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神VS変人

 歪みの奥から顔を出したのは、なんと表現すればいいのか、どんな表現をもってしても粗末で無礼にしかならないような、見た人間しか理解し得ぬ、圧倒的な圧迫感を持った存在だった。

 顔はある。身体もある。全長は優に数メートルはあるだろう。


「まさか……どうしてあなたがこんなところにおられるのですか! オーディンッ!」


 それは全てを統括せし者。全てを寵愛せし者。

 全ての主であり、その存在が全てである。

 ブラウが暮らすアインヴェルトに棲まう、全知全能の絶対神――オーディン。

 全てを見透かし、全てを把握するかの世界の神は、ブラウも一度だけ、たった一度だけ相対したことがあった。

 それは彼女がアインヴェルトを守るため、最終的に辿り着いた英明の地でようやく出会えた存在だった。 ブラウらは一度全てを無に返そうとするオーディンと戦い諭し、そして死の淵に瀕してようやく、一刻の猶予を得た。たったその猶予を得るためだけに、ブラウらは全てをなげうったのだ。そしてそれが最後の戦いとなった。

 心から二度と相対することのないように願っていた存在だ。

 しかしその神が今、動かぬ神が何故か、今異世界に訪れた。

 ブラウはキリカを見下ろした。おそらく彼女が、異世界を繋ぐ存在である少女が、異世界の絶対神をも、呼び寄せたのだ。

 たった一人の少年を守るために。奇跡を。

 歪みから現れたオーディンに、その場にいた誰もが、ウェズデムさえ直感でやばいと感じ取った。そして彼は全身から吹き出る汗を感じ取りながらも、動けないでいた。

 ただ見上げ、ただ待つ。

 本物の神に対して人間ができるのはそれだけだった。

 きょろり、きょろり、とオーディンはその瞳であろうものをゆっくりと動かし、そしてウェズデム見つめた。

「く、くだらない……くだらないくだらないッ! 神など、存在しないッ!」

 震える足を無理矢理動かし、ウェズデムはオーディンに叫んだ。

「神などいないと、必要ないと私が証明してみせよう!」

 ウェズデムが腰の両側辺りをさすると、ウェズデムの鎧が緑色に光った。そしてそのパワードアーマー【ノーフェイズ】から、人工音声が響き渡る。

『Ready?』

「Go」

 ウェズデムの合図と共に、【ノーフェイス】が見る見るうちに姿を変えていく。そして丸く艶やかなデザインだったそのパワードアーマーは、瞬く間に全く別の、刺々しい攻撃的なデザインへと変貌を遂げた。その異名である何もないフェイス部分にも、目と鼻、そして口が現れる。そして全身を駆け巡るように引かれたラインが、緑色に強く発光する。

 ボウッ――ウェズデムが上空に飛んだその衝撃だけで、残された清水の舞台が吹き飛んだ。辺りは緑色の光の粒子に包まれ、それはまるで蛍が飛んでいるかのような場違いな綺麗さだった。

「ぐぅぅ……くたばれ!」

 あまりの速度に、中にいるウェズデムでさえ身体を酷使する。彼が使用する【ジェノサイドモード】は、その名の如くあらゆるものを殲滅するための最終手段だ。

 ウェズデムが一瞬にしてオーディンへの射程範囲へと近づくと、全身の砲門を開いて容赦無く攻撃を見舞った。銃弾、砲弾、爆弾にレーザー。ありとあらゆる兵器を、止めどなく神に撃ち込む。

 爆風が巻き起こり、何十メートルも下にいたブラウたちをも吹き飛ばそうとする。

 だがその爆風が一瞬にして吹き飛び、中から全く無傷の神が姿を現す。そして神がぶつくさと何か聞き取れない言葉で呟くと、ウェズデムは信じられないものを目にした。

「な……ありえない……」

 ゴゴゴゴゴ、と確かな音がさらに上空から近づいてくる。


 それは隕石だ。


 天変地異と呼んでもいい現象が、今ウェズデム目がけて落ちてきている。

 まさに神の所業。

「この星を、壊す気かッ!」

 降り落ちる隕石に対し、ウェズデムはそれに向かうように飛び上がった。そして全身を使ってそれを押しとどめる。身体からは溢れるように緑の粒子が下へと流れていく。

「ぬぅぅぅッ! さすがに、(こた)える……!」

 ウェズデムは自らの腕を思い切り隕石の中へと埋め込ませた。

「まだ試作品だったが……致し方がない」

 そして埋め込んだ腕の手の平から、極小のミサイルを撃ち込み、それは隕石の中を突き進んでその中心の辺りで止まった。ウェズデムはそれを確認して、隕石を蹴りつけて急ぐように距離を取った。

 すると撃ち込まれた極小ミサイルが爆発し、膨大な質量の隕石を内部から爆破させていく。しかしその爆発は隕石全体を包み込んだところで止まり、今度は一気に収束するように縮んでいき、黒く塗りつぶされた中心へと吸い込まれていく。そして今までそこにあったはずの莫大な石の塊は、一瞬にしてその場から消え失せてしまった。

「特製のブラックホール弾だ。周囲の物質を全て飲み込んで消え失せる……」

 得意気にそう言ってみたものの、しかしウェズデムの力の源だったライン上の緑色の発光が一気に陰りはじめ、ついには消えてしまう。

「く……もうタイムアップか……」

 そしてウェズデムはふらふらと、地面に何の抵抗もなく落ちていき、(わず)かばかり残った清水の舞台へと打ち付けられた。

 ウェズデムの視界の先には、未だ沈黙してこちらを見下ろす神がいた。

「駄目だ。もう腕も上がらん。好きにしろ」

 ウェズデムはヘルメットパーツを外し、顔をすべて露わにしてそうぼやいた。彼にとって、考えるまでもなく直感で理解したのは、どうあがいても適わないという事だった。神だとかなんだとか、そういった小難しいことなど考える以前に、そもそもあの存在に自分は、いや誰であろうと適いはしない。

 それを悟らされた。

 しばし思考するようにウェズデムを見下ろしていた神オーディン。すると神の背後の空間が歪み始める。

「……帰る、のか?」

 オーディンはそれ以上何をする事もなく、歪みの奥へと舞い戻っていく。

「ばいばーい」

 そんな場にそぐわない明るく無邪気な声で言ったのは、キリカだ。彼女は扉の向こうへと戻っていく神にそう言って、手を振った。すると気のせいだろうか、オーディンもまた、キリカに返事をするように、手らしきものを振り返したように見えた。

 そして神は自らの世界へと帰っていった。

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