追い詰められる運命
気がつけば京一は、タクシーを使い家の近くまで戻ってきていた。
逃げ惑う人たちに目もくれず、ただひたすらに、逃げてきた。
「けいいち、だいじょーぶ?」
汗だくで不安の表情を浮かべる京一に、心配そうな面持ちでキリカが尋ねてくる。だがそんな彼女に何か気の使った返しをできる余裕もなく、それを無視した。
「とりあえず、お前だけでも家に預ける」
逃げるにしても、この少女がいると面倒だ。家の前までつれて行こう。
すると、家が大破している間、京一らが間借りしている知り合いの家の前に、パトカーが止まっているのが目に入った。何か悪いことでもあったのではないかと、京一が足早に近づくと、そこに立っていた刑事のような男が、近づいてきた京一を見て視線を鋭くした。
「あの……何が……?」
「君、十院京一くんやね?」
良い感じに皺の入ったキツめの顔をした男が、威圧的にそう尋ねてくる。
「そうですけど……何か?」
「君今、どこに行っとったんや?」
「どこって、新西京極スタジアムですけど……」
それを聞いた二人の男が、顔を見合わせて頷く。そして何かを決めたように、こちらに一步近づいた。
「つい今し方、そこで大きな爆破事件があったってのは知ってるな? 見る限り、そこから逃げてきたんやろ?」
嫌な予感がする――たまらず京一の足が一步下がった。
「それに関してちょっと話し聞きたいんやけど、ええかな?」
「……俺、疲れてますんで」
「なんで逃げようとするんや?」
「任意ってやつですよね? 答える義務はないはずです」
京一の警戒した様子に、再度刑事らは顔を見合わせる。
「君の家も昨日、爆破事件にあったそうやな? すぐそこの」
「……そうですが?」
「ほんで今日もまた、君の行っとった場所で、同じ爆破事件が起こった……偶然、な」
昨日はさておき、今日は誰もがあの白銀の鎧を見ているはずだ。
この爆破の張本人、ウェズデムを。
しかしその反論が意味をなさないであろうことは、なんとなく感じた。この相手はひとまず自分を捕まえることしか興味がない。
「でもこれはほんまに偶然かなァ?」
そんな偶然、普通はあるはずがない。
そう、普通ならあり得ない。だがしかし、そこになんらかの意図的な力が働いているとすれば、話は別だ。
「君は以前から、新しくきた義理のお母さんとも不仲やったとか。そのことでお父さんとも何度か衝突したて聞いてるで。夜も遅くまで外をふらついているそうやないか。例えば近くの公園にいたホームレス達のところ、とか」
「ホームレス……? それが、なんなんですか」
話が思わぬ方向へ飛び、京一は息を荒くしながら額に汗を滲ませる。じりじりと下がる京一を追い詰めるように、警察は京一にゆっくりと近寄ってくる。
「調べてみたらあそこでリーダー格やっとったホームレスは、昔、高層ビルの爆破解体専門の会社で勤務しとった言うやないか。爆弾の作り方から全部、お手の物や……ほんでそいつと君は随分仲良かったみたいやないか」
「っ……そう、ですけど?」
わざとらしくわからないといった風にそう疑問符を付ける。
だが京一には既に分かっていた。今この刑事が自分の何を疑っているのかを。
「もしかして、連日の爆破事件の犯人は、君ちゃうやろな?」
やはり、刑事はそう尋ねてきた。
「ち、違う! 待ってくれ! 俺じゃない!」
「じゃあ何で君がいたところで連続して爆破が起こっとるんや!? 自分だけまるで知ってたかのように爆発から助かっとるやないか!」
大声を出しながら圧迫するように詰問するその刑事に、京一は後ずさりしていく。
刑事はもはや京一が犯人だと確信したように声を張り上げる。
「あのホームレスに爆弾の作り方でも教えてもろて、鬱陶しい家族もなんもかんも吹き飛ばしてもうたろとか思ったんちゃうやろな!? ああ!? 最近のガキは何考えとるかわからんからな! 何か言うてみいや! 何か喋らんかったら何もわからんで君!」
「……違う、俺じゃ…………!」
この状況で、どう説明すれば疑いが晴れるのだろうか。精神的に追い詰められている京一には、うまく言葉が浮かんでこない。
その時、こちらに歩み寄ってくる刑事の遥か上、京一が身を寄せる家屋の上空に、きらり、と何かが光った。
その小さい、一見、星のようにも見えるそれは――
「また、かよ……!」
ウェズデムだ。彼の装備するパワードアーマー【ノーフェイス】が空に浮かびながら、こちらを見下ろしている。
そしてその瞬間、京一の脳裏に最悪の情景が過ぎる。
ここにいたら、また他の人間を巻き込む。奥から心配そうにこちらを見ている、両親をも。
「くそ……くそっ!」
京一は即座に振り返り、来た道を走り出した。
「おい、待て! 確保や!」
背後から刑事の声が響いてくる。
だだそれらを一切無視し、ひたすらに京一は走った。




