の妹か弟かがそこにいる。

 彼女が大晦日のイベントに着いてこられなかったのは、それが理由だ。以前の事もあり、両親は妊娠ということにかなり慎重になっている。

 ウェズデムもまた、それに気付いていたのだろう。だからこそ、京一を脅した。あれは両親を殺すという脅し以上に、再び生まれ来る家族を殺すぞ、という京一にとって一番効く脅しを選択したのだ。抜け目ない。

「そろそろ行こうぜ」

 京一は踏ん切りをつけるように立ちあがり、背中を向けた。

「約束通り、助けてくれた代わりに、キリカと一緒に俺はあんたの世界、アインヴェルトとやらに移住する。それでいいんだろ?」

 そう。それは京一がブラウに協力してもらうために出した条件。

 京一は死ぬ死なないに関わらず、この世界を去る決まりだったのだ。ブラウは彼女の探し人であるゼノを自分の世界に連れて帰りたい。でもヒロインという概念である少女は、不思議な力に守られているため、おそらく自分の世界に強引に連れ帰ろうとしても不可能。

 ならば、主人公である京一とセットで、移住するという形を取ろうと考えた。そうすれば、ゼノを自分達の世界に連れ戻すことができる。それはブラウなりに思案した末に導き出した答えだった。

 だが――

「あの約束はもういい。反故(ほご)にする」

「え? いいのか? こいつを自分の世界に連れて帰りたいんじゃなかったのか?」

「私も頑としてそう思っていたが、だがこうしてしばらく接してみて分かったことがある。この子は、ゼノじゃない」

 ブラウはきょとんと見上げるキリカの頭を、優しく撫でた。

「キリカだ。な?」

「うんっ」

 普段見せない優しそうな表情でキリカを撫でるブラウを、京一は物珍しそうな目で見つめた。

「私にヒロインだ何だという仕組みはよくわからないが、でもこの子は多分ゼノじゃない。それは理解できた。だから私はこの子の意志を(ないがし)ろにしてまで、自分の世界に連れ戻りたいとは思わない。連れ帰っても、もはやあの日々は戻ってこないのだから」

「……そうか」

「それに貴様の言ったとおり、私もこの子が物語を呼び寄せているんじゃなくて、何か物語が起こるべき場所に引き寄せられてきているんだと思う。だからきっと、この子がこの世界で貴様の隣にいるべき理由がある。ということは、無理矢理私の世界に連れ戻っても、きっと運命はこの子をこの世界に引き戻す……それじゃあ意味がない。だから、様子を見ることにするよ」

「様子?」

「そう。これも貴様の言う通り、私たちはこの子に関して何もわかってはいない。ならば、この子がゼノとしての意識と記憶を取り戻すことだって、充分にあり得る。あの時、貴様のピンチにこの子が呼び寄せた私の世界の神オーディン……あれは不動の神として有名だ。聖域から出ては来ない。だがしかし、神は聖域から出て、自らの意志でこの世界までわざわざ出てきた。そして貴様を、いやおそらくキリカを助けてくれたのだ。キリカがまだゼノだったころ、この子は不思議と自然に愛される子だった。そして神々をも(とりこ)にし、この子のおかげで私たちは神々と会話し、そして和解する事ができたといっても過言ではない」

「じゃあその神様ってのが、キリカをゼノとして助けに来たっていうのか?」

「……わからない。でも神々はこの子とまだ繋がっている。私と同じようにゼノと間違えているのか、もしくわ全てを超越している神には、キリカもゼノも同じだと理解しているのか……私はその辺りを神々に聞いてこようと思う」

「そんな簡単に聞けるもんなのか?」

 ブラウは首を横に振った。

「再び果てしない旅となるだろう。神々と私たちを繋ぐ存在であったゼノがいない以上、さらに過酷な旅となる。神の御許(みもと)へ辿り着いても、会ってくれるかどうかさえわからん。だが私はまずそうして確信を得なければならないんだと思う。この子がゼノなのか、何なのか……おそらく神なら、知っている。それを確認しないことに、私は勝手なことはできない。そう思う」

 ブラウは名残惜しそうにキリカから手を離し、自分の目の前に手を捧げた。すると空間が歪み始め、彼女の世界アインヴェルトへの扉が開かれる。

「そういう事だ。とりあえずは、貴様にその子を預けておく」

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺はあんたの世界に行けると思ってあてにしてたのに、じゃあ俺はどうするんだよ? 家もなけりゃ、もう戸籍もないっつうの!」

 慌てて京一はキリカを抱き上げてそう言った。しかしブラウは異世界への扉へ片足を突っ込みながら、

「貴様は主人公なんだろう? だったらどうせ、どうにかなるさ。じゃあな」

 と、何の躊躇(ためら)いもなく、ブラウは異世界へと戻っていった。

 異世界への扉は消え失せ、もはや正面にはたくさんの屋根が広がっているだけだった。

「嘘だろ……結構楽しみにしてたのになあ……異世界」

「ぐえっ」

「いつ行けるんだろ」

「はらへった」

「はぁ~~~」

 幼子と二人。残された京一は大きくため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