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ラストバトル

いよいよ決着……!?

「なるほど……そういう理屈か」

 ブラウの話を聞き終えたウェズデムがうなった。

「しかし少年、それは賭けだ。君が世間的に死んだとみなされたところで、それを受け入れた家族や友人らに君の物語が影響しなくなる保証はない」

「でもそれが一番可能性としては高かったからな。あんたも言ってたろ。もしこれが駄目なら、また別の方法を考える。そういうことだ」

 京一はしてやったりの顔を浮かべてウェズデムを睨み返した。

「ふ、ふふふ……はっはっはっ! この私が、(だま)されるか! はっはっはっ! なかなかに面白いぞ、少年!」

 ふわり、とウェズデムの身体が持ち上がる。地面に手をついたわけでもなく、まるでマッチ棒を立てるように、鎧から吹き出でた風圧の力で立ち上がる。

「そうか。この私の提案よりも魅力的な提案か。野蛮人。君は彼に協力する見返りに、何を提示された?」

「貴様に教えてやる義理などないさ」

「私に協力して世界を守ること以上に、大切な事があるとでも?」

「あるさ」

 そう答えたのはブラウではなく、京一だった。彼はウェズデムにその刃の切っ先を向け、自信満々に言い放つ。

「それは、何だ?」

「あんたに話したって、納得しねえだろうよ!」

 ぶおん、と容赦無く振り下ろされる剣。ウェズデムは身体を捻って避けて浮き上がり、京一に銃弾を見舞った。だがその銃弾は京一に当たると弾かれるようにして地面に落ちた。彼を(まと)うように、光の膜ができていることにそこで気がつく。

「そうか、これのおかげで私の追い打ちから生き延びたのか……野蛮人め余計な事を!」

「おかげさまでな!」

 不意を突けなければ、京一の剣術はお粗末極まりないため、ウェズデムには当たらない。ウェズデムは稼働可能な部位を存分に利用して、身体を縦横無尽に動かした。

「少しの故障で動かなくなる程怠けた代物ではない!」

 京一のこめかみに、銃口を突きつける。チェックメイト。

「私を忘れるな」

 しかしそこに割って入ったのはチェス盤上のどの駒でもない、異質な存在。

 ブラウはウェズデムの首元に剣を振るった。

「ぬうっ!」

 それをウェズデムは必死に腕を回して止めた。しかし刃を掴んだ部分が、ギギギと音を立てる。ウェズデムの鎧は物理的には無敵だが、しかしブラウの世界の魔法染みた武器能力には相性が悪い。

「片手がないと不便そうだなっ!」

 その隙を逃さず、今度は京一がウェズデムを【ユングフラウ】で狙った。

「私を、舐めるなよ! 未開人!」

 ブオン、と足裏のブーストを最大噴出して足を持ち上げ、京一の身体を思い切り蹴りつけた。あまりの勢いの蹴りに、京一の身体はバキボキと音を立て、まるで漫画のように吹き飛んだ。

「今度は君だ。君の弱点は把握している」

 突如、ウェズデムの鎧から奇怪な音が響き始めた。その聞いているだけで耳を抑えたくなるような不快な音に、ブラウは初めて表情を歪ませる。

「な、なんだ! これはっ!」

 ぎりぎりを歯ぎしりをし、ブラウは脳を揺らすその音を耐えようとする。

「物理攻撃が通らずとも、音は通るだろう」

 ブラウの剣を握りの弱くなった手からはじき落とし、ウェズデムは大きく跳ね上がって身体を回し、全力での後ろ回し蹴りをブラウのこめかみに見舞った。不快音のせいで能力を上手く使えないブラウは、防御神術を上手くかけられず、その衝撃を逃がすことができなかった。 

 ガガガガガガッ――とブラウの身体が清水の舞台を削りとりながら吹き飛んでいく。

「まさか、既に勝負はついたとでも思ったか? この程度で。未開人と野蛮人に負ける程、私は柔ではない。確かに正義はそちらにあるのかも知れんが、ここで私が勝つという物語もまた、充分にありうる話だ」

