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馬鹿にせんとってください

最終章です!

 京斗(きょうと)府京斗市東山区に存在する、清水寺。

 シーズンを迎えると観光客であふれかえるその場所は、歴史溢れる古都・京斗において、最も有名な観光名所の一つと言っていいだろう。『清水の舞台から飛び降りる気持ちで』という言葉でも有名な、本堂から張り出した部分はあまりに有名だ。


 十二月三十一日。大晦日。午後11時。

 まもなく新しい年を迎えようというその時間。先の爆破テロの影響で緊急閉鎖となり、誰もいないはずの清水寺のその場所に、三人の人間が立っていた。

「それでは、そろそろ行こうか」

 白銀の鎧を(まと)った男が、渋く低い声で言った。

「……ああ」

 その横。青く長い透き通るような髪をした、切れ長の目の美しい女が哀しげな表情を見せた。

「……」

 そんな二人に挟まれるように、白髪の可愛らしい幼女が、しょんぼりと顔を落としている。格好は現代風だが、いかんせんその白髪が違和感を感じさせる。

「予定通り、()()は私が元の世界へ連れ帰り、そこで処理しよう」

「これと言うな。ゼノだ。人間だ。最後まで、そう扱ってやってくれ」

「こだわるな。どっちだって一緒だ。それに何度も言ったが、これはもう君の知る少女ではない。姿形は同じでも、中身は別物だ。そしてそもそもこれは生物ですらない」

 白銀の鎧――ウェズデムは大きく肩をすくめた。

「……やはり、私もその場にいさせてはもらえないだろうか。彼女の、ゼノの最後を私も見届けたい」

 青髪の女――ブラウは、下を向く幼女を見つめて言った。

 彼女にとって、ゼノは妹のようなものなのだ。

「それは別に構わないが、何度も説明したように、これを殺した時に、おそらく異世界間を繋ぐ扉は消える。そうなった時、もはや君は元の世界へ帰る術を失うのだぞ? いくら天才の私といえど、異空間を繋ぐ扉を発明するにはいささか時間が足らなさすぎる。あと二、三度人生の猶予(ゆうよ)を与えてもらわなければ。それを待つかな?」

 そう言われ、ブラウは沈黙した。

 異世界間を繋いでいるであろう張本人である白髪の少女を殺せば、その扉は消え失せる。それが自然な流れだろう。それは学のないブラウでも想像がつく。

「よろしい。それでは初めに決めた通りに。安心しろ。私とてまがい物だとしても生物を殺めることに抵抗を感じないわけではない。少女はきちんと、安らかに処理しよう。苦しめはしない」

「……本当だな? ゆっくりと、眠らせてくれるんだな?」

「もちろんだ。約束する。こんな下らない物語に付き合ってもらったせめてもの礼だ」

 ブラウはじっと考えるように瞳をつむり、小さな声で「わかった」と呟いた。

「悔いるなよ。あの少年をだまし殺すことは、私たちの責務だった。世界の秩序を守るためのな」

「わかっている。それはもう納得している」

「本当か? ならいいが。とにかく目的は果たされた。それでは、互いに互いの世界の平和を祈って。もう二度と会うことはないだろう」

「ああ」

 二人はそう言って、それぞれ別の方向を向いた。

 そしてウェズダムはその手を、ブラウは持っていた剣を正面にかざした。するとその正面の景色がぐらりと歪み、渦巻きのようなものがあらわれる。

 それは異世界への扉。

 そこにあって、そこにないもの。普段は絶対に見えないし触れないが、認識してしまえば、いつでもどこでもそれは現れる。


「あんさんやねぇ、うちらの領域(しま)で好きかって暴れてくれはったんわ」


 二人の背後からそんな艶めかしい声が聞こえ、二人はその手を止めて振り返った。そのせいで形がなりかけていた扉が、ぐらりと歪んで消滅する。

 後ろには数人の人間が立っていて、全員がこの世界の標準的なものとはかけ離れた、奇妙な格好をしている。その中でも、顔を白く塗りたくった、純和風の出で立ちの女が一歩前に出て言った。

「ここは天下の京斗どす。あんまし好き勝手やられますと、こちらとしても黙っておけやしまへん。あんさんらは、どこのアンバサダーでっしゃろ? 登録ナンバーは?」

 可愛らしく小首を傾げる女。

 その女を見て、ブラウが険しい表情で剣を向けた。

「何だ貴様は! 精霊の類いか!? いや、そうか……貴様、死者だな!」

 至って真面目に叫んだブラウを横目に、ウェズデムは自身のパワードアーマー【ノーフェイス】に記憶させたこの世界の情報と照らし合わせていた。

「あの格好はこの世界のこの街で有名な、舞妓(まいこ)という生き物らしい。顔を白く塗っているのは、電灯のなかった時代の美的センスの名残だな。中身はただのこの世界の若者だ。彼女らは皆、この世界で流行っているアンバサダーという存在だ」

