荒唐無稽な物語
京一は全身をぼろぼろにしながら、しかし不敵な顔でウェズデムを睨み付けていた。
「考えろよ、お得意の推論でな」
「馬鹿な! 貴様の死は確認したはず! 確かに生命活動を終えていた! ……そうか。君が生きていたから、だから扉は消えたのか。物語が、私たちを帰すことを拒んだのか!」
「違う」
「なに?」
「物語は終わった。十院京一は死んで、全部終わった……ここからは、新しい物語が始まる!」
ダッ、と京一は駆けだした。
京一はその手に一本の西洋剣を握りしめていた。それを両手でしっかりと掴み、ウェズデムの間合いに入った瞬間、思い切り振り上げた。
当然ウェズデムはその勢いに惑わされることなく腕を差し出してその剣を防ぎにかかった――が、それは届かなかったのか、するりとそのまま剣は上空へとかちあげられた。
「新しい物語? どうやらおまけ程度の短いショートストーリーだったようだな」
すかぶった京一に、ウェズデムは腕を向けた。超至近距離。京一は重い剣に身体を振られて、動けない。この距離でミサイルを撃ち込めば――
「……何ッ!?」
しかしミサイル射出を指示したのに、何も動かない。それどころか、パワードアーマーの腕の先が急激に重くなり、ウェズデムはその腕を地面に向けた。するとパワードアーマーの腕の先が、すっぽりと呆気なく抜けるように地面に落ちた。まるで手袋を外したかのように。
切られていた。まるでちくわでも切ったように、恐ろしい程綺麗にウェズデム自慢の鎧がすっぱり切断されていた。そのせいで回路が遮断され、指示が届かなかったのだ。
超稀少人工金属チコウム製の超強度の鎧は、常に動力を全身に血のように巡らせて動かしている。そのため中にいる人間は鎧の重さを感じずに動くことができるが、その動力の道筋を切られてしまえば、それはただの鉄の塊となり、一気に身体にのしかかる。
「何故だ……私の、鎧が……まさか、君が切り落としたとでも言うのか? あんな豆腐を切るようにあっさりと、私の無敵の鎧を? 馬鹿な!」
「知らないのか? 情報不足だな! この世界の主人公は、一回死ぬと強くなって蘇るんだよ!」
振り上げていた剣を、京一は今度は重力に逆らわず、下へと振り下ろした。
太刀筋は素人。だがその剣は強固な鎧をも容易く切り裂く。
しかし振り下ろした剣に、ウェズデムは切り裂かれてはいなかった。呆然の中、かろうじて反応し、全身のブーストを利用して身体を後ろへと運んだ。
が、ウェズデムの鎧のフェイス部分、その右斜め半分が、重力に従ってずるりと地面に落ちた。そしてその下から、四十代ほどの中年のひげ面の顔が半分だけ見える。
彼は肩に担いでいたキリカをゆっくりと地面へと下ろした。
「馬鹿な……そんな馬鹿な話は聞いたことがない! 何だその馬鹿げた物語は! 死んだ人間は生き返らない! それが蘇って強くなるだと? そんな荒唐無稽な物語があるはずがない!」
「残念だったな。あんたはこの世界を甘く見過ぎだ。漫画を読め漫画を!」
追い打ちをかけるように京一はウェズデムに襲いかかった。ウェズデムは迫り来る京一に逆の手を向けて威嚇するが京一は止まらない。堪らず銃弾を何発か放ったが、それは京一が振るった剣に全て弾き落とされる。
「ぬぅっ!」
慌ててウェズデムは太もも横のハッチを開けてビームソードの柄を取り出し、それ――ジェノサイドソードを手に構えて京一の剣を迎えうった。
「――なっ!」
しかしつばぜり合いをするはずだったジェノサイドソードが、その剣と接触した瞬間、光の刃を失いただの柄だけに戻ってしまう。
それに驚いている暇も無く、京一の剣はそのまま勢いを殺すことなくウェズデムの身体を斜めに切り裂いた。
死んだ、と思ったウェズデムだったが、しかし痛みは一瞬だけで、意識は途絶えてはいなかった。ただショックで彼は両膝を地面へとついた。
「どうしてだ……何故負ける……まさか本当に強くなったとでも言うつもりか……?」
その時、ウェズデムはようやく気がつく。
京一の持つその剣。それはどこかで見た事がある。その威力、そしてこの世界のものとは思えない歪な形。無敵の鎧を切り裂くほどの性能。
「ッ! まさか……まさか、お前かッ! 野蛮人ッ!」
ウェズデムはブラウを振り返った。
ブラウはこの状況に一切の動揺を見せず、ただいつものように冷たく口を開いた。
「私は野蛮人ではない。ブラウ=リュヒテインだ。さっさと憶えろ、変人」
言ってブラウはその手を上から下に振り下ろした。
その手に従うように、どこから現れたのか、尖った氷の塊がウェズデムに矢の雨のように襲いかかった。