 沈黙――その場に立っているのは、窮地であったはずのウェズデム。京一も、ブラウも、立ってはいない。が――。

「ねえよ」

 京一が、立ちあがった。

 全身から血を流し、死んでいてもおかしくないその状況で、しかし彼は立ちあがった。

 そして堂々と言い放つのだ。


「俺が主人公だ。だからあんたはここで倒す。絶対だ」


「……素晴らしい気迫だ。主人公というだけはある。が、残念ながら君は主人公として圧倒的に力が足りない。私、少なくとも野蛮人程度あればまだしも、君はあまりに無力だ」

 パアン――と、ウェズデムは単発の銃弾を放った。

 しかしそれは京一を狙ったものではなく、その側で横たわる少女、キリカに対してのものだった。

「ぐぅぅ……」

 だが銃弾はキリカには当たらず、キリカを守るように身体を広げる京一の背中にヒットした。カラン、と京一は決して手放さなかった【ユングフラウ】を、地面に落とした。それは舞台の下へと落ちていき、もはや拾うことすらかなわなくなる。

「ヒロインを守るために主人公が死ぬ。素晴らしい美談じゃないか」

「……けい、いち?」

「キリカ」

 目を醒ましたキリカが、全身ボロボロで血を垂れ流す京一を見上げきょとんとしていた。

 現状が上手く掴めないのだ。そんなキリカを見下ろし、京一はふと笑ってみせた。

「悪かったな、キリカ」

「けいいち。泣いているの? いたいのか?」

「ああ痛い。誰も守れない自分が酷く情けなくて……辛かった」

 笑顔のその奥から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 京一はその目に、生まれてくるはずだった妹を見ていた。

 十院霧華を。

 キリカの姿に、その姿を映してしまっていた。

「何度も謝ろうと思った。何度も忘れようと思った……でも、無理だった。俺はずっと逃げてた……後ろ向いて立ち止まってた」

「けいいち」

 京一は身体を反転させて、キリカに背を向けた。

 そしてウェズデムを、強く強く……睨み付けた。その目にはもう涙は残ってはいない。

「でも後ろを向くのはもうやめだ! そろそろ前見て歩かないとな!」

「ふん。言葉遊びだな。何の意味も無い感情論だ、くだらない」

 決意した京一を、ウェズデムは笑うように切り捨てた。

「精神論をいくら語ろうが、君の力が増えるわけでも、私の気持ちが変わるわけでもない。全く無駄な行為だ」

「うるせえ!」

 足をなんとか持ち上げて、京一は立ちあがる。彼が動く度に、身体からぼたぼたと血がしたたり落ちる。

 どれだけ強がったところで、相手を欺しきったところで、京一の身体はただの一般人なのだ。

 何も持たない、ただの人間なのだ。

 ――なのに――京一は立ち向かう。

 圧倒的な存在に、心の刃を向けて下さない。

 下すつもりなど、毛頭ない。

「人から感情を抜いちまったら、何が残るってんだッ! あんただって言ってたろ! 知りたいって欲求が、人類を進化させるって! それは、大事な感情じゃねえのかよ!」

「私たちは感情を引き金に、実際的な動きを示して何かを生み出す。君たちの感情一つで全てを語ろうとするのとは全く別の話だ。君のように感情一つで目の前の命を殺してしまうようなのが、愚か極まりないと言っている」

「ああ、俺は大馬鹿もんだよ! 救いようのない、クズだよ! でもな、一人の女の子ぐらい、守りたいんだよ!」

「それで世界が滅んでもか?」

 その問いに京一はぺっ、と口の中の血を吐き捨てた。

「知らねえな。俺はあんたらみたいに天才でも英雄でもない。俺なんかにできることは、目の前のことに遮二無二ぶつかってくだけだ……それ以上の事なんて俺に要求すんな!」

 ダッ、と京一は走り出した。もはや押せば倒れる程の身体なのに。

「みっともない主人公だ! 無責任にも程がある! やはり私は君を殺すよ! それが何ら間違いでないことを、正義であることを確信したッ!」

 ガガガ、と容赦無く銃撃を見舞うウェズデムに対し、しかしそれは京一の脇をすり抜けて地面に着弾する。まるで何かに守られているように。

「ぬぅ! これも主人公故か!」

 ウェズデムが今度は手の甲のハッチを開き、そこから緑色の光線が放たれる。

 ヴィィィィィィィ!! とその緑色のビームは地面や壁を一瞬にして焼き消し、それを京一は反射的に身体を前に投げ出して避けた。

 だが縦横無尽に切り裂かれた清水の舞台が、京斗(きょうと)の誇る歴史建造物が、呆気なく闇夜へとくずおれていく。


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