 ウェズデムは並んでいるアンバサダーらを見渡した。

 どれもこれも、彼には滑稽(こっけい)なコスプレ遊びにしか見えない。自分の考え出した画期的なシステムを、こんなくだらない事に利用されていることに腹が立ち、何よりそれを高みの見物をして小金稼ぎをしているシステムの流用者に虫酸(むしず)が走る。世界の扉を消し去る前に、この世界にいるであろう自分の世界の人間を引きずり出しそれを止めさせる事が、彼にとってあの犠牲になった少年に対するせめてもの償いだと考えていた。

「ふむ。それにしても揃いも揃って気持ちの悪い連中だ。舞妓に武蔵坊弁慶、新撰組に土蜘蛛、その端っこの奴は湯葉か……食べ物まであるんだな。どうかしている。そっちの金色と銀色の格好の二人は、何のアンバサダーなんだ?」

「俺は金閣!」

「俺は銀閣!」

「ふむ。わけがわからん。やはり私にはこの未開人たちの考えることは理解できん」

「何を訳わからん事を……あんさんらはどこのアンバサダーなんどす? 大晦日にあんなことしでかしてうちらの顔に泥塗っといて、黙って京斗から出られる思ってはるんか? アンバサダーが危険物を扱うんはルール違反って知っとりますやろ」

「残念ながら我々はそのアンバサダーとやらではない。それ故、そのルールも当てはまりはしない」

「はて? ほんならどうしてそんなけったいな格好をしとるんでっしゃろ?」

 ブラウとウェズデムは自分のまとっている服を見下ろした。

 しかし彼らにとってそれは極当たり前の衣装で、何の違和感も無いものだ。

「それは……なんと説明したものか。なあ野蛮人」

「確かにお前は変だな。変人」

「君に言われたくない。こんな寒い時期にそんなに肌を露出させて。君は娼婦(しょうふ)か何かなのか? 節度をわきまえたまえ」

「何? これは神々に面会する際に、何も危険な物を隠し持っていないぞと証明するためにわざと肌を露出させているんだ。それに動きやすい」

 ブラウはウェズデムに食ってかかる。

「随分と破廉恥(はれんち)な神だな。露出した女の肌が好みなのか」

「貴様、神をそんな下らない言葉で(おとし)めるなよ」

「ほう、そうしたらどうなると言うのだ。罰でも当たるか? ならやってみろ。全て私が論破してやろう」

「いい加減にしいや!」

 二人の掛け合いを割って裂くように、舞妓のアンバサダーが叫んだ。

「優しいしてやったら、こっちを無視してうだうだうだうだ……うちらのこと舐め腐っとりゃあしまへんか?」

「俺は金閣!」

「俺は銀閣!」

 女に呼応するように、何故か後ろの金銀の男がそう叫ぶ。どうやらそういうキャラ設定らしく、彼らはそれを忠実に守っていた。これもまた、アンバサダーの仕事なのだ。

「わかりました。あんさんらがどこの誰か、それはもう聞きまへん。せやけどな、うちらはうちらの領域(しま)、しっかり守らせてもらいます。これ以上好き勝手暴れさせやしまへんえ!」

 ぴり、っと空気が張り詰める。可愛い顔をした舞妓の女の顔が凄む。それを見るに彼女もまた、ただ可愛いだけのアイドルではないようだ。

 京斗の誇るアンバサダー達が各々の武器を構える。それはおののくに足る迫力だった。

 だがそれをウェズデムはため息交じりに見据え、

「やれやれ。面倒な事になった。素直には帰してくれなさそうだな」

「これも、ゼノの力じゃないのか?」

「ないな。あの少年は死んだ。それは確認した。主人公の死んだ物語に、続きはない」

「それなら良い。とにかくこんなお遊び、さっさと終わらせて元の世界に帰らせてもらう」

 チャキリ、とブラウが高く白い剣――リーヒットを構え、それを見てウェズデムも両手を前に差し出した。

「一分で終わらせる」

「いや、三十秒だ」

「二十秒」

「十秒だ」

 張り合う二人に、アンバサダーらは自分達が馬鹿にされていると強く苛立ちを憶えた。

「うちらに喧嘩売ったこと、後悔させたりましょか!」

 舞妓の言葉に、アンバサダーらは一斉に二人に襲いかかった。


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